|
デイヴィス家の朝は、母親の優しい声で始まる。 「令奈、仁、起きなさい」 「まだ眠いよ……マム」 「おはよう、マム」 寝ぼけ眼の娘に対し、息子の方はあくびをしながらもしっかりと答えた。 どちらがどちらに似たのだかと苦笑しながら、は令奈の頭をなでる。 「ねぼすけさんは、ダディに言いつけるわよ」 「やだ!」 途端にぱっと起き上がった令奈は、そういえば今日はと思い出して顔を輝かせた。 「マム、ダディは!?帰ってきてるの?」 「ついさっき、ね。お土産いっぱい持ってきてるよ」 「やった!グランマからも何かあるかな?」 飛び起きた妹の腕が顔に当たりそうになって、仁がほんの少し顔をしかめる。 それでも文句は言わないあたり、精神年齢はかなり高いようだ。 というよりも、3つも年の離れた妹だから、怒る気にもなれないといったところか。 「ダディはリビング?」 「ええ。早く着替えて、挨拶してきなさい」 仁にうなずいて、は子供達のベッドメイキングを始める。 これ以上は寝てはいけませんよ、という合図だ。 まだ手つきがおぼつかない令奈の着替えを手伝いながら、仁も素早くTシャツとショートパンツに着替える。 数週間ぶりに会う彼らの父は、とても多忙だ。 世界中をあっちこっち飛び回っているらしく、(それでもイギリスとアメリカだけだと彼らの母は笑っていたが)下手をすると自宅にいる時間の方が短いかもしれない。 それでも、愛情をたっぷり注いでくれる父が、彼らは大好きだった。 「ダディ!!」 「ダディ、お帰り!」 「レナ、ジーン、ただいま。いい子にしてた?」 飛びつくように抱きついた2人をしっかりと抱きとめて、ジーンが朗らかに笑う。 それぞれの頬にキスを落としながら、子供部屋から出てきたにも微笑みかけた。 「ジーン、聞いてよ。令奈ったらね 「マム!ちゃんといい子したでしょ?」 おかしそうに笑いながら先程のことを言おうとするを、令奈が必死に遮る。 それだけで何があったのかを容易に察して、ジーンは令奈の柔らかい頬をつんとつついた。 「ねぼすけは駄目だよ、令奈。マムが困るじゃないか」 「ねぼすけじゃないもん!ちゃんと起きたもん!」 「マムに言われて、やっとね」 ぼそりと仁が呟いて、令奈に八つ当たり気味に叩かれる。 さすがに痛かったのか、仁も父親譲りの綺麗な顔を歪めた。 その様子を見ていたが、ジーンの腕からそっと令奈を引き取って怖い顔を作る。 「令奈。今みたいに、自分が仁に叩かれたらどう思う?」 「……やだ」 「でしょ?自分がされて嫌だと思うことは、誰にもしちゃ駄目。自分は駄目でも人にはいいなんて、そんなのずるいでしょ?」 の言葉にしょんぼりとうなだれた令奈は、くいと仁の服の裾を引いて、小さな声で「ごめんなさい」と謝った。 仁もそれ以上怒る気はなかったのか、令奈のまっすぐで柔らかい髪をなでる。 「令奈がわかったら、それでいい。 どうやら、彼にとってはお土産の方が大事なようだ。 今回はイギリスに行っていたジーン、仁の問いかけにくすりと笑ってテーブルの脇を示した。 「グランマとグランパからも預かってきてるよ。 「夏休みね……チケット、早めに取った方がいいかな?」 「大丈夫じゃない?ビジネスなんて、そうそう埋まらないよ」 「……そうだったね……」 呆れたように苦笑したが、朝食を作るためにキッチンに入る。 その間にも子供達は丁寧にお土産を開けていて、その一つ一つに歓声をあげていた。 「このテディベア、可愛い!」 「すごい、本物のライティングフィギュアだ!イギリス限定なんだよ、ダディ」 「レナ、そのベアはシュタイフ社のだよ、グランパからだ。イギリス限定だから買ってきたんだよ、ジーン」 子供達の言葉に丁寧に答えながら、ジーンはキッチンで忙しく動くを見た。 強くて折れそうにもろかった少女が、今では強くてしなやかな母親になっている。 そんな彼女が愛しくて、ジーンは子供達の頭をなでてからキッチンへと向かった。 「2人の相手はいいの?」 「僕、まだに構ってもらってないよ」 「……ジーンったら、ジュニアが聞いたら笑っちゃうよ?」 後ろから抱きつかれても、のフライパンを動かす手はぶれない。 キッチンのアルバイトで火傷を負っては、ジーンを心配させていたあの頃とは大違いだ。 首筋にキスを一つ落とすと、さすがに小さな悲鳴と共に手先がぶれたが。 「もう、ジーン!」 「平気だよ。レナもジーンも、プレゼントに夢中だ」 「だからって、いきなりは駄目!」 火を使ってるんだから危ないでしょ、と怒る彼女は、やっぱり可愛くて。 結婚して何年経っても、彼女が傍にいてくれることに幸せを感じる。 「イギリスに行ったら、2人をルエラ達に預けて、どこかにちょっと旅行に行かない?」 「それっていつものパターンじゃない……。まあ、ルエラもマーティンも喜んでくれるから、一応親孝行にはなるんだろうけど」 「じゃあ、決まり!プランを考えておくから、楽しみにしててね」 嬉しそうに笑ったジーンがの頬にキスをして、「ダディ!」という令奈の呼び声にキッチンを出ていく。 そんな彼を苦笑しながら、もどこか嬉しそうに笑うのだった。 いつまでも一緒にいられる幸せ。 ずっとつながりがある幸せ。 あの長い夢での逢瀬から始まった日々が、こんなにも明るい。 あの日出会えてよかったと、は心から微笑んだ。 ----------------------------------- 5番以内にリクエストをくださった方がどんなシチュエーションでもいいとおっしゃってくださったので、もれた方の「IF未来夢」をサルベージしました(笑) きっといつか、今のような日常を積み重ねて、2人がこんな夫婦になっていればいいなという願いをこめて。 令奈と仁は、英語でも日本語でも通じる名前にしてみました。 仁は英語ではジーンなので、ジュニアとも呼ばれます。 違う名前の方がいいかなー、でも何かいいものが思い浮かばないなーとか迷いながら、結局仁に決定。 お持ち帰りはリクエストをして下さった方々のみとなります。 リクエストありがとうございました! |