、こっちこっち!」
「ジーン!ちょっと待って、そんなに早く行けない!」


嬉しそうに早足をおさえきれないジーンを追いかけて、人ごみの中を必死に歩く。
いつかカレイドスコープの展示会でやってきたデパートは、やっぱり今日も変わらずに混んでいた。


「きっとも喜ぶよ」


家を出る前にジーンがそう言っていたけれど、一体何の展示会なんだろうか。
何回訊いても教えてもらえなくて、結局わからないまま来てしまった。


「ねえ、ジーン。もう教えてくれてもいいじゃない」
「見ればわかるって。大丈夫!が嫌がるようなものじゃないから」
「絶対?」
「絶対」


大真面目にうなずいたジーンに苦笑して、それ以上訊くのはやめる。


見上げたジーンは優しい顔をしていたし、そこまで言うのなら本当なんだろう。
ジーンは私のこと、よくわかってくれているから。


「ほら、!ここだよ」
「……うわあ……!!」


西洋の絵本展。
パステル調の色でそう書かれたパネルを見て、思わず歓声をあげてしまった。


海外の絵本には、昔から繊細な絵で描かれたものが多い。
かの有名なピーターラビットもしかりだ。


「好きでしょ?こういうの」
「うん!ありがとう、ジーン」


以前の展示即売会とは違って、今回はちゃんとした展示会形式だ。
チケットを買って中に入ると、ガラスケースの中にきちんと納められた絵本が並んでいた。


「あっ、幸福な王子だ」


燕が王子の剣の宝石を持って行くシーンだ。
柔らかいタッチで王子が微笑んでいて、燕も触ると温かそう。


「この目、深くていい色だね」
「うん。はっきりした色を使っても、ここまで柔らかく描けるんだね」
「厚く重ねるような色の乗せ方をしてるからね。ほら、こっちはアリスだよ!」


アリスはさすがに有名どころと言うべきか、何冊か同じ本が並べられて、色々なシーンが開かれていた。
隣のジーンはハンプティ・ダンプティの歌を口ずさんでいて、ずいぶんと楽しそうだ。


、見て。お茶会のシーンだ」
「うわあ、細かい描きこみ……!!」


ティーカップやケーキはもちろん、テーブル中に散乱している角砂糖やクッキーもちゃんと描かれている。
大ざっぱに描くことで想像力をかき立てる日本の絵本とは、随分違った。


「私、アリスシリーズの原作、読んだことないんだよね」
「おもしろいよ!絵本はやっぱりデフォルメされて省略されてる部分もあるけど、ものすごくシュールなシーンもあるし」
「絵本じゃなくて、児童文学だもんね」


確か、鏡の国のアリスっていう続編もあった気がする。
どんな話だろうと思ってジーンに訊くと、「僕はあんまりおもしろくなかったかな」という驚きの返事が返ってきた。


「やっぱり不思議の国の方がおもしろいね。続編は続編でしかないっていうか、何か物足りないっていうか」
「そうなんだ……何だか、ちょっと意外だなあ」


アリスの続編がおもしろくないっていうのも、ジーンがそれを言うのも。
何となく、ジーンならもっと柔らかく表現しそうな気がしていた。


「自分で読んでみるのが一番だと思うよ。僕が好きでも、はあんまりおもしろくなかった本もあっただろ?」
「あ、マザーグース?」
「うん」


ジーンはそらで暗唱できるほど大好きだけれど、日本語訳しか知らない私はあまりおもしろいとは思えなかった。
かと言って、英語を読んでみても、今度はさっぱり意味がわからなかったんだけれど。


「じゃあ今度、図書館で借りてみるね」
「うん、そうしなよ」


学校の図書館にあるといいな。
なかったら、市の図書館に行ってみよう。


その後も色々な絵本を見ては、絵画のような挿絵の綺麗さに2人ではしゃぐ。


「この虹!足のにじみ方がすごいね」
「ね!すうって溶けてくみたい」
「しかも、色の境目も本当の虹みたいにわからないよ」


「ジーン、ジーン、ピーターラビット!」
「ミス・ポターの表現力はすごいね。こんなにリアルなタッチで、ここまで自然に二足歩行のウサギを描いちゃうんだもん」
「可愛いなあ……ピーター」
「今度、絵本でも買っちゃおうか」
「うん!どうせなら原書がいいな」


そんな会話をしながら展示会場を出ると、お約束の物販コーナーがあった。
展示されていた絵本が売られていたり、ピーターやアリスのようなキャラクター化しているものはグッズを売っていたり。

一等気に入った草原の絵のコピーと、綺麗な時の幸福の王子のメモ帳を買って、ピーターのぬいぐるみをちょいちょいと触って楽しむ。
ふかふかの毛並みは本物のウサギのようで、抱きしめたくなる衝動をこらえるのでいっぱいいっぱいだった。


「ねえ、   
「あ、いらないよ?そうそういろんなものを買ってもらうわけにはいかないもの」


にっこりと笑って言いかけたジーンには、慌てて釘を刺しておく。

去年のカレイドスコープみたいに、ほいほいと高いものを買ってもらうわけにはいかなかった。


そうしてくれようとする気持ちは嬉しいけれど、私はまだ高校生なのだ。
高いプレゼントなんて、誕生日とかじゃないととんでもない!


残念そうな顔をしたジーンにもう一度念を押して、さっさと会場から出る。
それでも名残惜しそうに何度か振り返っていたジーンが、不意に何かを思いついたように笑顔になった。


「ねえ、。それじゃあ代わりに、本屋さんでさっきの絵本を探そうよ」
「……これ?」


さっき買ったコピーを見せると、ジーンは嬉しそうにうなずく。


「多分それなら、そんなに難しい単語もないし、英語の慣らしにもなるよ。綺麗な絵を見てれば飽きないし、どう?」
「……いいかも!」


いつでもこの絵が見れるなら、たまには英語の絵本もいいかもしれない。
そう思ったら、かぜん買いたくなってきた。


「ね、ついでにピーターの本も探さない?」
「いいね!あるといいな」
「ね。楽しみ!」


ジーンがお金を出す気満々だとは露知らず、仲良く並んで歩いた本屋さんへの道は、足取りがとても軽かった。




「え?は出さなくていいってば」
「駄目駄目駄目ー!せめて割り勘!」
「僕がプレゼントしたいんだってば!」











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鳥乃様に(勝手に)捧げます!
ちょう憧れの尊敬サイト様と相互リンクしちゃって、嬉しすぎて調子こいたみたいです。すいません。

ジーンはヒロインが大好きすぎて、色んなものをプレゼントしたい子。
ヒロインは堅実すぎて、ジーンからのプレゼントにガクブルしちゃう子。
だってほら、ジーンはお金持ちですから!(笑)

外国の絵本は絵画のようなものが多いと思ったら、こんなお話になっていました。
日本の絵本は、水彩でさっと描いたようなものが多いですね。
どちらもいい味で好きですが、この2人も子供みたいに大はしゃぎで展示会を満喫すると思います。
絵本大好き!