「ねえ、シリウス」
「ん?」

「好きなように生きていいんだよ」


何度も何度も繰り返した言葉を言うと、シリウスはめんどくさいと言いたげにおざなりにうなずく。
それに苦笑しながら、膝の上の頭をなでた。


数多くの女の子の中から、どうしてシリウスが私を選んだのかは、いまだにわからない。
ただ、シリウスはいつだってブラック家の重圧と闘っていたから、せめてホグワーツの中だけでも自由でいてほしかった。


   どんな形でも、自由に。


「なあ、。次の土曜、ホグズミードに行くか?」
「抜け道を通って?」
「おう」
「いいね、それ」


くすくすと笑いあって、どの道から行くかを考える。

シリウスは魔女の像から行くのがお気に入りのようだけれど、あそこは下手をしたら服が汚れるのが難点だ。
やっぱり私としては、階段裏の道を選びたい。


「駄目?」
「お前が行きたい道で行こうぜ」
「あら、嬉しい」


にっこり笑ってそう言うと、シリウスも整った口元を吊り上げて笑う。
その時間が悔しいけれど愛しくて、泣きたくなるのをこらえながら目を細めた。












。君、もしかして知ってるの?」
「何を?」
   それは……」


知らぬ振りで訊き返せば、リーマスは口ごもって何とも言えない表情になった。


忍びの地図、と彼らが呼んでいるものは、今ここにある。
私達がこの隠し部屋にいるなんて、誰も知らないだろう。


黙りこんでしまったリーマスに苦笑して、ささやくように答えた。




「嘘。知ってる」




途端に、弾かれるようにあがる顔。
どうして、と雄弁に語る表情に苦笑して、口元に人差し指を立てる。


「内緒ね。信頼してるから白状したのよ」
、君らしくない   !!」
「そうかな?」


悲痛な表情で叫ぶリーマスに首を傾げて、彼の中の「私」像に苦笑した。
どれだけ正々堂々とした女だというのか、私は。


「あのね、リーマス」


泣き出しそうなリーマスと目を合わせて、小さく笑う。
それが自嘲になるのは、はたして止められただろうか。


「私、あなたが思ってるよりも強くないのよ。いつだって誰かに嫌われるのが怖くて、びくびくしながら生きてる」
「それは   
「だから、これでいいの」


笑顔のままそう言って、その話はそこでおしまい。


「おいしい紅茶ね、おかわりもらえる?」












「ねえ、シリウス」


何回目だろう、この言葉を言うのは。


「好きなように生きていいんだよ」
「……なあ、それってどういう意味なんだ?」


その日、その日に限って、今まで何も言わなかったシリウスが口を開いた。
覚悟を決めたその日に限って。

嬉しいのか悲しいのか悔しいのか、自分でもよくわからずに笑う。
自然苦笑になってしまったのが、自分でもわかった。


「そのままの言葉だよ、シリウス」


その目をまっすぐに見て、さあ。


   あの子のところに、行ってあげて」
   !!」


シリウスの顔色が変わった。
目を大きく見開いて、まじまじとこちらを見つめる。


、……お前」
「私にまで縛られなくてもいいの。だから   


さよなら。
君は自由でいて。


笑顔で言って踵を返すと、シリウスの声が追いかけてきた。


「待てよ!!」


それも無視して歩いていたら、強く腕をつかまれる。
痛みを感じて振り向くと、怒ったような表情のシリウスと目が合った。


「お前、怒んねえのかよ」
「……言ったでしょ?自由に生きていいんだって」
「だからって、何で!!」


苛立ったような声で叫んだシリウスが、前髪をぐしゃりと崩す。


「……遊びだったって、わけか」
「…………」


無言でうつむく私を睨んで、吐き捨てるような声がした。


「そうかよ。じゃあ、さよならだ」


足音荒く立ち去るのを背後で聞きながら、その場から一歩も動けない自分がいる。


さよなら。
さよなら、シリウス。

これで本当に、あなたは誰のものでもなくなるんだね。


あなたに嫌われるのが怖かった。
さよならなんてしたくなかったの。


けれど、私の前でも次第に気遣うような様子をみせるあなたを見て、潮時だと思ったの。
浮気相手の前で安らげるなら、その方がいい。


だから、さよなら。




   愛してる」




流れた涙は、誰にも見られる前に強くぬぐわれて消えた。











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葵さんからのリクエスト、「浮気がばれて別れ話」でした。
ありがちネタなだけに、どう膨らませようかものすごく迷ったお話でもあります。


ブラック家の重圧に苦しむシリウスを知っているからこそ、「縛りつける」ことに極度の恐怖を抱いてしまったヒロイン。
ヒロインの気持ちがわからなくて、ついつい浮気をしてしまったシリウス。
いろいろなすれ違いがあって、結局さよなら。

シリウスはどうでもいいと思っているからこそ、浮気相手の前で素の自分を見せていたんだと思います。
本当に大切な人は傷つけたくないし、だからこそ気を遣う。
それがヒロインには、自分といると縛りつけられているという誤解に繋がってしまいました。
恋愛経験が少ないヒロインだからこその、何とも言えない勘違い。


お持ち帰りは葵さんのみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!