「ただいまー……って、110番110番」




「ええええ、ー!?酷いさー!!」
「黙れ不法侵入者、今警察に突き出してくれる」


大学から帰って来たら、部屋の中に見知らぬ男が待っていた。
しかも、満面の笑顔で。
さっさと携帯を取り出しながら、ラビはどこに行ったと見回す。


……いない?


「ちょっとあんた!うちのラビどこやったのよ!!」
「だだだだから、俺がラビさ!」
「嘘おっしゃい!」
「嘘じゃないってばぁ!!」


ほら、と必死の形相で、男が指を突き出す。

その小指にはまっているのは、間違いなく私がラビに買った指輪。
しかもよく見ると、この格好は初めてラビに会った時と同じものかもしれない。


「……誰?」
、俺のこと忘れちゃった……?」


怪訝な目でじとりと見れば、ラビ(自称)は見る間に涙目になった。
その様子を見ているうちに、何だか頭が痛くなってくる。


この変人、自己申告通りにラビなのかもしれない。


それを確かめるために、とりあえず確認を取ってみることにした。


「昨日のお夕飯は?」
「シチュー!お野菜いっぱいだった!」
「おかずは?」
「おなます!」


……間違いないようだ。
夕飯のことまで知っているのは、私以外にはラビしかいない。


それにしても。


「どうしてそんなに大きくなってるわけ?」
「わかんない!お昼寝して、起きたらおっきくなってた」
「……そう」


駄目だ、これ。
このウサギに何かを訊いたことが間違いだった。

頭痛をこらえてどうしたものかと考えていたら、背後に重たいものが被さってくる。


ー、お腹空いたー」
「……っ!!」


重い!


いつもの調子で抱きついているんだろうけれど、大きさが違いすぎる。
しかも、腕の太さも何もかもが「普通の男の人」と一緒だから、かえってこちらの調子が狂ってしまうのだ。


「ラビ!」
「……?」
「あんまり抱きつかないで!」


動揺が、思ったよりもきつい声になった。
力一杯ラビの身体を振り払うと、その目にみるみる涙が盛り上がる。


「……、どしたん?」
「……う……」


今度は遠慮がちに服の裾をつかまれて、ものすごい罪悪感が押し寄せてきた。

ラビに悪気はない。
いつも通りにしているだけだとは、私だってわかっている。

でもねえ……。


「あのね、ラビ」
「ん!」
「ラビは今、私より大きいでしょ?」
「……ん!」


真面目な表情で、いちいちうなずくラビ。
よく見れば結構顔が整って……って待て待て私。


変な方向に向かいそうな考えを、かぶりを振って振り払う。


「その状態でのしかかられると、かなり重いの」
「……、嫌?」
「重い」
「…………ごめん」


ものすごく悲しそうな顔で謝って、ラビがすいと離れた。
へちょりと眉が垂れ下がって、初めてこれがラビだと実感する。

耳までへたれた頭をわしわしとなでて、下から覗きこむようにして視線を合わせた。


「怒ってないから。いい子にしてた?」
   っ、もち!」


途端に弾かれるような笑顔でうなずいたラビが、褒めてというように飛びついてくる。


「うわっ   こら!」
「偉い?俺、偉い?」
「偉い偉い、偉いから離れなさい!」
「はぁい」


ちっとも反省の色を見せずに笑うと、ラビは手を伸ばして私のバッグを取った。


いつもは危ないからって、取ろうとしても駄目なようにしていたのに。
いくら手を上にあげても、今はラビの方が背が高いから意味がない。


「俺、これ運んどく!」


だからおやつを作っていてと目で訴えられて、仕方がないかと苦笑した。
中身はあのウサギのままみたいだし、こんなちぐはぐな言動も、当然といえば当然なんだろう。


「今日のおやつは?」
「ホットケーキだよ」
「やった!メープルシロップとバター、両方あるさ?」
「あるある」
大好きー!」


ばたばたと戻ってきたラビが、また力一杯抱きついてくる。
フライパンが吹っ飛びそうだってば……!


「離してってば、タネが流れちゃう」
「やだー」
「ラビ!おやつ作れないよ!」
「……俺、邪魔?」
「今は邪魔」


寂しそうに首を傾げたラビにどきっぱりと言い切ると、見る間にへちょりと眉を下げた。


ー」
「いい子で待ってて?すぐに持ってくから」


なだめるように背中をさすって、お皿とナイフ・フォークを持たせる。
セッティングをしておいてと暗に促すと、すぐさま伝わったようで、すぐさま顔を輝かせてキッチンから駆け出して行った。


あのサイズに慣れていないんだから、長い手足を持て余さないといいんだけれど……。


「走ると危ないよー」
「うわっ!?」


そう注意したのとほぼ同時に、がっしゃん!と派手な音がした。


「ラビ!?転んだ!?」
「痛い……」


涙で湿った声が、何よりの答えだった。


「動かないで!すぐ行くから」
「ううぅぅぅ……」


あの様子だと、どこか怪我をしたのかもしれない。
焦りながら新聞とビニール袋をひっつかみ、リビングに向かった。


キッチンを出ると同時に見えた光景に、ある意味予想通りだとため息をつく。
転んだように尻餅をついたラビのすぐ傍で、粉々になったお皿が散乱していた。


「大丈夫?動かないで、今破片を片付けるから」
ー……痛いよぉ」


大きな破片を新聞紙の中に放り込みながら言ったけれど、もう遅かったようだ。
ラビの近くに、血のついた破片が落ちていた。


「手を頭の上にあげておいて。片付け終わったら、すぐに治療するから」
「うー……」


半泣きのラビを放置して、大きい破片を完全に取り除いて掃除機をかける。
仕上げに濡れた雑巾で軽く水拭きをすると、ようやくラビの怪我の様子を見ることができた。


「結構ずっぱりいったね……」
「痛いさ、
「だろうねえ。消毒するから、かなり染みるよ」


容赦なく消毒液をぶっかけて(ギャン!と妙な悲鳴が上がった)ゲンタシン軟膏を塗って、ガーゼでしっかりとおさえて。
完全に涙目になったラビの頭をよくやったとなでてやったら、何を思ったかすり寄ってきた。



「ん?」


甘えたように正面から抱きついて、ラビがだらしなく笑み崩れる。




「ちゅーしてぇ」




そ こ で そ の ネ タ 出 す の か よ !!




ヒカル君だかワタル君だかもう忘れたけれど、子供が見るかもしれないドラマでそんなシーンを出したテレビ局、今からでもクレームの嵐を起こしてやりたい……!


「ねぇ、ちゅー」


痛いの我慢したよ?


至近距離でささやかれて、反射的に顔に熱が集まる。


「ふっ……」


碧の目を正面から見つめて。




「ざけるなー!!」




力の限りに張り飛ばした。


「ヒギャン!!」


思いっきり哀れな悲鳴を聞きながら、危なかったと自分を諫める。
思いがけず吹っ飛んだラビは、何故か次の瞬間元のサイズに戻っていた。


「いたいー……!!」
「……あれ?」
「ひどいさー、!」


ぐしぐしと泣き出したラビを慌ててなだめながら、やっぱりウサギはこのサイズが一番いいとため息をつく。
あんなリアルサイズ、こっちの心臓がもちやしない。











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「ちみっちゃいにゃんわらがいきなりリアル体形化!」というリクエストでした。
実はお題での連載が終わったら、いつかやってみたいと思っていた続編ネタだったので、かなりびっくりしました(笑)
書いてて思いました。
……うん。多分、無理。


にゃんだでやってもツンデレ具合が面白いかもしれないと思ったのですが、甘えたおすというリクエストだったのでらびっとに。
本当にリアル体形になるまで成長したら、多分こういう風に天然甘えっ子じゃないと思います。
自分が溺愛されていたことを知っているから、それこそふざけて甘えまくって怒られる、みたいな。
微妙に策士っぽいキャラになるんじゃないかと…。

リクエストしていただいた方のみ、お持ち帰り可とさせていただきます。
リクエストありがとうございました!