さらさら、さらさら。


幾度も手をすり抜けていく感触を楽しみながら、は幸せそうに目を細める。
それをされている当人もマイペースに新聞を読み、全く気にしていないようだ。

ひどくゆったりとした時間の中、が背もたれから身を乗り出した。


「ねえ、セフィロス。髪、いじってもいい?」
「さっきからいじっているだろう?」
「そうじゃなくて。結わえたりしたいの」


駄目?と小首を傾げたに、セフィロスがしばし考えこむ。


「……あまり奇抜な髪型はやめてくれ」
「ラジャー!」


それを聞いた瞬間、の顔がぱっと顔を輝いた。
すぐさま部屋の隅から櫛やゴムを持ってきて、長い髪を梳き始める。


「セフィロスの髪、ほんっとさらさらだよねえ。うらやましいよ」
の髪も、充分さらさらだと思うが……」
「いやいや、こう見えて結構くせっ毛なんだよ。見た目はストレートなんだけど、微妙にくせっ毛が混じってるの」


自分の髪をいじりながら悔しそうに言って、がそれを無造作にまとめた。

くるりとひねって、簪をぶすり。
簡易お団子の完成だ。


「こういうのもね、本当にさらさらのストレートだと、止まらないでほどけちゃうんだって。ワックスつければ別だけど」
「そうなのか」


それでも結い跡が残らないのだから、の髪も充分にまっすぐなのだろうと密かに思う。


セフィロスは彼女の髪が好きだった。
変に目立つ自分の髪よりも、ずっと。


「どうしようかなあ。こんなに長いと、まとめるのも一苦労だよね」
「……単に結べばいいんじゃないのか?」
「駄目!味気ないじゃない、そんなの」
もいつも、結んでいるだけだが……」
「私はいいの、自分のなんてうまくできないんだもん」


もまた、セフィロスの髪が好きだった。
故郷の大多数と同じ自分の髪よりも、ずっと。


「編み込みとか、してもいい?」
「……外にでなければ、な」
「やった!」


許可をもらうが早いか、大喜びのの指がセフィロスの髪に差しこまれた。
細い指が動いていく感触が気持ちよく、セフィロスの目が小さく細まる。


まずは綺麗に2つに分けて、高い位置でのツインテール。
“英雄”には似合わない髪型に小さく笑って、それでも不自然だとは思わなかった。


「セフィロスの髪、本当にさらさらだね」
「そうか?」
「うん」


ポニーテールに三つ編みに、自分とお揃いのお団子に。
散々いじってご満悦になったのか、一通りの髪型を網羅したが、妙に気合いを入れて髪を梳かし始める。


「よっしゃ、それじゃあ本番いきますか!」
、立ちっぱなしでつらくないか?」
「大丈夫!」


上の方の髪を少しだけ取って、何度かやり直しながらも細かな編み込みを作っていく。
それをこめかみの横あたりに2本ずつ作ったところで、今度は全体を大きく持ち上げた。
こちらは手櫛でラフにかき上げ、上の方で編み込みと一緒に1つに結わえる。


毛束や編み込みを引っ張り出してゆるみを調節し。


「痛くない?」
「大丈夫だ」


顔の横の髪がやや短いセフィロスは、後ろのそれをまとめても顔周りがすっきりしすぎることはない。
むしろうるさくなりすぎないようにと、編み込みで量を調節してあった。


「可愛い……男にしとくの、もったいない」
「そう褒められても嬉しくないぞ」


うっとりと呟いたに苦笑し、セフィロスが頭に手をやろうとする。
それを慌てて止めながら、の手が再び動き出した。


「駄目駄目、まだきちんとしてないから」


ごくゆるく止めていたゴムから上と下に1回ずつシニヨンを作り、余りある髪をコンパクトに。


「はい、できた」


上には小さく、下には大きく。
満足そうに作品を見て、が満面の笑みを浮かべた。


「かなり丈夫なゴム使ったんだけど、さすがにシニヨン2回はきついみたいだね。周りに巻きつける髪の毛抜いて、ようようぱっつんぱっつんだよ」
「それほど量は多くないはずなんだが……」
「長さがあるしね」


苦笑したが背後を回って、セフィロスの横に腰かける。


「満足そうだな」
「そりゃもう!前はよく、腹黒エルフで遊んだもんだったけどね……ここは女の子もいないし、髪が長いのもそうそういないしで、ちょっとつまんなかったんだ」


口を尖らせる様子は微笑ましかったが、それよりも聞き慣れない単語の方が気にかかった。


「エルフ……?」
「ええと、種族の1つかな?違う世界には、人間以外にもいろんな種族がいるんだよ」


エルフ、コボルト、ドワーフ、半獣にホビット。
彼らの話をしてみせると、知的好奇心の強いセフィロスの目が輝いた。


「ホビット、とは単にサイズが小さいだけのように思えるが……他にはどんな違いがあるんだ?」
「え?ええと、足の皮膚が堅くて、靴が必要ないし   
「靴を使わない人間が進化を続ければ、そうなる可能性はあるだろう」

「耳がちょっと尖ってて」
「音を集めるために耳を大きくする進化の一種か?いや、それにしては上だけ伸びるメリットがない……」

「すっごく長命!50代で若者なんだよ」
「……人間の寿命は、現段階ではそこまでいかないはずだが……」
「だから、別の種族なんだってば」


一々人間であることを前提に考察するセフィロスに、が小さく笑いながら口を挟む。
まだ納得がいかない様子だったが、セフィロスもようやく渋々とうなずいた。


「そのようだな。   ところで、そのホビットの生態をよく知りたいんだが……」
「うぃーっす!旦那、休憩に   何だ、その髪!?どうしたんだ!?」


さらにセフィロスが追求しようとしたその時、2人の話をぶった切ってザックスが乱入してきた。
何かを言いかけた彼はしかし、両手に抱えていたミッドガル饅頭をぼとぼとと盛大に落とす。


顎が外れそうなほど盛大に口を開けたザックスに、セフィロスのこめかみに青筋が浮かんだ。
正宗が無言で抜刀されるまで、あと3秒。