冬も厳しく、花粉も厳しいこの時期になってくると、女の子にとって心浮き立つイベントがやってくる。
今年は別に、特別にあげる相手がいるわけではないけれど、それでもピンク色のコーナーやその中を覗くのは、やっぱりわくわくする。

そう、チョコ好きにはたまらない、例のバレンタインだ。


企業の罠にまんまと踊らされている感が否めないこのチョコイベント、それでも私は嫌いではない。
この時期にしか日本にやってこない海外の超有名メーカーや、そのパティシエ特製のチョコがただで試食できるんだから!


……いや、それだけではありませんとも、もちろん。


友チョコでも家族チョコでも、どんなものをあげたら喜ぶかは、商品を見ながら考えるだけでわくわくする。
そんなわけで、日々チョコレートの香りを纏って帰ってくる私に、ユウがある日訊いてきた。


、さいきん、あまいにおいがする。どうしたんだ?」
「んー?乙女のイベントがやってきたんだよ」
「わかんねえよ!」
「こら!そんな汚い言葉使わないの!!」
「……わかんない!!」


律義に言い直したユウの頭をなでて、バレンタインについて説明する。

曰く、外国の聖ヴァレンタインという人が死んだ日だと。
その人は身分違いの恋人同士だか何だかの結婚を許可しようとして、結果的に殉教したんだと。

そこまで話したところで、ユウに疑問が浮かんできたらしい。
私の話を遮って、難しく眉を顰めた。


「みぶんちがい?じゅんきょう?」
「……ああ、身分違いっていうのはね、昔は人に偉い順番をつけてたの。そのランクが違うと、結婚しちゃいけなかったみたい」
「へんなの!」
「うーん、今から考えるとちょっと変だよね。でね、殉教っていうのは   


そんな感じで説明を挟みつつ、結局はチョコをあげるイベントだと教えると、途端にきらりとユウの瞳が輝いた。


「チョコ!?」


尻尾がふるふると震えている。
心なしか、耳もぶわりと広がっている。

これはもしや、


「……ほしい?」
「ほしい!」


即答された。
一秒もなかった。


ううむ、これはあげなければいけないフラグを自分で立ててしまったか。
今年はこっそり、私の分だけ買って食べて終わらせようと思っていたんだけれど……。


「うーん……じゃあ、ユウも私にくれる?」
「……おれが、に?」
「うん。交換っこ。それならあげる」


どちらにせよ、出るお金は私の財布からだ。
それならばいっそのこと、一緒に手作りした方が安上がりでいい。

頭の中で算盤を弾きながらそう言うと、ユウは予想通りに難しい顔で黙りこんだ。
女の子が男の子にあげるイベントだとも教えてあるから、多分そこら辺が葛藤のしどころなんだろう。

迷って、迷って、ひたすら迷って。


「…………わかった」


重々しくうなずいたユウは、きっと食べ物の誘惑に勝てなかったに違いない。


そうと決まれば、材料集めだ。
バレンタインコーナーからミルクチョコの塊を買ってきて、後は生クリームも買い物籠に放りこむ。


ユウは生チョコ、私はトリュフを作る予定だ。
生チョコなら、初心者でも安心して作れるし。
本人も作った!って実感があるだろうし。


家に帰ると、腕まくりをしたユウがキッチンで待っていた。


、はやく!」
「うんうん、私の準備が整うまで待ってね」


きちんと手を洗って、エプロンをつけて。
ユウ専用になった踏み台に乗って、まずは湯煎から。


「あんまりぐちゃぐちゃってしないでね。あと、お湯が温くなってきたら教えて」
「わかった」


神妙な顔でヘラを握るユウの横で、私も湯煎を開始する。


はなにつくるんだ?」
「内緒。わからない方が楽しみでしょう?」


ラッピング用の箱も買ってきたから、プレゼント感も程よく出るだろう。
購入元はもちろん百均だ。
何とかユウを納得させつつ、お菓子の本を見ながら指示を出し。


「はい、お疲れ様。後は固まるまで冷蔵庫で冷やそうね」
「ん」


私のよりも早く出来上がったユウの生チョコを冷蔵庫に入れ、立ちっ放しで疲れただろうユウに座って待っているよう促す。
けれどユウはこちらの手元をじっと見ていて、立ち去る様子はないようだった。


「……ユウ?」
「……だけ、おれのつくったのしってるの、ずるい」
「そんなこと言われてもなあ……」


ユウは料理なんてしたこともないし(実はこの後のカッティングもやらせようかどうか悩んでいる)(包丁はユウには重すぎる!)、私も本を見ながらじゃないと指示できないし。
   とか思ってたら、手元が大変なことになっていた。


「うわっ、固まっちゃう!!ごめんユウ、また後でね!!」


半強制的に会話を終了させ、形作りに没頭する。

綺麗に丸めるのがなかなか難しいんだよ、これ。
固まらないうちにと必死に丸めると、どうにかこうにか形になってくれた。

こちらも冷蔵庫に放りこんで、しばし休憩のティータイム。


「なあ、あとどれくらいだ?」
「うーん……もうちょっとじゃないかなあ」
「はやく!」
「冷蔵庫に言ってよ、冷蔵庫に」


そんな会話をしながらゆっくりと紅茶を一杯ずつ飲んで、急かすユウをなだめながらチョコを取り出す。
結局カッティングもユウにやってもらって、(真剣な表情が可愛いの何のって!)その間に私はさっさと箱詰めを終了させた。
もちろん、ユウが包丁で手を切らないか、ちゃんと見ながらだけれど。

箱詰めまでしたところで、改めて丁寧に紅茶を淹れる。
テーブルに向かい合って座って、お互いに箱を差し出した。


「ハッピーバレンタイン、ユウ」
「……ん」


恥ずかしそうに箱を押し出したユウから受け取って、中身を開ける。

少し不格好な生チョコが綺麗に箱に納まっていて、几帳面に並べていたユウの姿を思い出した。
一口食べれば、生チョコ特有の柔らかい食感と程よい甘さ。


「おいしいね」
「……おれがつくったんだぞ」
「うん、ありがとう。私のはどう?」


すでに三つ目に手が伸びているユウに笑いながら訊くと、慌ててその手を引っこめる。


「まあまあだな」
「素直においしいっていいなさいよ、もう!」


このひねくれ坊主め!!
(そこが可愛いんだけど!)











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菜月さんのリクエストで、「ヒロインとチョコ作りをするにゃんだ(バレンタインネタで)」というお話でした。
きっとにゃんだなら、几帳面にカットすると思うんだ!


どちらにせよ自分のお腹に収まるわけですが、既製品にちょっと手を加えると、気分的にずいぶんおいしく感じることが多いです。
クッキーと生チョコはその筆頭!
作るのも簡単なので、にゃんだには今回生チョコを作ってもらいました。

お持ち帰りは菜月さんのみとなります。
リクエストありがとうございました!