僕は、人間じゃない。僕はレプリカだ。人間じゃない。(誰かがきっとそれを知った時に面と向かって僕を「化け物」と罵るだろう、それがレプリカと言う生き物だ。人間の形をしたまったく違う生き物。まがい物。そう、化け物)

「シンク……シンクの髪の毛は、綺麗だな」

そっと僕の髪を撫でながら、カズマが目を細めてそう言った。その言葉に、苛々する。

「そりゃあローレライ教団の導師様がオリジナルだからね」

カズマは何も悪くないのに八つ当たりする自分に苛々する。
カズマに触れられて褒められて名前を呼ばれて喜ぶ自分に苛々する。
苛々する自分に苛々して、苛々する自分がみっともなくて、何も持ってないのだと言われているようで悔しくて、悲しくて、恥ずかしくて、哀しくて、笑いたくなる。

まがい物で、偽物で、化け物で、ああ自分のものなんて何一つ(象る姿も、髪の色も瞳の色も声も全て全て全てオリジナルそっくりだ!)持ってないくせに、一人前にそんな気持ちは持ってるなんて、馬鹿みたいだ。











啾々










僕の言葉に、カズマがそっと首をかしげた。

「シンク?」
「何、知らなかったの? ……知ってただろう? 僕のオリジナルは導師だ」

僕がレプリカだと言うことを知っていたカズマなら、僕のオリジナルだって知っていただろう?
ローレライ教団のお偉いお偉い導師イオン様。導師守護役に守られる、預言を詠む大切な大切な導師様。今はもう死んでしまったけれど、そんな導師が僕のオリジナルなんだ。完璧で、レプリカが造られる位に高位で求められる(僕にはないものを持っていて、僕を持っている、)オリジナル。憎くて憎くて憎くてたまらない、オリジナル。

「ねぇカズマ、あんたはどう思う?」

導師の声(いいや、違う。僕の声だ!)がカズマにそう問う。
嘘だよ嘘だ嘘なんだ嘘なんだよカズマ答えないで。答えないで。答えないで!
あんたの口から僕を拒絶する言葉が生まれることを考えただけで想像しただけで妄想しただけでそれだけで膝が震える。あんたに拒絶されたら僕はこの世界のどこで生きて行けば良いと言うんだ。

「気持ち悪い? 気持ち悪いだろう?」

ああ、ああ、ああ、ああ、気持ち悪い。自分でそう自覚している癖に同情を引こうとそんなことを問いかける自分が気持ち悪い。吐きそうだ。吐き出しそうだ。ああ、ああ、ああ、ああ、気持ち悪い。(ぐるぐるせかいがまわる、きもちわるい。きもちわるい。……きもち、わるい)

「オレは、」

心臓が、第七音素がぴたりと静かになった。世界の中でたったひとり、取り残されたように静かになる。

「オレは、気持ち悪いだなんて思わない」

そっと、優しく囁くよな説くような宥めるような声がふわりと降り注ぐ。

「シンクは、シンクだ。導師イオンじゃない。名前だって違うし、性格も違う。それに、オレは導師イオンなんて知らない。会ったことない」

きっとそれは優しい嘘だった。この男が導師を知らないだなんて有り得ない。だってこの男は僕が導師のレプリカだって知ってたんだ、だから、だから、だから、それは、優しくて、酷く優しくて、哀しい位に優しい、嘘。

「なあシンク、オレはシンクの名前好きだよ。シンクも、シンク自身も好きだ」

カズマの指先が、そっと僕の目尻を撫でる。見れば、その指先は透明な雫に濡れていた。

「それじゃ、駄目なのか?」

僕はレプリカだ。レプリカ以外の何でもない。出来損ないで廃棄処分される予定だったレプリカだ。造られた存在だ。運が良かっただけの存在だ。僕以外の導師のレプリカはあの真っ赤な口に飲み込まれてそして還ってこなかった。溶けて消えた。燃え尽くされた。灰にすらならずに、髪の毛一本残らなかった。僕らは第七音素で出来ている。死ねば、空に溶け消える。だから何も残らなかった。そう分かっていても、それは恐怖だった。

死ぬと言うのは恐怖だ。

「カズマ、」

ぎゅっと、その袖を捕まえる。手は少しだけ震えていた。緊張で掌が汗ばんでいた。(みっともなかった、けれどカズマは何も言わず僕を見ていた)

「僕が、死んでも、僕を、覚えててよ」

覚えててくれますか、とは問えなかった。
拒絶されて否定された時のことを考えると、問うことは出来なかった。

「……忘れないだろ、絶対」
「絶対?」
「ああ、絶対だ」
「本当に?」
「ああ、本当に」

死ぬと言うのは恐怖だ。
だって僕らは何も残さない。何も残らない。何一つ。全部溶けて消える。全部、全部、全部。
だから、僕と言う存在も消えてしまうんじゃないかと思ってしまう。ねぇだって僕が消えたらあんたは忘れてしまわないか? だって、だって、全部、本当に全部消えてしまうんだ。(僕のきょうだいがあの真っ赤な口に飲み込まれる瞬間の、あのうつろな目がフラッシュバックする。僕は、消える。いつか絶対、消えて、消えて、消えてなくなるんだ)

「でも、な。シンク」

ぽた、ぽたぽた、と地面に透明な雫が飲み込まれていく。
急に硬くなったカズマの声に僕が(いつの間にか)俯いていた顔を上げれば、カズマは真っ直ぐな(まっすぐ、まっすぐ、いぬくような)目で僕を見ていた。

「死なせない。死なせない……絶対に、シンクは死なせない。そう、死なせない。絶対に、誰も」

その言葉はただの理想論で綺麗事だといつもの僕なら吐き捨てて嘲笑った筈なのに、カズマが言うとまるで魔法の呪文のように力を帯びて。そして、

ぽた、ぽたぽた、ぽたり。

地面に、生温くて透明なけれどどこか濁った雫が、飲み込まれて消えた。











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そして「記憶」に繋がる、みたいな。(いきなり何)

荵さんに捧げます、in深淵でシンク!
胡麻振ったり胡椒振ったりしましたがシンクは可愛くならなかったです残念!



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「×××で何が悪い。」のみづきりんさんからいただきましたー!

inシリーズのこのカズマ君が大好きなわけですよ!
このシンクもカズマ君が大好きすぎるところが可愛くて仕方ないわけですよ!!
充分可愛かったです、ごちそうさまでした(じゅるり…)

(※例のごとく、カズマ君はデフォルトでお送りしています)