味気無い毎日も、彼女がいるだけで何もかもが変わって見えた。


「クラウド、ほら、起きて!」


たまの休みには日が高くなるまで寝かせてくれることが多い。
その日も笑いを含んだ声に起こされると、すでに昼近くになっていた。


「……おはよ……」
「おはよ。今日はいい天気だよ!お洗濯物がよく乾くね」


晴れやかな笑顔でカーテンを開けたは、寝ぼけ眼のクラウドから布団を退ける。


「お布団も干そうよ。ハウスダストの駆除になっていいよ」
「……ん」


大きくあくびをしながら答えるクラウドの頭を軽く叩いて、が「軽く食事を作ってあるから」とリビングに促した。


用意されていた温かいスープをクラウドが飲んでいる間に、ベランダから楽しそうなの歌声が響いてくる。
歌声というよりは鼻歌に近いそれは、けれど開いた窓からよく聞こえた。


、それってなんて曲?」
「カナリオス。陽気でいいでしょ」
「うん」


素直にうなずけば、が嬉しそうな様子で戻ってくる。


「好きなんだ、この曲。本当はギターで弾く曲なんだよ」
「へえ……。なあ、スープのおかわり、ある?」
「そっちから訊いたんだから、真面目に聞かんかい」


野菜たっぷりで起き抜けの胃にも身体にも優しいスープがおいしくて思わず訊くと、今度はべしりとはたかれた。
話を聞いていなかったわけではないが、やはり食欲には負けてしまうのに。

小さく口を尖らせたクラウドに呆れたように笑って、はその手元からボウルを持ち上げる。


「もうすぐお昼にするから、ちょっとぐらいお腹を空かせておいて。午後はどっかに出かけよっか」


今日は久しぶりに、武器を新調するのもいいね。


色気全くなしの言葉だったが、それでもクラウドには嬉しい申し出だ。
武器を選ぶ時のの話はためになることばかりだし、時折クラウドに合わせたものも見繕ってくれる。
買ってもらうまではしないものの(毎回必死に断っている)自分に合うものがどういう特徴のものか、最近ではようやくうっすらとわかるようになった。


「いいな、それ。じゃあ、三番街に行くのか?」
「ううん。この間マズラディさんに聞いたんだけど、実は八番街に凄腕の鍛治師がいるんだって。マイナーすぎて名は売れてないけど、かなり上物らしいよ」
「へえ……」




(ああ、)




軽く目を見開いたクラウドに、がにいと笑う。
お気に入りの玩具を見つけたようなその表情で、彼女がどれだけ楽しみにしていたかが知れた。


「じゃあ、早くお昼食べて行こう」
「うん!今作るから、顔洗っておいで」
「うん」


冷たい水で顔を洗えば、半覚醒だった意識が一気にクリアになる。
最後に一度頭を振って、少しだけ残った眠気を追い払った。


リビングに戻れば、が軽快に何かを炒めている。
匂いと音からしてパスタだろうと当たりをつけて食器を出すと、顔を上げたがにこりと微笑んだ。


「ありがと、クラウド」
「これでいいか?」
「ばっちり!」


よくわかったねとばかりにうなずかれて、くすぐったい気持ちになる。
小さな子供のような扱いをされるのは嫌だったが、こうやってさりげなく褒められるのは嬉しかった。












腹ごなしと休憩を挟んで出かけると、確かに天気がとてもよかった。
振り仰げばが干した洗濯物が風になびいて、気持ちよさそうだ。


「あ、。八番街に行くんなら、こっちから行こう」
「え?」
「近道。細い通りだけど、おもしろい店も色々あるんだ」


レアマテリアばかりを扱っている店や、どこから仕入れてきたのかわからないような小物をたくさん置いている店。
女性受けしそうな可愛らしい雑貨を扱っている店や、少々怪しいバーも何件かある。


先導しながらそう教えれば、案の定の目が輝いた。


「レアマテリア……!ちょ、ちょっとだけ、寄ってもいい?」


やはりそこか。




   ああ、)




苦笑しながら目当ての店のドアを開けると、やや埃っぽい空気が流れてきた。
それすら気にせずに中に入ったは、陳列されている商品を見て歓声をあげる。


「ものまね!すごい、経験値アップもMPアップもHPアップもある!   あっ、あそこにあるの、もしかしてオーディーン!?」


きゃあきゃあと品定めをするの声に誘われてか、店主らしき女が奥から顔を出した。
どこから入荷しただの、いくらで買えるかだの、二言三言女と会話を交わし、は召喚マテリアを数点とものまねを買う。


「クラウドも使っていいよ。経験値アップとか、特に重宝するもんね」


すぐにマスターまで上げとくから、適当に使ってね。


何とも気軽にものすごいことを言ったに、クラウドも少し引きつった笑顔でうなずく。
すぐにマスターにするなど、一体普段どんな任務に就いているというのだろうか。


「クラウド?」


不思議そうに首を傾げたが、覗きこむように身体を傾ける。


   クラウド?どうしたの?」




   ああ、これは   












「…………だよ、な」
「クラウドー?そろそろ起きろって、メシできた……どうかしたか?」


掌を天井にかざしてぼんやりと呟いたクラウドは、起こしに来たザックスに小さく答えた。


「……懐かしい夢、見た」
「懐かしい?」


何のこっちゃと首を傾げたザックスは、けれどすぐに肩をすくめて踵を返す。


「早く下に来いよ、旦那も待ってるからな」
「ああ」


うなずいてベッドから降りながら、耳元のピアスにそっと触れる。


もう会えない。
少なくとも、いつ会えるかわからない。


それでもなお、思い出の中でまぶしい存在。




   




いつ帰ってくる?
早く、あんたに会いたい。












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クロさんのリクエスト、「2章開始前にクラウドがヒロインを思い出す」お話でした。
思い出す、ではないけれど、夢に見る、というシチュエーション。


クラウドは案外乙女な部分もあるので、再会するまでこうやって何度か夢に見ていると思います。
その度に目が覚めて、泣きたくなるほど寂しくなったりして。
ザックスもセフィロスも気づいているのかいないのか、何も言ってくれないし。
多分、15歳くらいの時は、本当にちょっぴり泣いていたんじゃないかなあ、と。

そんなわけで、実際に再会できた時の喜びもひとしおでした。
思わずぎゅうぎゅうしちゃうくらいには!(笑)
あれはかなりの反響をいただいたんですが、そんなクラウドが大好きです。


お持ち帰りはクロさんのみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!