夏といえば、やっぱりお祭り。
屋台が立ち並び、ちょっとはしゃいだ人だと浴衣なんて着ちゃうイベントは、ラビにとっても充分に魅力的だったらしい。
回覧板の中の一枚を指して、興奮気味にこちらを見上げてくる。


、これ!これ!!」
「あー……駅前通りの夏祭りね。人多いし、混むし、蒸すし、いいことなんてあんまりないんだけど……」
「……いかないんさ?」


興味本位で見に行った去年の様子を思い出してうんざりとため息をつくと、途端にラビがしょぼんと耳を垂らした。
心なしか、尻尾までしゅんとしている。

そこまでして行きたかったのか……。
人ごみと、ラビの楽しみと。

どちらを優先すべきかしばらく悩んで、結局小さくため息をついた。


「…………行きたい?」
「ん!!」


途端にぱっと表情を輝かせたラビには、やっばり勝てない。
つくづく甘くなったものだと苦笑しながら、あの人ごみを思い出して少しだけげんなりした。

   とにかく、ラビには帽子をかぶせなければ。


「おまつりさー!!」
「はいはい、はぐれないようにしてね。探し出せる自信ないから」
「はぐれないさ!」


ぎゅうと私の服の裾を握り、ラビは力強く宣言する。
どこまで信用できるやらと苦笑しながら、こちらもはぐれさせないように気をつけようとラビの頭をなでた。

もう愛用になった帽子は少しくたびれていて、今度新しいものを買ってこようと考える。
ラビには何色が似合うだろうか、今度は若草色にしてみようかな。

そんなことをぼんやりと考えながら屋台をひやかし、かき氷を一つ買ってラビと半分こしてたべた。
まあ、実際には私の方がたくさん食べたんだけれど。
ラビ一人では到底片づけられない量だ、仕方ないだろう。

その後には焼きそば、そしてフランクフルト。
ハッカパイプもラビが欲しがるので買ってあげた。


とてもご機嫌なラビだったけれど、突然ぴたりと足を止めた。
つられてくいと引っ張られた手に、何を見つけたのかと下を見る。
ラビの目はきらきらと輝いていて、その先には   


「……あー、うん、わかった」


ヒヨコ売りがいた。


時々出没するこのヒヨコ売り、実は私はあまり好きではない。
こういうところで売られているヒヨコは弱っていることが多くて、買ってもすぐに死んでしまうことがままあるから。
けれど、ラビはすっかりそのヒヨコに心奪われてしまったようだ。


、あれなに!?」
「……ヒヨコだよ。ほら、いつも卵食べてるでしょ?あれがちゃんと育つと、ああなるの」


有精卵と無精卵の違いについて教えるのが面倒だったからそう言うと、ラビが酷くショックを受けたような表情になった。


「お、おれたち、ひよこさんたべちゃってたん……?」
「違う違う。いつも食べてる卵は、いつまでたってもヒヨコにはならないから」


はたはたと手を振ってみせると、今度はなんでさ?と首を傾げられる。
ああもう、説明するのがややこしい。


「ラビも、お父さんとお母さんがいるでしょ?あのヒヨコにもお父さんとお母さんがいるけど、いつも食べてるのにはお母さんしかいないの」
「ふうん……?」


よくわからないなりにも、自分がヒヨコを食べているんじゃないとは理解したらしい。
曖昧にうなずくと、ぐいぐいと私を引っ張ってヒヨコの前に座ってしまった。


「かわいいさー……」


ほう、とため息をついたラビに、ヒヨコ売りがからからと笑う。


「お前さん、気に入ったか?1匹500円だよ」
!」
「駄目。うちで飼うスペースなんてないでしょ」


それに、飼ったところですぐに死んで、ラビが泣くのは目に見えている。
けれどそこまでは口に出さず、にべもなく切って捨てる。
しょんぼりとラビがうなだれるけれど、ここは譲れない。


ー……」
「駄目ったら駄目。うちではヒヨコは飼いません」


ぴしゃりと言われてさらにしょげたラビが気の毒になったのか、ヒヨコ売りがラビを手招いた。


「坊主、触らせるだけ触らせてやるから。お姉ちゃんを困らせるな、な?」
「……いいの?」
「特別だからな」


これでもかというほどに目をきらきらさせたラビに、ヒヨコ売りが苦笑する。
そろりと差し出された両手に、一匹のヒヨコが乗る。
初めての温かさに、ラビの顔がゆるんだ。


「かわいい……」
「うん。落とさないようにね、うちのじゃないんだから」
「わかったさ!」


元気よく答えたラビが、手の平の上でちよちよと動くヒヨコにまた笑顔になる。
慎重に片手に乗せてもう片手でなでてみたり、両手で目の高さにまで持ち上げて覗きこんだり。


、ふわふわ!あったかい!」
「生き物だからね。大事に触ってあげてね?」
「ん!」


それからもひとしきりなでたり触ったりしていたラビは(羽をひろげてみようなんて無茶な真似はしなかった)、しばらくしてようやく満足したようだった。
ヒヨコ売りにそっとヒヨコを返して、満面の笑顔で私に振り向く。


「満足した?」
「かわいかった!」


そういうラビの笑顔も充分可愛かったけれど、そんなことを言うとまた調子に乗るのが目に見えているから言ってやらない。
伸ばされた小さな手を握りながら、黄色い群れにそっと別れを告げた。











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「らびっとが初めて本物のひよこ(小動物)を見た時の話」でした。
多分、らびっとはひよこの存在すら知らないはず。
どのヒロインも、結構箱入りに育ててます(笑)


縁日で売っているひよこ、着色してあったりするのもいますよねー。
でもやっぱり、今回は黄色いまんまのひよこを想像して頂きたいです。
黄色と戯れるオレンジ!
ちみっ子は反応が素直なので、(こちらに被害が出ない限りは)可愛いものです。


お持ち帰りはリクエストをして下さった方のみとなります。
リクエストありがとうございました!