まだかな、まだかな、もう来るかな。


腕に抱えた本は、ずいぶん前から体温になじんでいる。
今日の宿題は我ながらよくできたと思っているから、きっとセドリックさんも褒めてくれるだろう。
柔らかい笑顔を思い浮かべただけで、私の頬もだらしなくゆるんだ。


よく頑張ったねって、その一言のためだけに頑張れる私、そうとうやられてる。


「お待たせ。   何かいいことでもあった?


いつの間にかきていたセドリックさんに話しかけられて、慌てて何かごまかせないかと頭をフル回転させた。
何か嬉しいこと   あ!


「昨日出していただいた宿題、いつもよりきちんとわかったんです!」


苦手だからってずっと見てもらっている、ルーン文字。
理論がきっちりしている上に、文字が全部記号のようで、いくら本を読んでみても全然わからなかった。


憧れ半分、ミーハーがほんのちょっぴり、そして後は授業についていきたくて。

セドリックさんが得意だと聞いて、勇気を振りしぼってお願いしてよかった。


あの頃に比べるとずっとましになったレポートを見る度に、セドリックさんのすごさを思い知る。
勢いよく差し出した羊皮紙を確認したセドリックさんが、とびきり優しい笑顔で顔を上げた。


「うん、よくできてる。頑張ったね、
「!!」


褒めてもらえた!


嬉しくて満面の笑顔になっていたら、セドリックさんが何とも言えない表情で笑っていた。
呆れられたかと慌てて顔を引きしめると、羊皮紙を広げて返される。


「それじゃあ、間違ったところの答え合わせをしようか」
「はい」


やっぱり過去の状態を表すルーンは苦手で、そこばっかり間違えていた。


「ここは過去の中でも深層面を指しているから   ほら、このページ」 「あ、単に積み上げるだけじゃ駄目なんですね?」
「そうそう」


過去にあったことをただ並べるんじゃなくて、そこから読み取れるものをまた文字にしていく。
そうすることで初めて、文章が完全なものとして完成するんだ。


目から鱗でペンを走らせていると、セドリックさんの気配がものすごく近くに寄っていた。

背後に圧迫感があると思って振り向くと、何故か驚いたような、気まずそうなセドリックさんの表情。
ためらうように伸ばされた手が頭に置かれて、思わず顔がほころんだ。


「……やっぱり、はよくできるね」
「セドリックさんがわかりやすく教えてくださるからですよ!本当に、授業についていけなくて   


あの頃のみじめな気持ちを思い出して、知らずうつむいてしまう。


はっきり言ってあの時、私はおちこぼれだった。
心配そうな友達の視線が、これ以上なく恥ずかしかったのだから。


「だから!毎日見てくださるセドリックさんには、本当に感謝してるんです!」


セドリックさんのおかげで、みんなと肩を並べて勉強できるようになった。
毎日毎日、セドリックさんだって暇じゃないのに。


一生懸命に伝えると、セドリックさんは何故か苦笑した。


「……気づかないところが、らしいんだけどね」
「何がですか?」
「そのうちわかってくれれば、それでいいよ」
「……はい……?」


よくわからないけれど、セドリックさんがいいと言うなら大変なことじゃないんだろう。
とりあえずうなずいたら、微笑まれて耳が熱くなった。


「それじゃあ、今日はここまで。宿題は   どうしようかな」


ぱらぱらと教科書をめくっていたセドリックさんが、不意に手を止めて吹き出す。
どうしたんだろうと首を傾げると、肩を震わせながら手招きされた。


……これ」
「え?あ、あー!!」


ね、眠くて仕方なかった時のメモ!
「たまねぎが大魔王に雨乞いを」って、どんな夢見てたの私!!


「み、見な、見ないで!」
「まだある、ほら」
「いやー!!」


インクってどうして簡単に消せないの!?
見られるって分かっていれば、誰かに呪文を習って消しておいたのに!


慌てて取り返そうとしても、セドリックさんが手を高く上げてしまうからそれもできない。


「返してくださいー!」
「あ、こんなところにもある」
「セドリックさん!」


恥ずかしすぎて涙が出てきそうになった時、そっと教科書を差し出された。


「ごめんね、あんまり可愛かったから」
「……おもしろくて、でしょう?」
「慌ててるが可愛かったんだよ」


にっこりと微笑まれて、怒るよりも顔が熱くなってしまう。


時々自然にこういうことを言うから、セドリックさんは心臓に悪い。
うぬぼれそうになってしまうから。


「そ……そういうことは、もっと綺麗な人に言ってください」
は十分可愛いよ」
「セドリックさんったら……」


さらりと言われてさらに顔が熱くなって、教科書で隠す。
その頭をそっとなでられて目だけ上を見ると、セドリックさんがまた何とも言えない表情で笑っていた。


「……セドリックさん?」




「…………そういう顔されると、困るなあ」




「え?」


よく聞き取れなくて首を傾げると、何でもないとごまかされる。
これ以上聞いても迷惑になるかと思って、聞きたくなるのをぐっとこらえた。


   ああ、そうだ。、宿題を思いついたよ」
「あ、はい!」
「今日やったところだけど……」


羊皮紙と羽ペンを渡すと、不安定な手元を感じさせない綺麗な字が滑るように書かれていく。
それに見とれているうちに、軽く扇いで乾かしたその羊皮紙を返された。


「はい、この4題。これができれば、多分今日の内容は全部わかるはずだよ」
「ありがとうございます!」


この優しさ!
グリフィンドールの双子とは大違い!


勢いよくお辞儀をして駆け出そうとしたところで、思いがけず呼び止められた。


!」
「はい?」
「今度のホグズミード   
「あ、もうすぐですよね!初めてだし、楽しみです!」
「その   よかったら、一緒に」
「チョウが一緒に回ろうねって、約束してくれたんです!」


チョウとは寮は違うけれど、鈍くさい私を気にしてくれたのがきっかけで仲良くなった。
典型的なチャイニーズビューティーのチョウと仲良くなれたのは、本当に嬉しい。


興奮して答えると、何かを言いかけていたセドリックさんが苦笑した。


「うん、楽しんでおいで」
「はいっ!」
「叫びの屋敷にだけは気をつけて」
「はい!」


そろそろ、最後の授業が始まる時間だ。


3年になって選択式になったから、前よりは楽になったけれど。
こうやって空き時間ができたのも、嬉しいけれど。


楽しいと、時間がすぎるのが早すぎる!


今日も出してもらった宿題だけが、セドリックさんとつながるもの。
それでも嬉しい今だから、それでいいや!











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セラ様からのリクエスト、「ほのぼのヒロインと、手を出したくても出せないセドリック」でした。
ほのぼのというよりは、何だか天然なヒロインになった気が…。


セドリックはジェントルマンというより、礼儀正しい人というイメージが強いです。
どう違うかは私の主観なので、ちょっと表現しにくいのですが…。
ていうか、「ジェントルマン」って見ると、反射的にテニプリの柳生を思い出しちゃうんですよね(笑)

ハリポタではセドリック先輩が一番好きなキャラなので、ものすごく楽しんで書けました!
世間では「セドリック?誰それ?」みたいな扱いですが、マイナー上等!大好きだ!!
いい人なのに報われない男、セドリック。
今回もその典型的なパターンでした。
でもまあ、このヒロインはセドリックのことが好きなので、彼がちょっと押せばいいと思うんですけどね(笑)

セラ様のみお持ち帰り可となっております。
リクエストありがとうございました!