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穴があったら入りたい。 ひしひしとそんなことを思いながら、ただただ拷問にも近いその時間に、かれこれ20分は耐えていた。 「でね、ったら毎回涙目で『また会える?』って聞くんだよ?会えるかどうかの自信はなかったけど、そんなこと言われたら頑張るしかないでしょ!」 「あー……そりゃあ、時差も飛び越えて寝るっきゃねえなあ」 「だよねえ。あの頃のは少し不安定だったから、余計に放っておけなかったっていうのもあるんだけど」 「わかる!わかるぞ、その気持ち」 さっきから、ジーンが昔話をやめないのだ。 しかも、私に関することばかり。 きっかけは、綾子さんの「あんた達、どこでどうやって知り合ったわけ?」という問いだ。 それに喜々としてジーンが答え始めたのはいいんだけれど……もう、勘弁してほしい。 「ったら、すぐに無理しようとするから、目が離せないんだよ」 「へえ、そうなの?」 「うん。でもまあ、そこが可愛いんだけどね!」 うふふと笑ったジーンを、ぼーさんと綾子さんがうりうりと苛めている。 それでも幸せそうに笑うジーンは確かに美人だけど……だけど……! 恥ずかしいから、それ以上話すのをやめて! そんな内心の悲鳴が届くはずもなく(安原さんに「当たり前じゃないですか、あははは」って言われた)(安原さんは人の心が読めるのかと、一瞬本気で思った)、ジーンはまだ喋り続けている。 どこかに助け船はいないかと辺りを見回して、うってつけの人材を見つけた。 興味津々のみんなとは一線を画すかのように、ナル君が優雅に本を読んでいる。 うるさそうに顔をしかめながらもこの場に残っているのは、ジーンが「たまには交流も必要だよ!」と無理を言ったから。 ナル君の方が肉親のはずなのに、私の方が申し訳なくなってくるのは何故だろう……。 「ナ、ナル君、その本、新しいやつ?」 おそるおそる話しかけると、ちらりとこちらを見たナル君が本を閉じた。 「 「ああ、いっぱいあったあれかあ……重かったなあ」 「もう2度ほど来る予定だ。覚悟しておくんだな」 「うわあ……」 両手で持ってもよろめくほどの重量を思い出して、思わず顔をしかめてしまう。 そんな私に余裕の笑顔を見せて、ナル君は手元の本を軽く振った。 「貴重な研究資料だ。お前も読んでみるか?」 「結構です。そんな英語の本、読めるわけないもの」 「随分と貧相な語彙だな」 「専門書を読めるほどの語彙は持ってません!日常会話ならそこそこできるんだからね」 さすがにほぼ毎日英語にもまれていれば、ざっと目を通すぐらいの語学力はつく。 けれど、SPRからの書面は専門用語も多くて、しかも辞書に載っていないような類いのものだからたちが悪いのだ。 半分以上勘で振り分けている手紙の数々は、今のところ大きな間違いはしていないようだった。 ナル君の表情から毎回それを確認して、時々こっそりとリンさんに訊いたりもしている。 小さく睨みながらそう答えると、ナル君もわかっていたようで、軽く口元をつりあげた。 ジーンと瓜二つの顔なのに、その雰囲気は全く違う。 改めてそれを感じて、何だか不思議な気持ちになった。 同じ顔でも、こうも違う空気を纏えるものか。 ついまじまじと見つめてしまったらしい、ナル君がちょっと嫌そうに片眉をつり上げた。 慌てて謝って、コーヒーでも淹れてこようと席を立つ。 「私、紅茶は淹れられないけど……コーヒーにミルクと砂糖はいる?」 ナル君のカップも空になって久しいから、喉も渇いているだろう。 みんなはそんなことなんて関係ないようにジーンの話に食いついているけれど……そんな人達の分は知らない! 「ミルクだけ頼む」 「わかった。ちょっと待っててね」 そう言って、給湯室に向かおうとしたその時。 背中にずしりと重いものがのしかかった。 誰と訊かなくてもわかる、この感触はジーンだ。 「ジーン、どいて!」 「だって、ナルばっかりずるいよ!を独り占めして」 「怒るポイント違うから!!ジーンも、人の恥ずかしい話ばっかりしないでよ!」 後ろからぎゅうぎゅうと抱きしめられては、身動きをとることもできない。 困り切ってナル君を見ても、軽く肩をすくめられるだけ。 ……私にどうしろというの? 「、僕も構ってよ」 「ジーンとはいつも話してるじゃない。家に帰れば一緒なんだし」 「だからって、外では構ってもらえないんじゃ、寂しいよ」 拗ねたように口を尖らせたジーンが、私の頬に軽くキスを落とす。 くすぐったさに身をよじると、更に強く抱きしめられた。 「ナルと何話してたの?」 「あの本の話だよ。読んでみるかって言われたけど、私に読めるはずないじゃない」 さっきの意地悪そうな笑みを思い出してむくれると、くすくす笑ったジーンが頬をすり寄せてくる。 「ナルも意地悪だなあ。の英語力、普通からすればずいぶんなものだと思うけど?」 「だよねえ……専門用語がわからないのが、ちょっと痛いけど」 「おいおいわかるようになるよ」 なだめるように梳かれる髪の毛が気持ちいい。 目を細めたところで、ぼーさんの呻くような声が聞こえた。 「お前さん達……悪いが、いちゃつくのは他でやってくれ……」 「え?」 「やだなあ、ぼーさん。スキンシップだよ、スキンシップ」 「あんた達のスキンシップとやらは、私達には過激すぎるのよ」 綾子さんも疲れたような顔をしているし、麻衣ちゃんと真砂子ちゃんは真っ赤になっていた。 安原さんはおもしろそうな表情だし、ジョンさんも苦笑い。 ……これってもしかして、普通じゃないの? そんなことにようやく気づいたけれど、慣れてしまったからもういいか。 そう思いながら、柔らかいジーンの唇を頬に甘受した。 ----------------------------------- 「弟陣の前でのろけまくるジーンにヒロインが照れてナルとばかりしゃべり、ジーンがやきもちをやく話」でした。 最後はいちゃいちゃで!とのことでしたので、いちゃいちゃで! ジーンとヒロインは、無自覚に(ジーンは半分確信犯で)いちゃこいてると思います。 SPRの面々は、度々それにあてられているといい。 この2人は書いていると和みます。 周囲は大迷惑でしょうけど!(笑) お持ち帰りはリクエストをしてくださった方のみとなります。 リクエストありがとうございました! |