「おい、ジーンとの嬢ちゃんが、今デートしてんだってよ」


「あら、おもしろそうじゃない」
「だろ?だろ?見に行かねえ?」
「ちょっとぼーさん、綾子!2人に悪いじゃん」
「ほほー。んじゃ、麻衣は興味ないわけだな?」
「うぐ……」


というわけで、済し崩しにその場にいた全員がデートの尾行をすることになってしまった。
ちなみにナルとリンだけは、頑として仕事を続けることを譲らなかったため、今回は欠席である。


「本当にいいのかなあ……達、怒ったりしないかなあ」
「あら、この期に及んでそんなことを心配していますの?」


つんとすました真砂子にむかって、麻衣が口を尖らせる。


「だって、だよ?ナルのブリザードにも引かないだよ?怒ったらものすごく怖そうじゃん!」


ナルがどんなにブリザードをぶちかまそうと、リン以外にいつも通りでいられる唯一の人物がだ。
その彼女が怒るとなれば、どれほど恐ろしいだろう。

ぶるりと震えた麻衣の視線の先では、そのがジーンと共に楽しそうにショッピングをしていた。


「ほら、これもに似合いそうだよ」
「えええ、そんなに明るい色はちょっとなあ……」
「大丈夫だって!ほら、試着してみなよ」


ジーンに若葉色のトップスを勧められたがしりごみをし、それをジーンが笑顔で押し切ろうとしている。
確かに、彼女から若葉色というのはイメージしにくかった。

本当に似合うのか?と視線で会話をしあう面々の先で、ジーンはさらに「スカートはこれね!」とティアードを勧めている。
さらに彼女から連想しにくい。


それでもジーンは自信たっぷりで、もそれに気圧されたかのように受け取って試着室へと消えた。
そして。




「……ジーンの奴、なかなかやるなあ」
「ですねえ。まさか、さんがあんな格好も似合うとは」
、可愛い……!」




恥ずかしそうに姿を現した彼女は、今までの落ち着いた印象をぶち壊すように似合っていた。
彼女らしい、けれど今までの彼女とは全く違う。
相手をよくよく知らないと、あんなチョイスはできないだろう。


「ど、どうかな……やっぱり何か、落ち着かないんだけど……」


膝上のティアードの裾をしきりに引っ張りながら、が恥ずかしそうにジーンに訊く。
そんな彼女に笑顔で太鼓判を押して、ジーンはさらに数着を手渡した。


「大丈夫、すごく似合ってるよ!可愛い!!はい、これも着てみてね。下はそのままで!」


いつの間にピックアップしてきたやら、どれも彼女のイメージとは程遠いものばかりだ。
けれどそれに文句を言うわけでもなく、は恥ずかしそうにうなずいただけでまた試着室に引っ込む。
そのあたりに、2人の信頼関係が見えた。

見えて、見ている方が恥ずかしくなった。


「なんていうか……本当に仲がいいんですねえ」
「馬鹿馬鹿しいくらい仲がいいですわね」


小さく鼻を鳴らす真砂子の口調が少しひねているのは、うらやましいからか。


「ど……どうかな……」
「うーん……次のを着てみてくれる?」
   これは?」
「ああ、やっぱりそっちの方が似合う。にはさっきのは派手すぎたね」


そんなやりとりを交わすこと数回、買い物籠にいっぱいになった洋服に、がためらいがちにジーンの腕を引いた。


「ね……ねえ、やっぱりもう少し減らさない?」
「どうして?僕が買うんだから、別にいいじゃない」


それに、ここのってそんなに高くないし。


さらりと言ってのけるジーンだが、何しろ服の量が量だ。
がためらうのは無理もない。
逆に、さらりと言えるあたりにジーンの懐具合が透けて見えた。


「高くないとか、そういうことじゃなくて!単価が安めでも、いっぱい買えば高くなるでしょう!?」


突っ込んだは、どこまでも常識人だった。
その場にいた全員がうなずくぐらい常識人だった。
しかし悲しいかな、ジーンには通用しなかったようだ。


「単価が安ければ、これと同じ量を買った時よりも安いよ?」


小首を傾げて、さらりと。

ごくごく普通に、不思議そうに言うジーンに、さすがのもそれ以上何も言う気が起きなくなったようだ。
ぐたりとジーンの腕にもたれかかって、「もういいや……」と呟いている。
その間にもジーンは喜々としてレジ待ちの列に並んでいて、これではどちらが買い物を楽しんでいるのかわからなかった。


ひとしきりショッピングを終えたところで、2人は移動を始めた。
竹下通りにでも行くのかと思ったら、そこを通り越して表参道の方まで行くらしい。


「今度はブランドものでも買ってやるのか?」
「や、さすがにそれは、が許さないでしょ」
「あら、でも、ジーンなら『大学生ならこれくらい持っててもおかしくないよ!』とかって笑顔で押し切りそうじゃない?」
「……ありえる」


とてもありえる。

しかし、2人が向かったのは、値段に比例して大きさも味も抜群と評判の、有名なケーキ屋だった。
それぞれ違うケーキを一切れずつテイクアウトした2人は、その足で近くの大学に向かう。


「ね、ねえ、いいの?私達、こことは関係ないじゃない」
「平気平気、東大なんて犬の散歩コースになるぐらいだよ?それに、このキャンパスは緑が綺麗なんだ。あそこはテイクアウト専門だし、ここで食べちゃおうよ」


しりごみするを、ジーンが押す形でだが。
しきりにその大学の学生ではないことを気にしていただが、いざケーキを食べ始めると腹をくくったらしい。


「おいしいね、
「うん。紅茶がないのが残念だね」
「缶でいいから、購買で買ってこようかなあ……」
「それはさすがに……!」


ベンチに座ってそんな会話を繰り広げていたジーンが、不意に身を乗り出しての頬にキスをした。


「ジーン?」
「ケーキ、ついてた」
「だからって、キスしなくても……」


対するも、恥ずかしそうではあるが飛び退いたりはしない。
どうやら、こういうことには慣れてしまったらしい。


「うお!?」
「公衆の面前で……やるわね、ジーン」
「……真砂子、あたしもうお腹いっぱい……」
「あたくしもですわ……」


色めき立つ大人達と、げんなりする若者達。
そんな彼らに気づくことなく、とジーンはその後も楽しくデートをしましたとさ。











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「ジーンとのデートを弟陣が出歯亀する話」でした。
さすがに弟くんとリンさんは出歯亀しないと思うので(笑)今回はお休み。


SPRは渋谷にあるので、ヒロインの大学も渋谷から交通の利便性がある場所=デートも渋谷近辺という方程式。
最初に行ってるお店はあれです、某原宿にある女性向け大型ショップ。
どれかはあえて指定しませんでした(笑)
だって、行ったことがないからわからないんだもの!
ケーキ屋さんは例のごとく、キルフェボンがモデルというかそのもの。

お持ち帰りはリクエストをして下さった方のみとなります。
リクエストありがとうございました!