月に写った横顔は、らしくもない真面目な表情。
……ていうか、オレンジ色に銀の光って、かなり微妙……。



メーデーメーデー!




いつも気になってることがあるんだけど、あのバンダナは一体どうして装着されてるんだろう。

と、いうわけで。


「ラビ。そのバンダナ、ちょっとよこせ?」
「はぃ?」


間抜けな顔をさらすラビに構わず、問答無用でバンダナをむんずとつかむ。

「ちょ、ちょちょちょちょいタンマ!どしたんさ?」
「別にー?純粋な好奇心だよ」

必死にバンダナを押さえるラビ。
怪しい。怪しいって。



「……てい」
「ああっ!」



おもむろに手を伸ばしたのは、バンダナではなくラビの武器。
抜き取って握りしめて。

大きく振りかぶってー?
ピッチャー投げたー!!


「何すんさ、ー!?」
「愛しの神田の頭にヒットさせた」
「ギャー!!」


の馬鹿ー!!とラビがビビリ顔で叫ぶけど、そんなこと私知らなーい。


「いって!」
「しかもヒットしてるー!?」


遠く離れた神田の頭に、本当にヒットしたのには驚いた。
だけど、この際これは都合がいいよ!

「おい、何しやがる!」
「ユ、ユユユユウ、俺はなんに   
「ラビが『ユウの馬鹿ー!』って投げてたよー」
ー!!」


あ、ラビがマジ泣きしそう。

「ラビ……てめェ死にてえらしいな」
「嘘さー!!」
「神田、ラビのバンダナぶった斬っちゃえ」

こっそり背後からささやいたら、単純な神田はすっかりその気満々だ。
結局ラビが必死になって神田を止めたけど(つまんないの!)


、仕事はいいのか?」
「いいのいいの、どうせ下っ端にはたいした仕事は回ってこないから」


本当は雑用が1週間徹夜しても終わらないくらい溜まってるんだけど(こうしている間にも半月分に増えてるかもしれない)、まあその辺りは現実逃避をしておこう。

「……さっき、血眼でお前を捜すジョニーを見た気がしたんだが」
「え?それ、単なる目の錯覚じゃない?」
「嘘つけ。行ってやれよ」
「いーやーだー」

ジョニーだって死ぬほど忙しいくせに、どうして私を捜しにくるわけ……?
泣きながら抵抗をしても、神田は許してなんてくれない。


「おら、さっさと行くぞ」
「やだあぁぁぁぁ、ラビ助けてええぇぇ!」
「いってらっさーい」


ずーるずーると引きずられていく私に、ラビがひらひらと手を振るのが見える。
ものすごくいい笑顔だ。


……後で泣かせてやるうぅぅ!!













連行された研究室ではジョニーだけじゃなくてみんな死にそうな(と言うよりももはや死人顔負けの)顔をしていて、予想通り私のデスクには仕事がエベレストのように積んであった。


「……どれだけさぼってたんだよ」
「睡眠時間3時間を5日とさっきラビにちょっかい出しに行った20分」
「……それでこれか……」
「いつものことさね。食事は厨房のみんなが持ってきてくれるし、ほうじ茶持ってくるくらいの休憩なら挟んでるし」


さすがにここまで酷いとは思っていなかったらしく、神田もドン引きだ。
やってもやっても終わらない。
蝋花達はここに来たがってたけど、サボりがちなあの子達には絶対無理だと断言できる!





ー、これ追加なー」
「はーい……」

おかしいよ。おかしいよおかしいよ。

いっつも思うけど、んでもってもう慣れっこだけど、今夜中の3時半だよ!?
連行されてから8時間ぶっ通しで仕事してるよ!?
何でエベレストが富士山ぐらいにしかならないの!?



「室長がまた逃げたー!」
「どこだ畜生!!」



探すのは手が(比較的)空いてる人の仕事。
ていうか、ぶっちゃけトップ近くの仕事。

私達下っ端は、その間に班長達の仕事のさらに前段階の処理を少しでもしておくんだよ。
そうしないと今日こそ寝れないよ。

カフェイン中毒ならぬタンニン中毒(カフェインはもう効かなくなった)でほうじ茶をがぶ飲みしながら、また報告書からわかる限りの事実をまとめあげていく。



「はーいちょっと待ってくださいね、あと127枚まとめ終わったらパシリに行きます」

127っ……!違うさ、俺だって」
「俺俺詐欺に引っかかるほど阿呆じゃないんですよー」
、俺だってば。こっち向いてさ」


「……あれ?ラビじゃん」


何か違和感があると思ったら、科学班にはいない人の声だったのか。

「ちょっと待ってね、これだけ終わらせるから」
「おー」

一瞬ラビをとらえた後は、視線は常に書類の上。
富士山まで減った書類は、気を抜いたらアルプスぐらいまで戻りそうだ。
5分で切りをつけて顔を上げると、ラビは律儀にも床に体育座りで待っていた。


「お待たせ」
「はいよ。んじゃ、ちょっと出るさ」
「待て待て待て」


そこっ!当然のようにぐいぐい引っ張るな!

「用件はここで!チョモランマにはしたくない」
「何さそれ」
「仕事の山」


「…………ま、いいっしょ!ほらほらほら」
「ギャー!誘拐されるー!!助けて69!」
「たまには休憩してこーい」
「じゃあその間私の分の仕事してくれんのかよ」
「せんに決まっとるじゃろ」
「じゃあ止めろよ!!」


非情な69の言葉に見送られながら、ぐいぐいとラビに引っ張られてどこかに向かう。
深夜の教団は言わずもがなの恐怖の館で、歩く度にいい感じに足音が反響した。
お化けなんて信じてないけど、マジこっえぇー……!


「ラビ、どこまで行くわけ?」
「もうちょっとなー」
「いやもうそれさっきも聞いたから」


そんな会話をしながらたどり着いたのは、エクソシスト居住区からちょっと離れたテラス。
そういえばここ、ラビのお気に入りだとか聞いた覚えがあるようなないような。

「で?どうしたのさ」
「……、このバンダナがすっげぇ気になるって言ってたよな?」
「え?あ、うん」

珍しくもものすごく神妙な顔でみつめられ、ちょっとたじろぎながらうなずく。
どうしたんだろう、まさか本当に重大な秘密が!?


「実は……実は俺」


覚悟を決めたようにこくりと喉を鳴らし、ラビの手がゆっくりとバンダナに伸びる。
な、何?何!?


「バンダナ外すと   


ぐい、と無造作にバンダナを取るラビ。
さらりと揺れた髪の毛がちょっぴり色っぽい   じゃなくて!
ふるりと一度頭を振ったラビを見て、思わず言葉を失った。

だって、だって!!


「ラ……ラビ……」





「うさ耳、隠してたんさ……」





ぴょこんと立ってるウサギ耳。
え?え?これ、ドッキリ?


「こんなんついてるなんて、明らかに異常だろ?だからこれで隠してたんさ」


アンニュイな笑顔を浮かべて、ラビが遠くを見る目をする。
ちょ……ちょっとラビ、












「その耳の構造を見せて見ろー!!」
「ぅおっ!?」


がばりと顔を上げると、そこにはものっそいビビった顔のラビのどアップ。


「ど、どしたんさ、。いきなり変なこと言って」
「……は?」


どうやらデスクの端にちょんと顎を乗せるようにして、私と視線を合わせているらしい。
顔と手以外はデスクの下に隠れて見えない。



「…………」



これはもしやあれか。
夢オチか(なんてありがちな!!)

無言でラビのバンダナに手を伸ばして、慌ててるのを無視してむんずと取り外す。


「あーあー、一回取るとまたちょうどいい具合に戻すの大変なのに」
「……それだけかよ」
「十分重大さ」



ま ぎ ら わ し い こ と す ん な !



「それに、前髪邪魔でが見えにくいし」



…………。





「……私はそっちの方が好きだけどね」





ぼそりと呟いたら、ラビの目がぱちくりと瞬いて、次の瞬間輝いた。


「え、何、もっかい言ってさ!!」
「誰が言うか阿呆!」
、仕事しろー」


そんなこんなで、今日も夜が明ける(結局寝れなかった……!)