「よう、ルカ」


のんきに声をかけてくる三双萩先輩を遠くから目視した瞬間、私は無言で携帯メールを打ち始める。
時々本に視線をやりながら打っているから、傍目にはわからないところを訊いているように見えるだろう。
先輩がこちらに到着する前に、送信完了携帯ぱちん。


「何してたんだ?」
「どうしてもわからない、不可解な現象について、質問してたんです」


三双萩先輩の方をなるべく見ないようにして、さりげなく、あくまでもさりげなーく答える。

助けて先輩ヘルプミー!
私の平穏な時間を返して!!

三双萩先輩がいるだけで、図書館の中の視線が集まるのを感じる。
いやいやいや、私はそんなに目立ちたくありませんから!!


「今日は哲学の本か」
「先輩、お仕事してください」
「面白かったら貸してな。あ、でも、あんまし難しいのはパス」
「生徒会長がお仕事しなくてどうするんですか」


話が噛み合ってない。
思いっきり噛み合ってない。
誰かこの人のマイペースぶりを止めて……!
そう祈っていたら、ようやくメシアの声が響いた。




「三双萩君!見つけた!」




「おう、照木」
「芳桂君が怒ってるよ。早く仕事して!」


ああ、椿先輩!
今日もありがとうございます!

さっき打っていたのは、椿先輩へのメール。
三双萩先輩がいます助けてください。
そんな簡単な文面だけで来てくれる先輩が、私は大好きだ。

三双萩先輩を前にするとうっすら顔がピンク色になるのに気づいてから、呼ぶのは京子先輩から椿先輩にシフトした。
どう考えても趣味が悪いと思うけど……椿先輩が好きなら、私も応援すると決めたのだ!


「椿先輩、三双萩先輩をお願いします!」
「まかせて!」


私が椿先輩に連絡していることを、多分三双萩先輩は気づいているだろう。
そしてきっと、それを面白がっている。
やっぱり性格悪い!と思いながら笑顔で椿先輩に手を振っていると、三双萩先輩がだだっ子のように眉を寄せた。


「……ルカ。なんで照木は名前で呼んで、俺は名字なんだ?」
「人望の違いです」


きぱっと言い切ると、椿先輩が変な顔になった。
うん?私、何か変なこと言ったかしら?

内心で首を傾げながら椿先輩を見ていると、いきなりぐきりと強制的に三双萩先輩の方を向かされた。

いた、痛い……!
首の筋がぐきっていった!ぐきって!
片手でここまで馬鹿力が出せるなんて、この人何者!?


「み、三双萩君……今、ルカちゃんの首からものすごい音がしたんだけど……」
「ん?ああ、平気だろう。手加減はしてある」
「ものすごく痛いです!!」
「そうか、悪かったな。それよりルカ、今日から俺も名前呼び決定な」
「はあ!?」


思わず本をぼとりと落としてしまった。
危ない危ない、机の上でよかった。
貴重な本(絶版でもう手に入らない本!)を床に落とすなんてしたら、どうしようかと思った。
慌てて本の具合を確かめている間に、三双萩先輩は何故か椿先輩の腕をつかんで行ってしまった。


始めっから、素直に生徒会室に戻ればいいのに!
やっぱり椿先輩、趣味悪い!!