メリヤス、バイヤス、ツイストに鹿の子。

図と睨めっこしながらもくもくと棒を動かせば、それだけ垂れ下がる量が増えていく。
それが楽しくて思わず微笑むと、子供用の新聞を読んでいたユウが顔を上げた。


「なにやってるんだ?」
「編み物だよー」
「あみもの?」


意味を把握しきれなかったらしく、細い首がこてりと倒れる。
一緒にさらさらの髪も流れた。

可愛いなあ、もう!


「マフラーとか、セーターとか、いろんなものを作れるんだよ」
「……それで?」


暖かいんだよーと編み棒を持ち上げると、信じられないと言わんばかりに目をすがめられる。


うん、まあ、気持ちはわかるけどね。
こんな棒っきれからあれができるなんて、普通思わないよね。


先人の知恵はすごいと心底思いつつ手元を引っ張ると、銀に近い灰色の毛糸玉がころりと転がる。
買った時のままの状態でも編めるけれど、私はこうやって丸く巻き直した方が可愛くて好きだ。
何かこう、編み物してます!という気分になれる。


「……、ここは?」


ユウが指差したのは、違う色を編みこんだ部分。
まだ端の処理はしていないけれど、ユウの方からは表しか見えない状態のようだ。
くるりと裏返して見せると、興味深そうに飛び出している毛糸をちょいちょいといじり始める。


「引っ張らないでね。目が詰まって、そこだけきゅってなっちゃうから」
「わかった」


しばらく好きにさせながら手を動かし続けていると、いつの間にか膝元からユウが離れていた。
どこに行ったのかと顔をめぐらせれば、籠に突っ込んでおいた毛糸玉をちょいちょいと触っている。
ころりと転がる度にぴくりと反応して、ちょっと離れては様子をうかがうその姿は、まるっきり猫のようだ。


「ユウ、出して遊んでもいいよ。千切っちゃわないようにしてね」
   わかった!」


笑いをこらえながら声をかけると、ユウは一番上に置いてあった緑の毛糸玉を持ち上げる。
毛糸の端を持ち上げてほどいてみたり、またそれを巻いてみたり。
ころころ転がして後を追ってみたり、その途中で軌跡を描いている毛糸に足を取られて転んだり。

小さい子にとっては毛糸玉一つでも遊び道具になるのだと、微笑ましくなってしまう。


   あ、一目飛ばしてた」


しまった、ユウに気をとられすぎた。












そんな風にして、好き勝手に遊ばせつつ編み続けること数時間。
ちょんちょん、と最後のボンボンを切って仕上げて顔を上げると、やけに静かだということに気づく。


もしかして、遊び疲れて寝てしまったんだろうか。


糸きり鋏を裁縫箱にしまいながら首を傾げると、横の方から悔しそうな声がした。


「…………」
「あ、そこにいたん   って何やってるのユウー!?」


確かにユウはいた。
いたけれど、どこをどうしたらこうなるんだ。


身体中に毛糸がこんがらがって身動きがとれない状態のユウに、悲鳴を上げながら慌てて駆け寄る。


「ええと、ここがこうだから……あれ?違う、玉結びになっちゃった!ええい、糸の端はどこだー!」


落ち着け、落ち着け私。
最初は一本の糸なんだから、絶対にほどけるはずだ。


もがくユウにじっとしているようにお願いして、端から順にゆっくりとほどいていく。


、まだか?」
「頑張ってるから、ちょっと待って」
「へたくそ!」
「そんなこというなら、ほどいてあげないよ!」


だんだんいらいらしてきたらしいユウが暴言を吐いたけれど、手を離して踵を返そうとしたら、ぴたりと口をつぐんだ。
これでも聞かなかったらご飯抜きの刑に処そうかと思っていたけれど、どうやら躾は成功しつつあるらしい。


「いい子ね、もうちょっと我慢して?」
「……はやく」
「うん。待って待って」


急かされながら格闘すること30分、ようやく綺麗にほどくことができた。
毛糸もユウも無事だ。

すっかり一本の糸に戻ってしまった毛糸をくるくると巻き直していると、ユウがそろりと近づいてくる。
どうしたのかと首を傾げると、とても言いにくそうに何度か口ごもった後、毛糸をもてあそびながらぽつりと呟いた。


「…………ぐちゃぐちゃにして、ごめん」
   いいよ、楽しかったんでしょ?」


千切らないようにとだけ言って、放置しっ放しだったのは私だ。
気にするなと笑ってもまだ納得いかなさげなユウに、仕方がないと毛糸の端を持たせる。


「……?」
「ユウの腕にくるくる巻くの。毛糸玉にしやすくなるんだよ」


手を出してと言えば、珍しく素直に差し出してくれた。
両腕を伸ばしたユウの腕から、毛糸をくるくる巻いていく。
あんまり手間取るとユウが疲れてしまうから、手早く丁寧に。

少しだけ不格好になったそれを籠に戻して、腕をぷらぷらさせているユウに笑いかける。


「お疲れ様。はい、ごほうび」


編み上がったばかりのマフラーを巻きつけると、きょとんとした顔で見上げられた。

うん。ちょっと長いけれど、余るくらいがちょうどいい。
二重に巻くなら、むしろこれくらいないと困るだろう。
目も綺麗だし、型崩れもほとんどない。

久し振りの割には上々の出来に満足していると、マフラーをもふもふと触っていたユウが声をあげた。


「……これ、おれの?」
「うん、ユウのだよ。さっき手伝ってもらった毛糸玉も、ユウのセーターにするからね」


悩みに悩んで買ってきた種類なのだ、絶対に可愛く仕上げる!
本格的に寒くなる前にプレゼントするよと頭をなでると、ユウの耳が赤くなる。


「……まってる」


ぽつりと呟いた表情にきゅんとしすぎて、思わずぎゅうぎゅうと抱きしめてしまったのは仕方がないだろう、うん。
ユウが可愛すぎるのが悪い。









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みづきさんに捧げます!

にゃんだはころころ毛糸玉を追いかけてればいい。
んでもって、こんがらがってヒロインに助けられてればいい。

毛糸一つでここまでニヨニヨできる自分にびっくりしました(笑)
先日は遊んでくださってありがとうございましたー!