猫は水を嫌がると聞いたことがあるけれど、ユウはどうやらそれに当てはまらないらしい。
波打ち際でぱしゃぱしゃと遊ぶユウを見ながら、ぼんやりとそんなことを思う。


人がいない海辺を探して探して、見つからなかったから仕方なく無人島まで遠出した。

無人といっても飛行機とかで来た訳じゃなくて、昔はやったレジャーランド(今はもちろん閑散としすぎている)の中だ。
島一つがまるごと使われていて、しかも入るだけなら誰でも無料。
監視員さん一人しかいないビーチゾーンの、一番奥の方で遊べば問題ない。


「ユウ、暑くない?」
「へいきだ!」
「うん、そっか。帽子はとっちゃ駄目だよ、余計暑くなるからね」
「わかった」


耳隠しも兼ねているのを、ユウもわかっているらしい。
当たり前だと言わんばかりにうなずかれたけれど、直射日光は本当に暑いんだよー。

海の家で借りたパラソルの下でのほほんとしながら、波打ち際でぱしゃぱしゃと遊ぶユウを眺める。
アサリの貝殻を拾っては、力一杯海に投げてみたり。
じっと立ち止まって、波が引いた後の足下のくぼみを見ていたり。
ふよふよと漂ってくる海草をすくったはいいけれど、なかなか手から離れなくてぶんぶん振ったり。

海草はいくら振っても飛ばなくて、だんだん機嫌が悪くなってきたので、一緒に海の中に手を入れてほどいてあげた。


ユウ可愛いよユウ。
むくれた顔も最高に可愛いよ。


でれでれと顔を崩しながら頭をなでると、ばしりと振り払われた。
残念、でもそれも可愛い。
爪を出さないところに愛を感じるよ。

そんな調子で楽しい時間を過ごしていたのに、監視員さんがこちらに近づいてきてしまった。


「ユウ、バスタオル被って」
「ん」


おとなしくうなずいたユウは、お手製のバスタオル(片側をぐるっと縫ってゴムを通してあるから、被るだけで肩から下がすっぽり隠れる)で身体を隠す。


「あのー」
「……はい?」


遊泳禁止のところまで来た覚えはないし、利用終了時間はまだまだ先のはず。
声をかけられる心当たりが全くなかったから、自然と声も固くなった。
身構えた私達にかけられた言葉は、意外すぎるものだった。


「一人なんですか?珍しいですね」
「え?あ、や、この子と一緒ですけど」

「弟さんかな?可愛いねー」
「かわいいっていうな!!」


しゃあ!と毛を逆立てんばかりのユウの威嚇も気にせずに、監視員さんはにこにこと笑う。
日に焼けた肌がよく似合う、見るからに好青年だ。
ユウもこんな風に育ってくれれば……いや、ユウが愛想良かったら逆に怖い。

仏頂面でも優しければそれでいいよ、ユウ!


「最近、時々来てますよね」
「あ、はい」
「俺、結構ここのバイト入ってるんですよ。それで、よく見るなって」
「はあ……」


だから何だろう?

何を言いたいのかよくわからなくて曖昧に相づちをうっていたら、監視員さんが照れたように笑った。


「それで、その、今度非番の時、どこかに遊びに行きませんか?」


びっくりだ。
これはまさかのナンパというやつか。
元カレと別れて以降恋愛沙汰とはすっかり縁遠くなっていたけれど、もしかして私も
まだまだ捨てたもんじゃないんだろうか?

いやいや、だがしかし!


「………………この子がいるので、それはちょっと」
「他の家族の人に任せたりとか……」
「二人暮らしなんで、それは駄目ですね」
「え…………!まさか、息子さん!?」
「んなわけないでしょ!!」


思わず力一杯突っ込んだ。
いくつの時の子供だと思ってるんだ、この人は。


「ですよねー。……大変ですね」


何やら勘違いをしているらしい(でも訂正はしない)監視員さんが眉を下げるのに、曖昧に笑って流しておく。
どんどん勘違いしてもらえると嬉しいから、訂正なんてするわけないよ!


「なんだおまえ!あっちいけ!」
「うんうん、お姉ちゃんをとったりしないよ」
「うるさい!」
「ユウ、失礼だよ!」


微笑ましげに伸ばされた監視員さんの手を、ユウが叩こうと腕を振りかぶった。

ひいっ、爪伸びてる爪!
じゃきん!って言ってる!

間一髪で捕まえたら、不満そうにじたばたと暴れ出す。
そんな小さい身体ををぎゅっと抱きしめて「そろそろ帰ります」と言うと、監視員さんも残念そうにしながら向こうに戻ってくれた。
充分離れたのを確認してからゆっくりと腕をゆるめると、途端に不機嫌なくりくりお目目と視線がばちり。


「ばか!!なんでむししないんだよ!」
「いやいやいや、さすがに無視はできないよ」


噛みつくようにくってかかられても、円滑な人間関係の基本は外せない。
ていうか、多分あそこで無視してたら、余計に不審だと思う。
バスタオルごとユウを抱き上げながら(ぺちって顔をはたかれた)(爪が出てないところにユウの愛を感じる!)答えたら、すごく不満そうにぶすくれてしまった。

ごめんねユウ、でも大人ってめんどくさいの!
そしてユウ可愛い!


「じゃあさ、ユウが大きくなったら、ああいうのから守ってね?」
「……わかった」


あーもう、ユウさえいれば彼氏なんていらない!
干物まっしぐら?上等ですとも!











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100万打記念なのに…なのに…どんだけー。
時間が経ちすぎましたが、とりあえず狭由良さんとの約束は果たせた!満足!!

にゃんだが成長してナンパを蹴散らすのよ!うふふ!とか思いながら書き始めたはずが、なんかこの流れで大人にゃんだを出すのははばかられる…とか思ってやめました。まる。
それにしてもこのヒロイン、絶対結婚できなさそう(笑)一人暮らし+ペットの法則発動!
にゃんわらはペットよりも更に依存度が高そうなので、更に危険ですね!