お父さんが、古物商で怪しげな壷を買ってきた。
「いい形だろう」なんて本人はご満悦だけど、はっきりいって価値が全くわかりません。
でも、そんなことを言うと拗ねちゃうのは分かり切っているので、適当に話を合わせておいた。
お母さんがこっそり、「リビングで花瓶にしようかしら」とか言ってたけど、そんなことしたらお父さんが泣いちゃうよ、お母さん。

しばらくは飾っておくとのお達しで、妙ちきりんな壷はリビングのテーブルの上に置かれることになった。


そう、そこまではいい。

問題は、夜中に水が飲みたくなってリビングに下りてきたときに起こった。


「……さむい……」


冬も本番になってきて、素足で床を歩くのはちょっと厳しい。
へくち、へくちとくしゃみを繰り返しながら台所で水を飲んで、布団に戻ろうとしたその時。


「は……は……へくちっ!!」


リビングで我慢しきれなかったくしゃみをした瞬間、目の前が煙でいっぱいになった。


「え!?何!?」


慌てふためく私を煙が包みこんで、どんどん意識がかすんでいく。
その向こうで、「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん……あらぁ?」とかいうだみ声のおっさんの言葉が聞こえて、ぐぐっと拳を握りしめた。

犯人はあんたか、ハクション大魔王。
待ってろ、目が覚めたら一発殴らせろ。
薄れいく意識の中で確かな殺意を胸に抱き、そして――。




「……うみゅ?」




どうしてこうなった。








目の前にあるのは、金髪の美少年の顔。
ちょっと驚いているけれど、それすらプラスの方向に働いているんだから、美形って得だ。
それにしても、どこか見覚えがある顔だと思っていたら、やっぱりどこかで聞いた覚えのある声が飛んできた。


「あれー?レン、どうしたの?膝の上に見知らぬ女の子なんか乗っけちゃって」
「リンちゃん、きっとレン君が連れ込んだんだよー。あんまり詮索しちゃ駄目駄目ー!」


……あれ、おかしいな。
今、脳裏をみかんとネギがよぎったぞー?

見事な緑色のツインテール。
頭の上でぴょこぴょこ動く黄色のリボン。


「……リン。ミク姉」


頭上で美少年のため息が聞こえた。


「気づいたらいきなり膝の上にいたんだけど……二人の悪戯じゃないわけ?」
「まっさかあ!こんな可愛いうさぎちゃんがいたら、レンじゃなくてあたしがもらってるもん!」
「カイトお兄ちゃんが癒しを求めてこっそり飼ってそうだよね」


けたけた笑うリンちゃんに、あははははと笑うミクちゃん。

いやいやいや、ありえない。
ボーカロイドが触れる存在だなんて。
しかも、ボーカロイドの膝に乗ってるなんて信じたくないけど、とりあえず。


「……飼われてないもん……」


涙目でぼそりと呟いた言葉は、レン君にだけ聞こえたようだった。
見上げた先でぴくりと片眉を動かしたレン君は、次いでにやりと大人びた笑みを見せる。


「じゃあ、俺が飼っても問題ないんだよね?」


飼う?
飼う?……誰を?

小首を傾げて見上げると、レン君が目を細めた。


「可愛いうさぎ」


頭の方に伸びた手が、私の何かに触れる。
同時に、全身を走る電流のような何か。


「ひゃんっ!!」


何だ何だ何だ今の!
ひゃんって何だ私!
いやそれより、何今の感触!
変な感じがした……!


「うん?お前、ここが弱いのか?」


そう言って楽しそうにわしゃわしゃと何かを触るレン君。
ちょ、ほんと、やめ……!


「いやぁん!!」


自分の口なのに、自分じゃないような声が勝手に出る。
力が抜けそうな身体を必死に動かして、手から逃れようと身をよじる。
それをおもしろがるようにしばらく遊んでいた(!)レン君が、おもむろに手をおろした。

ほっとしたのもつかの間、今度はお尻の方を攻撃される。
そちらにも妙な感覚が走り、思わず変な悲鳴が上がってしまった。


「うきゃん!!」
「へえ……感度抜群」
「ななななななな何をぅきゃん!!」


ま、また、変な感じがする……!


「やっ、やめっ、ひゃぁんっ!やんっ!」
「……ねえねえお姉ちゃん、声だけ聞くとやらしい感じがするね」
「意外とレン君も、それ楽しんでるのかもよ?」
「そっかあ、レンだもんねえ」

そこ!
ひそひそしゃべってる割に声筒抜け!
そしてレン君もにやりと笑わない!!

さんざん遊ばれて疲れ果て、くたりとレン君にもたれかかる。

逃げないのかって?
お腹に腕をがっしり回されてる状態で、どうやって逃げると?


「なにこれ……もうありえない……」


そしてお腹すいた。
ぐう。
情けない音をたてるお腹をさすっていると、赤い物体が目の前に差し出された。
その先をたどっていくと、何やら期待に目を輝かせたリンちゃん。

……いや、あの、生野菜って。
スティックサラダって。
にんじんって。


私の嫌いなもの三連続コンボ!!


必死に首を振っていらないと主張しても、リンちゃんは一向に手を引いてくれない。
身体ごと反転しようとしても、今度はレン君ががっしりとホールドして許してくれない。


「食べないの?うさぎだから、好きでしょ?にんじん」


う……うさぎ?うさぎ!?
誰が!?私が!?

もう何が何だかわからない。
ぷしゅう、とオーバーヒートする音が聞こえた気がした。


それでも気力だけで口を閉じていたら、レン君にいきなり鼻をつままれる。
かぶりを振って離そうとしても、綺麗な形の手はびくともしない。


14歳のくせに!14歳のくせに!!


息が苦しくなって、少しだけ口を開けた瞬間。


「えいっ」


リンちゃんが容赦なくにんじんを突っこんできた。
うわああああああ、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌あああああ……あれ?


「おいしい……」
「リン、にんじんもっと持ってきて」
「オッケー!!」
「ネギは?ネギは食べないかな?」
「勝手に人のうさぎに危ないもの食べさせないで、ミク姉!」
「レンー、バナナも持ってきたよ!」
「ナイスリン!!」


レン君がぐっとガッツポーズをした。
そんな時だけ年相応に可愛いんだね、レン君……。

一心不乱ににんじんを食べていたら、くいと顎をつままれた。
見上げると、無駄にフェロモンを飛ばしまくっているレン君が、色気たっぷりに微笑んでいる。


「俺が拾ったんだから、俺のものだよね?――いっぱい可愛がってあげるよ、うさぎ」


うさぎとは何ぞやと首を傾げつつ、それでもにんじんを食べる手は止めない。
それにつけてもにんじんうめぇ。




後日、自分の頭とお尻に、うさぎ耳とうさぎ尻尾が生えているのを見て絶叫したのは、言うまでもないだろう。
尻尾と耳は、それからもずっと弱点でした。
ハクション大魔王出てこい、ぶん殴ってやる。


「レン君、ちょ、きゃんっ!やんっ!!」
「あはは、可愛い声」
「ほんとにやめ……いやぁんっ!!」






ほっぺにちゅーが入らなかった!!パニックはそこはかとなく入れた!そしてヒロインはミクよりちょっと年上だ!!