リンが日本に行くって聞いた時、真っ先に思ったのが寂しさじゃなくてやっていけるのかっていう心配だった。
だってリン、日本人が大嫌いだったもの。

仕事とはいえ日常的に日本人だらけの場所で過ごすのもストレスだろうし、何よりも人間関係が最悪になりそうで……。












『あーはいはい、そうねー』
「ちょっとまどか、聞いてるの!?」
『聞いてるわよ。あなたも日本に行ってるんだから、別にいいじゃない』
「よくないわよ!」


私だって、私だって、リンに受け入れてもらうのに何年もかかったのに!
ここの人達ったら、数か月であの懐に入っちゃうんだもの!!


「まどかぁ……」
『何にも心配する事はないと思うんだけど……』


久し振りの国際電話。
本部からの依頼の進捗状況を報告するためのものだったのに、いつの間にか私の愚痴タイム。
いつもの事だから気にしないわってまどかは笑ってくれたけど、「いつもの事」になっているこの状態が恥ずかしい……。

小さく鼻をすすると、それが聞こえたんだろうまどかが向こうで苦笑した。


『リンはあなた以上に信頼する人なんていないわよ。もっと自信持って』
「持てるように頑張る……」


そう、私はリンの恋人。
たとえどんなに簡単に、麻衣達がリンの懐に入ってしまったんだとしても、それは変わらないの。

そう言い聞かせないと不安になる自分にまた嫌気がさして、電話を切ってから大きなため息が出た。


頑張って頑張って、日本支部への異動が決まった時は、本当に嬉しかった。
これでやっと、リンと一緒にいられるって。

距離はうんと近くなったのに……気持ちはあの時よりもずっとつらい。


「リンの馬鹿……」


ぴん、と指先で弾いた写真立てでは、仏頂面のリンがこちらを向いていた。












平日だろうが何だろうが、SPRの助っ人達は集まる時にどさっと集まる。
それにナルが不機嫌になるのも、麻衣がとりなすのも、もういつもの光景。


さん、何飲みます?」
「私はいいよ、ナルに怒られちゃうから。どうせならリンに持ってってくれる?多分あの人、朝からろくに休憩とってないから」


資料室に籠りっぱなしのリン、お昼を食べたかどうかも怪しい。
悪戯っぽく笑いながら麻衣にそうお願いすると、麻衣も心得たとばかりに笑ってうなずいてくれた。

ぱたぱたと軽い足音をたてて離れていく麻衣を見送りながら固まった肩をほぐしていると、ぼーさんがひょっこり顔を出す。


「嬢さんや、ちょっと根つめすぎじゃねぇか?ちょっとぐらい休んだって、ナル坊も怒ったりしねえって」
「ありがと、ぼーさん。でもね、これは次の依頼の資料なんだ。今やっておかないと」


調査開始は4日後。
せめてまとめるぐらいはしておかないと、本当に支障が出るもの。


「それなら麻衣にもやらせろよ。そんなんじゃ倒れちまうぞ」
「大丈夫だって」


「貴方の大丈夫は一番信用できないんですがね」
   っ!!」


びっくりしすぎて、プリントアウトしたばっかりの書類がばさばさと床に落ちた。


「リン……」
「谷山さんから聞きましたよ、。朝から食事以外で休憩をとってないそうですね」
「しょ、食事はとったもの」
「それもデスクに向かいながら15分、でしょう」


疑問ではなくて断定された。


言い返せずに目をそらすと、リンが大きなため息をついて書類を取り上げる。
反射的に取り返そうとした私の手を軽々とかわして、紙の束は見事に麻衣の手に。


「お願いしますね」
「はい!任せてください」


意気揚々と答えた麻衣に、返してと言う気力もしぼむ。


「てなわけで嬢さん、ちょっと息抜きして来いや」
「でも   

「はいリン、これ。気をつけてね」
「ありがとうございます、松崎さん」
「ちょっと、綾子さ   

「あんたは何でも頑張りすぎなの!遊んできなさい」
「でもナルが   

「ナルの許可はもぎ取ったから大丈夫ですよ!!」
「麻衣……!」


一体どんな手段使ったの、あなた……!












リンに手を取られて、たどり着いた先は何故か遊園地。
リンに遊園地……ミスマッチだ……。


「リン?」
「……谷山さんにここのチケットを渡されたんですよ」


一体どうしたのかと仰ぎ見れば、苦笑して教えてくれた。


「気、遣わせちゃったね」
「お土産を買って帰れば大丈夫でしょう。そんなことを気にする人達じゃありません」


ひょいと肩をすくめたリンに笑って、せっかくだからとジェットコースターに引っ張る。


「リン、髪結ばなくて平気?」
「何を言い出すんですか、


冗談を言えば呆れたように答えてくれて、最近では珍しくなったそんなやり取りに顔がほころんだ。

キャラメルコーンを買って2人でつまんだり(リンはあんまりいい顔をしなかったけれど)ぼーさんへのお土産にネタ系のものを探したり(リンにはそんなものを買ってどうするんだって呆れられたけれど)、久し振りに仕事を忘れて子供みたいにはしゃぐ。


「楽しいですか?
「うん!」


隣で微笑ましそうに目を細めてくれるリンがいるから、なおさらに。

平日昼間でも遊園地はやっぱり混んでいて、人にぶつからないようにさりげなく腕を引き寄せてくれるリンが嬉しかった。
こういうところは紳士なのよね、リン。

背の高いリンを見上げるようにして笑ったら、小さく笑い返してくれた。
それだけで浮き立つこの気持ち、何て単純なんだろう。


「観覧車、乗っていい?」
「ええ」


お決まりのように定番の観覧車に乗ると、遠くまで見渡せる町並み。
何が楽しいってわけじゃないけれど、普段の生活から切り離されたようで、何だか不思議な感じだ。





不意にリンに呼ばれてそちらを向くと、深い色の瞳と目が合った。


「私は、日本人が嫌いです」


いきなり何を言い出すかと思ったら!

呆れが顔にも出ていたんだろう、リンがちらりと苦笑する。


「正直、まどかもいまだに少し苦手です。そんな私が、貴女を選んだ   この意味が、わかりますか?」
「え   


リンは苦笑したまま、それ以上何も言わない。
じわじわとその意味が理解できて、自分でもわかるほど顔が赤くなっていく。




「……まどかの奴……」




うめいた声は、手のひらに遮られてくぐもっていた。
……みんなへのお土産、もうちょっといいものに買い直そうかしら。











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「リンと遊園地でラブラブデート、というベタな設定で」というリクエストでした。
実は私自身が遊園地に行った記憶がほぼ皆無(というか、遊園地でどうやって遊ぶか知らない)という状態なので、こんなんでいいのかなあ…とちょっぴり不安。
ヒロインはリンより2歳くらい年下の研究室メンバーを想定してみました。
性格も、私が書く子にしてはちょっと珍しいタイプ。


書いた後に、そういえばリンさんって何歳?とか思って、ネットで調べてみたんですが…GHメンバーって、麻衣とナル以外は正確な年齢って設定されてなかったりしたんでしょうか…?
真砂子は麻衣と同い年だったような…?ぐらいの記憶力です、すいません(ヘコー)
悪霊シリーズがほしいと思っても絶版で、買おうとすると超高いし。
中庭同盟も喉から手が100本ぐらい出るほどほしいけど、やっぱり以下同文。
…再版、してくれないかな、講談社…。

リクエストしていただいた方のみ、お持ち帰り可とさせていただきます。
リクエストありがとうございました!