不思議な「力」を持てあまして、私はいつも孤独だった。
誰にも言えない、言ってはいけない、そんな緊張感。


人には見えないモノが見えて、しかもうっかり乗っ取られそうになるなんて。
なんてありがちな設定。

漫画なら面白いかもしれないけれど、私にそんなオプションはいらなかった。


始めはもやもやした霧のような形だった。
それがだんだんとはっきりした形になってきて、人なのだとわかったのは小学生になってから。
滑るように動く彼らをみて、本能的に関わってはいけないのだと悟った。


どうやら私は「好かれやすい」体質らしく、気を抜くとすぐに寄ってこられてしまう。
ひんやりとした手で肩に腕に触れられた瞬間、意識がひっくり返りそうになったこともしばしば。

その先にあるのが俗に言う憑衣状態だと気づいて、それからはひたすら「自分」を保つことに気を遣った。


親にも誰にも相談できなくて、精神的に疲れ果てていたあの頃、うたた寝の最中に彼と出会ったんだ。












「あれ?どうしたの、こんなところで」




おかしいなあと首を傾げたのは、夢のように綺麗な人。
しばらく見とれてから、そういえばさっきまで縁側で寝転んでいたんだと思い出す。


「……運がいいなあ」


こんな美形の夢を見るなんて。
久しぶりにゆっくり寝られそうだと微笑むと、少年もとろけるように微笑んだ。


「僕、ジーン。君は?」


おお、どう見ても日本人顔なのに外人風の名前。
さすが夢だ。


「私、


普通なら名字で言うけれど、外人風に名前で言ってみた。
するとジーンは嬉しそうに笑って、座りこんでいる私の前にしゃがみこむ。


「よろしく、!こうやって誰かと会うのは初めてだよ」
「私も!」


弾む声で返事をした途端、ジーンの姿が急激にぼやけた。




   ああ、目が覚めるんだ。




ぱちりと目を開けると、見慣れた天井が広がっていた。
それでも夢の中のあたたかい気持ちが残っていて、小さく頬がゆるむ。


できるならばまた会いたい、そう思った彼と本当に出会うのは、それから3日後の夢の中。


「あれ??」
「……ジーン?」


おかしい。おかしいぞ。
どうして夢の中なのに、この人は本物みたいな反応をするんだろう。


訝しんだのがわかったらしい、ジーンが困ったように笑った。


「……僕、生きてるよ」
「うん、それはわかるけど……」


ジーンが死人じゃないのはわかっていた。
だってやっぱり、死人と生きている人じゃ何か違うし。


あたりまえのことを言ってくれるなと首を傾げると、それもわかっているというようにかぶりを振られる。
次いで言われたその言葉に、思わず反応が遅れてしまった。




「そうじゃなくて。僕は本当に、と同じ世界で生活してるよ」
「…………え?」




ちょっと待って、何かおかしくないか?
夢の中の人が、普通こんなことを言うものだろうか。

おかしい。おかしいぞ。


眉根を寄せて考えていると、小さく笑ったジーンにそこをつつかれた。


「ここ。すごいことになってるよ」
「あ……うん」


反射的にうなずいてしまってから、いよいよおかしいと目の前のジーンをじっと見る。
……もしかして、ジーンは本当に、私の空想の産物じゃなかったりするんだろうか。


そんなことを考えながらとりとめのない話をして、最後に真面目な顔でこう言った。


。呑みこまれそうになったら、目を閉じてまあるい光の珠を思い浮かべてごらん。光の雫が珠に降り注いで、その場を清めてくれるんだ」
「場を……?」


ふざけて冗談を言っているのかと思ったけれど、ジーンはいたって真面目な表情だ。

私の「異質」がばれたのかと、一気に背筋が冷たくなった。
顔をこわばらせて見返すと、ジーンが心配そうな表情になった。


は多分、僕と一緒だね。見えるんでしょ?」
   一緒?」


ジーンも見えるの?


「清められた場所には、悪意を持った霊はいられない。雫はだんだん広がって、を中心に場を広げていく」


落ち着いて、集中して。


穏やかに紡がれるジーンの声は耳に気持ちよくて、言われるままにぼんやりと光る珠を想像する。


「光は何色をしてる?」
「……綺麗な桜色」
「それを忘れないで。きっと君を守ってくれる」


柔らかくもやけに真剣な声におかしいなあと思いながらも、素直にうなずく。
ジーンが教えてくれた、彼と同じ温かな光は、確かに私を守ってくれると信じられたから。












それからもジーンと会うことは何度もあって、その度に私の力の扱い方を少しずつ教えてくれた。
そのおかげで引きずられることもほとんどなくなったし、どういう時にどうすればいいのかもわかるようになっている。


   ?」


どうしたのと訊かれてかぶりを振って、ゆっくりと背中をあずけた。


「ジーンに会ってなかったら、私今頃どうなってたんだろうと思って」


ジーンに出会ってから、少し変わったねと言われることが多くなった。
気負わずに友達と話す事ができるようになって、気軽に付き合えるようになった。

揺れる事なく自分を保つ事を知ったから、私はやっていける。


はどんな時でもじゃないかなあ。いつかはきっと、しっかり歩けるようになってたと思うよ」


後ろから回された手が私のそれに重なって、とんとんと優しく叩かれた。


振り向かなくてもわかる、ジーンはきっと柔らかく笑っている。
だから私もそれ以上は何も言わずに、ただ小さく笑う。


会う度に大げさに喜んで抱きしめてくるジーンにも、いつの間にか慣れてしまった。
悲鳴をあげて飛びずさった最初の頃が懐かしい……。


「いつか、本当にジーンに会いたいな」
「うん、僕もに会ってみたい」


いつというはっきりした日時は言わないけれど、確かな願いと小さな約束。
それが実現する日を楽しみにして、そっと目を閉じた。