「あ」
「おや」
「げ」
「お」


ものの見事に重なった四重奏は、けれど見事な不協和音を奏でた。

意外そうなものが2つ、喜色にあふれたものが1つ、心の底から嫌そうなものが1つ。
その嫌そうな声の主に向かって、笑いをこらえながらが声をかけた。


「いらっしゃい、人識。2週間ぶりかな?」
「姉貴、何でこいつらがいるんだよ」
「何でって……みんな偶然に来合わせたんだけど」


ねえ?と話を振ると、四天王もそれぞれうなずく。


「消息がはっきりしている家賊は、だけだけっちゃし」
「実に稀な偶然だ。だが、たまにはこういう偶然も……悪くない」
「可愛い妹の様子を見に来て、一体何が悪いのかい!」


約一名気色の悪いことを言っている馬鹿がいるが、人識は華麗にそれをスルーして姉の横に座りこんだ。


「姉貴、酒」
「こらこら、あんたはまだ未成年でしょうに。中学生に飲ませる酒はありません」


すっかりやさぐれた様子の弟の額を優しく小突き、はさりげなく彼の視界からブランデーを遠ざける。
それは曲識の手によってキャビネットの上に移動させられ、実はこっそり狙っていた人識が舌打ちをした。


「なあ、中学ってマジで卒業しなきゃ駄目なのか?めんどくせえんだけど」
「人として最低限の教養は必要だよ、人識。でないと、こいつらみたいに世間から浮きまくっちゃうからね」
「酷いっちゃ、
「僕は世間に紛れこんでると思うがね」
「いつ何時も燕尾服にファゴット装備が何を言う。せめて普通の服を着なさいな、曲」
「僕も   
「あんたは存在そのものが世間から乖離してるよ、《自殺願望マインドレンデル》」


わざと傷ついたような表情をした軋識に苦笑し、涼しい顔の曲識に突っ込み、勇んで手を上げようとした双識をさらりとかわし。
は笑顔で人識の前にグレープフルーツジュースを置いた。


「お酒は二十歳になってから。それくらい、『普通』でいなさいな」
「……ちぇっ」


ふてくされた人識は、けれどおとなしくジュースに口をつける。
それを見守っていた双識が、おもむろにを見つめた。


「それで。君はいつ、戻ってくるんだい?《殺神衝動ハイエンド》」
   君にはもうわかっているでしょう、双。私は零崎であって零崎ではない、四天王と呼ばれるのもおこがましい存在だよ」


織の字を与えられなかった私。
せがむ私に、ただ笑っていた機織さん。

今ならば、彼女が何故そうしたかがよくわかる。


「それでも君は、僕達の家賊だ」
「そうだね。だからこうして、集まっているんでしょう?」


孤高の存在、零崎一賊。
その一賊がこんなにも集合しているなんて、一体誰が信じるだろう?

狭苦しいおんぼろアパートに、家賊が5人。
何とも奇妙な光景で、けれど私にとっては嬉しいものだ。


「私は、みんながこうして時々来てくれるだけで、充分だよ。頼むからヘマをして、赤色に目をつけられたりしないでね」


あの恐ろしい一連の出来事は、私の中でもはやトラウマだ。
もう赤色には関わりたくない、永久に。

唯一あれを経験していない人識はどこか余裕の表情をしているけれど、他の3人は瞬時に神妙な顔になった。


赤色、哀川潤。


そのうち人識にもあの恐ろしさを伝えねばと思っていると、不意に曲識が私の手をとった。


「曲?」
   怪我を、していてね。治してくれるかい?」
「……血の臭いがすると思ったら。《逃げ》損なったね、曲」


言うと同時にの指先が閃き、患部が正確にあらわにされる。
そこでもう一度彼女の指先が閃き   彼女の指先から血が滴った。


「はい、終わり。あんまり無茶しないでよ?」
「わかっているさ」


咎めるような声にのんびりと答えた曲識は、を見下ろしてゆるりと笑う。


「怪我をするのは日常茶飯事。それに   こうして君に治療をしてもらうのも、悪くない」
「…………馬鹿でしょう、あなた」


吐息をもらすように苦笑しながらささやいて、は空になった人識のコップにジュースを追加した。
そうしながら、諦める様子のない双識に視線をむける。


「私は戻らない。戻れないよ、双。《殺神衝動ハイエンド》たる私には」
「《禁忌の聖女パンドラ》としては?」
「……ここに、いるじゃない」


それが彼女の、全ての答え。
ごくごく一部の者しか知らないその名前こそ、彼女の本質を表すものなのかもしれない。


「なあ、姉貴。いつまでこんなオンボロにいるつもりなんだよ」
「そうさねえ……私が飽きるまで、かな?」


彼女の財力ならいくらでも高級マンションを買えると知っているからこそ、人識はその答えが解せない。
この今にも倒壊しそうなアパートに、一体どんな魅力があるというのか。

不満げな表情をする人識の額を優しく小突き、は悪戯をうちあけるようにささやいた。




「この場所はね、変人ばかり集まってくるんだ。だから飽きないし、私はここの住人を愛してるよ」




まるで、もう一つの家族のように。


そう言えば必ず人識が拗ねる(という名の大量殺人を引き起こす)ことがわかっていたから、けして言葉にはしなかったけれど。
四天王最強と謳われる女性はただ、ひっそりと笑みをもらした。











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「一賊の一家団欒を、再会後か四天王時代で」というお話。
再会後は思いっきり仕込みネタがばれてしまうので、四天王時代にしてみました!
あんまり一家団欒にはなっていない気もしますが…(笑)


この頃の人識は髪の毛がまだ黒いんだよなあとか、刺青も入ってないんだよなあとか思い返すと、何だかしみじみします。
中学校時代って、確か染めても刺青入れてもいませんでしたよね…?(友人に関連資料を全て貸しているため、確認がとれない)
一応ヒロインも弟を溺愛しているので、四天王仲間よりは優しい対応です。
ちなみに彼女は普通に高校まで卒業してます。
結構一般人寄り(笑)

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