リーマスはいつも、どこか影を感じさせる人だった。
入学した頃からそれはあって、何となく気になっていたから、よく覚えている。


どうしてあの人は、みんなとは違うんだろう。
どこが違うんだろう。


独特のその雰囲気が、リーマスを周りよりも大人びているように感じさせた。


「リーマス!」


呼べば笑いかけてくれる。
話しかければ答えてくれる。

けれど、彼が決めた一線から内側に入っていける人はずっといなくて、だからどこかで安心していたのだ。


彼の中では、誰もが平等なんだと。


けれど、けれど。












   ?」
「……え?ごめんなさい、何か言った?」
「ううん……何でもないならいいんだけど」


ぼうっとしていたら、リリーに心配されてしまった。
翠色の瞳が思いやりにあふれているのを見て、慌てて笑顔を作る。
うまく笑えていることを祈りたい。


、本当にどうしたの?心配なことがあったら何でも言って、相談くらいにはのれるから」
「ありがとう、リリー」


リリーは優しい。
ジェームズと付き合うようになってから、真面目ぶって堅いところがなくなって、ものすごく魅力的になった。


そんなリリーが、時々ひどく妬ましくなるけれど。


穏やかな顔でレポートを書くリリーの背中に、小さな声をかける。


「ねえ、リリー」
「何?」
「リリーは、リーマスのこと、何か知らない?」


ぴたり、とリリーの手が止まった。


の方が、よく知ってるんじゃないかしら」
「そんなことないよ、リーマスはみんなに優しいもの」


だけど、リリーは違う。
ジェームズ達と一緒にいることが多くなったリリーは、リーマスの視線もどこか柔らかい。


   それが、とても妬ましい。


   
「私、ちょっと出かけてくるわね」


何かを言いかけたリリーから逃げるように、マフラーをつかんで部屋を飛び出した。
飛び出したはいいけれど、特に行くあてもなく、寮の外をぶらぶらとする。

さすがにマフラーだけではちょっと寒い季節になってきた。
一応厚手の外套は羽織ってきたけれど、コートにするべきだったかもしれない。
風のこない温室に滑りこんで、ようやっと一息ついた。


「さむ……」


真ん中を目指してどんどん進んで、少しだけ空いたスペースに座りこむ。
アーチを描いた薔薇の蔓が、腕にあたってちょっと痛かった。


「……何でなのかなあ……」


リーマスが何かを隠しているのは、さすがに気づいている。
伊達に7年間、見てきたわけじゃないのだ。


話しかけていれば、仲良くなれば、いつか話してくれるかもしれないと思っていた。
けれど、もう時間がない。




「あと半年……」




あと半年で、みんな卒業だ。
みんな、離れ離れ。

リーマスとももう、会うこともないかもしれない。


ぼんやりと呟いて膝を抱えていると、打てば響くように返事が返ってきた。


「早いよね、時間が経つの」
   !!」


嘘、どうして。
反射的に振り向くと、リーマスが穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。


「あ、ごめん。驚かせた?」
「う、ううん。別に大丈夫だけど……」
「こんなところで、どうしたんだい?」


隣に座ってもいいかと目で訊かれて、うなずきながら小さくうつむく。


「リーマスこそ。こんなところ、私しかいないと思ったのに」
「フィルチに追いかけられてるんだ」


小さく苦笑したリーマスが、遠くを見る目になった。


「卒業したら、こんな風に馬鹿なことで騒げなくなるんだろうね」
「……また、集まって騒げばいいじゃない。あなた達なら、一声かけなくても集まるでしょ?」


いつでも、何度でも。


まるでもうそれができないとでも言うように、諦めたように笑うリーマスを見たくなかった。
多分、リーマスが隠している何かに関係があるんだろうけれど。


卒業したら、どこか遠くに行ってしまうのかもしれない。
闇の陣営に狙われていて、身を隠さなければいけないのかもしれない。


「そういえば、今月はまだお母さんのお見舞いに行ってないのね」
「ああ、うん」
「ホグワーツもケチよね。月に一度じゃなくて、もっと頻繁にお見舞いに   


ちょっと待って。


月に一度、お見舞いでホグワーツを出るリーマス。
月に一度じゃなければいけない理由が、何かあるとしたら?


そこまで考えて、ざっと血の気が引いた。


そういえば、リーマスがいなくなるのは、いつも満月のあたり。
一緒にお月見ができないと思った記憶があるから、多分間違いない。
このご時世、一番安全なこのホグワーツから、わざわざ満月前後に出なければならない、理由。




「リーマス、あなた……」
「…………」




どうして気づかなかったんだろう。
こんなに長い間、ずっと見ていたのに。


呆然と横を見ると、リーマスも何かを悟ったように血の気の引いた顔をしていた。
真一文字に結んだ口許が、ひどく痛々しい。


「リーマス   
「気づいたんだね」
「……うん。   じん、ろう?」


返事はいらなかった。
その表情だけで、もう充分だった。


そして、どうして彼らの結びつきがあんなに強いのか、わかった気がした。


「ジェームズ達は、知ってるのね」
「ああ」


固い表情でうなずいたリーマスは、さっさと立ち上がってどこかに行こうとする。
とっさにズボンの裾をつかんで引き止めると、諦めたような苦笑を浮かべた瞳と目が合った。


そんな目をしてほしくて、引き止めたんじゃないの。


「ジェ、ジェームズ達が、知っててよかった」
「……え?」
「だって、リーマスが一人で苦しんでたんじゃないもの」


声が震えそうだ。
手はきっと、少し震えている。


それでも、これだけは伝えたい。


「リーマスが独りじゃなくて、よかった」
「……無理しなくてもいいんだよ」


やんわりと手をほどかれそうになって、必死に手の力をこめる。


「無理、してない」
「怖くないのかい?」


嘘を言うなというような目で見られて直視できずにうつむいた。


「……怖いよ。人狼は怖いって、もう染みついてるもの」


でも。


「でも、リーマスは今まで一度だって、私達の誰かに噛みついたりはしなかったでしょう?人狼だって誰も気づかなくて、普通に生活してて」


だからこそ、私ですら気づかなかったのだから。


そうやって押し隠して、満月には苦しんで。
どれだけつらかったんだろう。


「だから、7年間見てたから、これだけは信じて。リーマスはリーマスよ、人狼でもリーマスよ」


人狼だったからといって、今までの全てが嘘だなんて思わない。
誰よりも優しい彼を、私はちゃんと知っているから。


「逃げないで。人狼は怖いけど、リーマスなら怖くないから」


必死に見上げた彼の瞳は、揺らいで不安定だった。
祈るような思いで見つめ続けていたら、やがてそこから揺らぎが消えていく。
諦めの消えた苦笑を浮かべて、リーマスはもう一度私の隣に座りこんだ。


「フィルチに見つかると厄介だから、もう少しここにいるよ」
   ええ!」


穏やかな時間がすぎていく、そのことが何よりも嬉しい。
いつの間にかリリーに対するささくれ立った気持ちもなくなって、リーマスと並んで寮に帰った。


勢いあまって告白もどきをしていたと気づいて、部屋でのたうち回るまであと10分。


「7年見てたって……見てたって……!何言ってるの、私!!」
「あら、ようやく告白したの?」
「違うってば、リリー!!」











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ぼたん様からのリクエスト、「リーマスで人狼ネタ」でした。
ありがちネタですが、一応ヒロインの葛藤を。
…え?一瞬で終わってるって?(あっはっはー!!)


魔法族にとって、「人狼」ということがどんな意味を持つのか、このお話を書くにあたって考えてみました。
私達ならば何でしょう、「あの人は昔、人を殺したことがあるんだって!」みたいな感じでしょうか。
多分、もっと恐ろしいものだとは思うのですが、いい喩えが見つかりません…。

リーマスはそんな偏見をずっと抱えてきて、ひた隠しにして、それでもジェームズ達に気づかれて。
受け入れてもらえた時は、本当に嬉しかったんだと思います。
そんな偏見を弾き飛ばしてリーマスを受け入れられた彼らも、本当にすごい。
そんな友情を持てた彼らが、とてもうらやましく感じます。

ヒロインは多分、この時点では、半ば勢いで「平気!」といった感じだと思います。
数日経ってはたと気づいて、それからまた長いこと葛藤したり。
それでも最終的に、リーマスを受け入れるんだと思いますが。

ぼたん様のみお持ち帰り可となっております。
リクエストありがとうございました!