タークスのレノ?ソルジャーのです、よろしく」


涼やかに微笑んで手を差し出した彼女は、とても18とは思えないほど大人びていた。
瞳の輝きの強さに飲み込まれそうになりながら、レノは平静を装って握手を返す。


「噂は聞いてるぞ、と。ずいぶんやり手だってな」
「あらやだ、誰が言ったのかしら」


恥ずかしいと笑う様子は余裕たっぷりで、少なくとも噂は間違ってはいないのだろうと思えた。
本当に噂ばかりが先走っているならば、こんな風に笑えるはずがない。


「なあ、?」
「何?」
「お前、恋人いるのか?」


そんな言葉が、思わずレノの口を突いて出た。
あまりのぶしつけさに、の口元がひくりと引きつる。

それに気づかずにレノが答えを待っていると、がそれはそれは綺麗に微笑んだ。




「いようがいまいが、レノには関係ないよね?」
「……すんません……」




目が全く笑っていないその微笑みに、レノの背中に冷や汗が流れまくる。
あわよくばナンパしようと思っていたなんて、恐ろしすぎて言えやしない。


「そ、それで!今回の作戦だが   
「ていうか、タークスがソルジャーに援助要請するなんて珍しいじゃない。どういう風の吹き回し?」


どうせ組むならシスネちゃんがよかった!


目の前ではっきりと言われて、レノは思いっきりダメージを受けた。
せめて陰で言ってほしかったかもしれない。


盛大にへこみながらそう考えて、やっぱり陰で言われる方がへこむかもしれないと思い直す。
うかれながら仕事をして後でダメージを受けるより、今へこんでおいた方がいいだろう。
相手では、自分を作る必要もない気がするのだから。


「……シスネは休暇中だ。残念だったな、と」
「本当にね!ソルジャーって男ばっかりなんだもの、可愛い女の子に飢えてるんだよねえ」


ちょっと待て、それは女が言うセリフなのか?


突っ込みたいのをぐぐっとこらえ、レノは曖昧な笑みを浮かべた。
余計なことを言うと、損するのは自分だと学習したらしい。


「そんなに女に飢えてるなら、タークスにこいよ。最近は色々候補生がいるぜ?」
「やあよ。タークスよりもソルジャーの方が、まだ精神的に楽だもの」
「まあ、否定はしねえな、と」


しないどころか、全くもってその通りである。


華々しいソルジャーとは違って、タークスは言わば暗殺部隊のようなもの。
泥くさい仕事が多かった。

そのくせ精鋭が求められるので、慢性的な人材不足なのだ。
彼女のような優秀な人材などは、正直喉から手が出るほどほしい。


けれど、その仕事の汚さは自分が一番よくわかっているので、無理に引き込むような真似はしなかった。


「それで?タークスとソルジャーの合同任務ですもの、半端なものじゃないんでしょ?」
「神羅内で最近、どうも怪しい動きがあるんだと。魔晄炉乗っとりの上で、クーデターを計画」
「それはまた、思い切った計画だねえ」
「しかもその中に、ソルジャー崩れがいるらしいぞ、と」


素行が目に余りすぎて、数年前にクビになった男らしい。
が直接知るはずもないが、何かの話で聞いたことはあった。


「ええと、もしかして……グレックだっけ」
「お、よく知ってたな」
「伝説らしいからねえ……そいつの暴力行為の数々。よく5年もいられたものだよ」


ひょいと肩をすくめて、は不敵ににいと笑う。


「グレックの方は、私に任せて。どうせその為に呼ばれたんだろうし」
「さすがだな、と」


よろしく頼むと苦笑して、レノはの肩を叩いた。
彼女と一緒にいると、退屈しないで済みそうだ。


タークスからは新人を含め3名、ソルジャーは1名のみ。
やりすぎなほど少数精鋭だが、負けるという意識は、不思議とレノにもにもなかった。
不安げにしている新人にゆるい檄を飛ばしつつ、レノがに視線を向ける。


「じゃあ、頼んだぞ、と」
「オッケー。じゃあ、後は潜るから」
「ああ」


初対面とはいえ、互いの評判はそれぞれ知っている。
短い会話だけで全幅の信頼を確認しあって、は音もなく通気口から地下に消えていった。
それを見送って、レノもゆらりと歩き出す。


「おら、行くぞ」
「あ   はい!」


慌てて追いかけてくる後輩達の足音を聞きながら、まずは足の運び方から教えるべきかと、そんなことを考えた。












結果から言うと、作戦はこれ以上ないほどあっさりと終了した。
文字通り地下に潜ったが、何よりも先に通信関係の回路を切断したのだ。

次いで映像の回線をカット。
敵は情報の共有が全くできず、右往左往するだけだった。


「グレックの死体、どうする?一応持ってきたけど」


時として、ソルジャーの遺体は解剖研究されることがある。
それを知っていたからこその行動だったが、新人2名はあからさまにひるんだ様子を見せた。
内心でそんな後輩に苦々しい表情をしながら、レノは小さく肩をすくめる。


「今回、宝条からは回収命令は出てないからな。特に必要はないだろ」
「そ?わかった」


軽くうなずいたが、背負っていた布袋を丁寧に地面に下ろした。
10歩ほど離れた彼女は、深く息を吸いこんで、ぽつりと呟く。




「ファイガ」




刹那、地獄の業火と紛うほどの火柱が立ち上がった。
布袋を包んだそれは一瞬で消え、跡には何も残らない。


「……信じられない。何て魔力だ……」



並のファイガとは比べ物にならない、その力。
新人が呆然と呟くのを横目で見て、レノは静かにに歩み寄った。


「ありがとな、
「……別に。私がやりたかっただけ」
「俺も、できればしてやりたかったからな、と」


神羅に盾突いたとはいえ、命に変わりはない。
タークスには絶対にできないことを、がやってくれた。


「タークスもつらいもんねえ」
「お、わかってんじゃねえか」


冗談めかして彼女の肩を抱こうとした瞬間、レノの首筋に冷たいものが触れた。




「気安く触らないでくれる?」
「ハイ」




……優しさがあっても、恐ろしさは変わらないようで。