協会の鐘の音が厳かに鳴る中、花嫁姿のが微笑みかける。


「クラウド」
   


綺麗だ。
この世で一番綺麗だ。

万感の思いを乗せて呟いたクラウドにはにかんだ表情を見せ、はそっと目を伏せる。


「ありがとう」


椅子から立ち上がったは、漆黒の衣装を纏ったクラウドに歩み寄った。
シルクのドレスがさらりと揺れる。

ヒールの立てる繊細な音が少しずつ近づいて   背後へと通り過ぎた。




「幸せになるね、クラウド」




思いもよらないその言葉に一瞬硬直し、勢いよく振り向く。
そこにいたのは   


「綺麗だ、
「ありがとう、セフィロス」


純白の燕尾服に身を包んだセフィロス。


   っ、何でセフィロスなんだああああ!!」












「何が?」


荒い息をつくクラウドを、気がつけば上からが覗きこんでいた。


「すごい顔色。悪い夢でも見た?」
「……最悪の悪夢だった……」


呻くように答えたクラウドの前髪を払い、心配の色を瞳に浮かべたが額に手を当てる。
熱はないみたいだけどと呟いて、部屋の外に声を投げた。


「ザックス!あんた、何もしてないんなら水持ってきて!」
「おーう」


間延びしたザックスの返事を背後に、はくるりと振り向く。


「大丈夫?」
「ああ……」
「ちょうどザックスが来ててよかった。ちょっと待ってね、水でも飲めば落ち着くよ」


微笑んだが素早くクラウドの頬にキスを落とすのと入れ違いに、グラスを持ったザックスが入ってきた。
姿勢を元に戻す途中のを見て、悪戯っぽく笑う。


「もうちょっと遅くきた方がよかったな」
   っ、ザックス!」


瞬時に真っ赤になったが、大きく手を振りかぶった。
素早くそれを避けながら、ザックスは一滴もこぼさなかったグラスをクラウドに差し出す。


「ほら、色男!」
「うわ……っ」


慌ててクラウドが受け取るのを待って、ザックスはすぐに踵を返した。
長居をする気はないらしい。


「じゃなー。、ちゃんとあれ使えよ!」
「はいはい、ありがとね。エアリスにもお礼言っといて」
「おう」


軽い足取りでザックスが玄関を出て行く音を聞きながら、クラウドは苦笑しているを見上げた。


「……ザックス、何しに来たんだ?」
「プレゼントをね、持って来てくれたの」
「プレゼント?」
「サファイヤのブレスレット」


首を傾げるクラウドに、が綺麗だったよと言い添える。
はにかんだ表情でそう告げたの返事で、クラウドもそれが何のプレゼントなのかを把握した。


「……サムシングブルーか」
「うん……」


花嫁が身に着けると幸せになれるという、古くからの優しいジンクス。

ザックスもなかなか粋なことをする。
目を細めたクラウドに、が「言い出したのはエアリスだと思うよ」と笑った。


「あのザックスが、そんなこと思いつくはずないじゃない」
「……それもそうだな」


つられるようにクラウドも笑い、エアリスに急かされて腰を上げるザックスを想像する。
慣れない買い物に四苦八苦するザックスが目に浮かぶようだ。

柔らかな空気が流れ、不意に沈黙が訪れた。





クラウドがを呼び、腕を伸ばして後頭部に添える。
そのまま下に引き寄せて、軽くキスをした。

柔らかい唇が甘いと錯覚するほどの幸せが、静かに胸を満たす。


「……一緒に、やってこう」
「うん。   今までの分もね」


空白の6年間はどうやっても埋められないけれど、これから先にたくさんの思い出を作っていくことはできる。
そうして思い出を積み重ねて、ずっと生きていこう。
あの別離すら懐かしいと、いつか笑い合えるように。


「幸せになろうな」
「……うん」


部屋の隅でマネキンが着ているドレスは、のサイズに合わせてオーダーメイドしたものだ。
はそこまでしなくてもと遠慮しようとしたのだが、そこはクラウドが押し切った。
セフィロスもザックスも賛成してくれたし、むしろそうしろと言わんばかりの勢い。
エアリスも笑顔でを説得してくれた。


お仕着せの既製品は、彼女に似合わない。
どこまでも自由な彼女だからこそ、ドレスの方を合わせるべきなのだ。


「あれ着た、早く見たいな」
「……馬鹿。明日には見れるでしょ」


もう一度したキスは、目まいがするほど幸せだった。












   という夢を見たんだ」
「なかなか面白い夢だねえ、セフィロス」


真面目くさった顔でそう告げたセフィロスに、が吹き出しそうな表情でコメントする。
その横ではザックスが笑いたいような(誰をとは言わないが)哀れむような微妙な顔をしていて、真っ赤になったクラウドに射殺しそうな視線を向けられていた。


「しっかし、すげえ夢みたな、旦那」
「ああ」


思わずクラウドを殴りそうになったと言うセフィロスに、クラウドの顔色が悪くなる。
セフィロスに本気で殴られたら、いくら鍛えているクラウドでもかなり危険だ。


「それじゃあクラウドが可哀相でしょ、セフィロス」
「……わかっている。やってはいないだろう?」
「そこらへんは信頼してるよ」


セフィロスの頭をなでて笑ったは、それにとクラウドの方を向く。


「勝手にそんな夢見たら、クラウドにも悪いでしょ?」


いやいやいや、むしろ俺が見たかったぐらいです。


とはさすがに言えず、クラウドは曖昧な笑みでその場をごまかした。
これほど見事に気づかれていないと、何だか切なくなってくる。


「……ファイト、クラウド」
「……やめてくれ、余計に切なくなる……」