「あ」
部屋の掃除をしていたら、思いもよらないものが出てきた。


、どしたん?」
「ん、タイムカプセル」
「たいむかぷせる?」


明らかに意味がわかっていませんという発音をしたラビに苦笑し、手元の手紙を持ち上げる。


「タイムカプセル。何年後にまた開けようねって約束で、瓶とか缶とかに色々な物を詰めて地面に埋めるの」


まあ、中には埋めないケースもあったりするが。
そんなものは例外中の例外だろう。


「それ、タイムカプセル?」
「正確には、昔その中に入れてた手紙。まさか持ってきてるとは……」


下手くそな子供の字で、『10年後の私へ』と書いてある。

あの頃は何も考えず言われるままに書いていたけれど、いざ開ける頃になると過去の恥をさらすようなものだ。
どんな羞恥プレイだ、これ。


「これ、のじ?」
「うん」
「でもこれ、のじとちがうさ」


不思議そうに瞬くラビに、思わず苦笑する。
どうやら、私は昔から同じ字を書いていたと思っているようだ。


「12年も経てば、そりゃあ上達もするよ」
「ほんと?じゃあ、おれもじょうずになれる?」
「なれるなれる」


なれなかったら困ると頭をなでると、ラビがぱっと笑顔になった。


「おれ、がんばるさ!」
「うん、楽しみにしてる」


まだ幼稚園児並みの字しか書けないラビが、ぐぐっと拳を作って意気込む。
今の年齢(推定)でこれだけ書ければ充分だろうとも思うけれど……これは絶対に言わないでおこう。
言ったら絶対調子に乗るにきまっている。


「はやくみたいに、きれいにかけるようになるさ!」
「はいはい、頑張れ」


別に私の字は、ラビが意気込むほどたいしたうまさではない。
上手か下手かと訊かれたら、「普通」と答えるしかない程度のもの。
ラビの知る字が私しかないから仕方がないとはいえ、何だか微妙な気分だ。


「ゆっくりでいいよ、ラビはラビのペースでやればいいんだから」
「やー!はやくにおてがみかきたいんさ!おてがみかくには、もっとじょうずにならなきゃだもん!!」
「へえ……そっか」


ウサギはウサギなりにプライドがあるらしい。
別に下手でも構わないと思ったけれど、本当に言うのはやめておいた。

言ったら多分泣く、このウサギ。


はそれ、なんてかいたん?」
「んー……内緒。もう捨てる物だから、読むような代物じゃないよ」
「すてちゃうの!?」


一刻も早く存在を抹消したくてはたはたと手を振ると、ラビがひどく驚いたように目を見開いた。
尻尾もぶわりと広がって、心底驚いたのがわかる。
どうして驚くのかと首を傾げると、焦ったように服の裾をつかまれた。


「だめさ!ちっちゃいがないちゃう!」
「いや、泣かないって」
「なく!」


泣くも何も、当時の私も言われたから書くぐらいのスタンスだったんだけれど。
書いたこと自体記憶の彼方にすっ飛ばしていたから、今こうやって悶えているだけで。


大丈夫だと苦笑しても、ラビは真面目な表情でかぶりを振るだけだ。


「だめ。とっとかなきゃ、だめ」


何を言っても納得してくれなくて、とうとうこちらが根負けした。
手紙を机の上に置いて、ラビの頭をなでる。


「わかった、ちゃんととっとくよ」
   ん!」


嬉しそうにうなずいたラビを見下ろしつつ、後でこっそり捨てておこうと決意した。
そんな私の内心など知るはずもなく、ラビははしゃいだ声をあげる。


「タイムカプセル!」
「うん、そうだね」
、どんなときに開けるさ?」
「そうだねえ……」


あまり気にしたことがないけれど、漫画や小説の定番だとどうだっただろうか。


「10年後とか、大人になったらとか、そういう何かの区切りにすることが多いかもね」
「ふうん……」


じゅうねん、と呟いたラビが、しばらくしてぱっと顔を上げた。
目が何かの期待に輝いている。
嫌な予感がした私が口を開くよりも先に、ラビがはちきれんばかりの期待を乗せて声をあげた。




、やろ!」
「…………やっぱりこうなるか……」




わかってはいた。
こうなるだろうとはわかっていた。
けれど、たまには予感が外れてもいいじゃないか!


しばらく無言の抵抗をしたけれど、やっぱり抗いきれるはずもない。
きらきらとした目でじっと見つめられて、深いため息をついた。


「……レターセット、用意しようか」


何を書いたらいいのかと悩むラビに適当でいいんだよと話し、さて私はどうしようとボールペンを握る。
仕方がないから、また10年後に向けた言葉でも書いておくか。


10年後といえば、私は30歳過ぎ。
……何だか微妙な心境だ。


「ラビ、決めた?」
「ん!10ねんごのおれにかく!」
「ふうん……そっか」


そんな私の内心も知らずに、ペンを握りしめて一生懸命書いているラビのつむじを見下ろす。


……つむじ、押してみたい。
押したらどうなるんだろう。


うずうずとうずく手を必死で押さえながら、その下の便箋に視線をやる。
ここからだとちょうど小さな頭が遮って、何も見えなかった。
まあいいかと手元に目を戻し、何を書こうかと考える。


それでも結局書くことは思いつかず、ラビが「かけたー!」と歓声をあげるまでぼうっとしていた。
ふとその便箋に視線をやって   ぴしりと膠着する。


あれー?
何か今、とんでもないものが見えた気がするけどな?


は?」
「ちょっと待って、今書く」


そう答えながら、便箋にさらさらさらりと走り書きをした。


それを乱暴に四つ折りにして、ラビの手紙といっしょに空き缶に入れる。
「うめにいくさ!」とはしゃぐラビと一緒に河川敷の橋のたもとに埋めながら、私の手紙の通りになりますように、とこっそり祈った。


『ずっとといっしょにいられますように』
『これ以上ラビが成長しませんように』


   青年の姿になったラビと一緒に暮らすなんて、そんなとんでもない!











-----------------------------------

「にゃんわらのらびっとかにゃんだで」というリクエストでした。
もちろん、らびっとは10年後も一緒にいるつもりですとも!(笑)


私自身が小学生の頃にタイムカプセルをやっているんですが、それは埋めてません。
多分、職員室に放置されてるうちに、大掃除か何かの時に間違って捨てられたんじゃないかと…。
当時の職員、誰もいないもんな…。
私も周りも結構書いたことを覚えていたので、ヒロインにも悶えてもらいました。
一蓮托生さ!!

この話の、でからびっとの続編とか書いたらおもしろそうだなーとか思いつつ書いてました。
やったら変な方向に行きそうですが。


お持ち帰りはリクエストして下さった方のみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!