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握りしめたのは、命を奪うためのものだった。 本当の覚悟なんて、いつだってできていなかった。 たくさんの人に支えられてあの世界で時を重ね、ここまでやってきた。 「それはね、一欠片も後悔してないんだよ」 アルミ製のマグに熱いコーヒーを注ぎつつ、はぽつりと呟いた。 白い湯気を立てるそれをゆっくりと飲んだクラウドに、自分もマグを傾けながら苦笑する。 「ただ……そうだね。ちょっと軽率だったかとは、思うね」 あの頃は若かったと目を細めて、は当時に思いを馳せた。 ただただ、怒りに目がくらんでいた。 思いこんだこと以外に道を考えられないほど、視野が狭くなっていた。 そんな自分をずっと支えようとしてくれていた彼らは、どう思っていたのだろうか。 「は……選んだことを、後悔してるのか?」 「まさか!どんな結果でも、私が選んだ道だもの」 クラウドの静かな問いを笑い飛ばして、はかぶりを振った。 「それに、後悔したら、今こうやってクラウドと話してることも否定するってことになるじゃない」 思いがけない言葉にクラウドが瞬き、次いで小さく頬をゆるめる。 確かに、その時彼女が違う選択をしていれば、きっと自分達は出会うことすらなかっただろう。 別の巡りが働いて同じように出会うこともあるかもしれないけれど、それはもはや今の彼女とは別人も同然だ。 だからそれはいいのだと、は笑う。 本当に 「いくら奪っても、一度消えたものは戻ってこないって、それがわかったよ」 それすらもわからないほどに。 少し肌寒さを感じる夜に、呟きがぽつりと落ちる。 ぬくもりを求めるようにマグを両手で包みこみ、は空を見上げた。 樹々の隙間から、瞬く星が見える。 「この野郎って、許せないって、それだけで突き進んでいったけどね。結局、自己満足にしかならなかった」 笑ってほしかった相手は、泣きそうな表情をした。 心配してくれた手を払いのけて、ただ傷つけた。 自分は一体何のために進んでいたのかと、全てが終わってから気づいたと言う。 「ままならないね、どうにも」 「それでもは、後悔してないんだろ?」 「うん。そのおかげでラピスと一緒になれたし、いろんな人とも知り合えたからね」 一緒になるという表現に微妙な気持ちになったものの、その言葉にクラウドの心が温かくなった。 どんな状況でも悲観せずに前を見るの姿勢が、まぶしくてたまらない。 「なあ、。もし、その時に戻れたらどうする」 「あの時に?ずいぶんと若返っちゃうね」 「そんな、おおげさだな」 「いやいや、クラウドがびっくりするくらい若返っちゃうよ」 からからと笑ったは、けれどすぐに顔を引きしめて真剣な表情になった。 「そうだね 「……え?」 今度こそ全てがうまくいくようにと、そう動くのだと思っていた。 思わず訊き返すと、が小さく笑う。 「何て言ったらいいのかな……。あの時の私には、多分あれしかできないんだと思う」 今だって憎い。 今だって、目の前であいつが生きていれば、八つ裂きにして殺してやりたいと思う。 今だって、彼ら全員を幸せにする道を選び取る自信なんかない。 今だって、全く知らない世界に関わるのは怖い。 「だから多分、どんなにつらくても、私にはあれ以外の方法はとれないと思うよ」 それだけ成長してないってことかな。 情けないと苦笑するに、クラウドは反射的にかぶりを振っていた。 「そんなわけ、ないだろ!は大人だよ。俺よりずっと」 人生をやり直したら、きっと全てうまくやれると思っていた。 もっと小さい頃から鍛えて、一発でソルジャーになって、堂々と胸を張ってに出会って。 セフィロスともザックスとも、最初からもっと対等に向き合えて。 描くのは明るいものばかりで、それ以外思い浮かばなかった。 「俺には……同じことを繰り返す勇気は、ない」 故郷が焼けるあの瞬間を、もう一度直視できるとは思えない。 うつむいて弱々しく呟いたクラウドに、がそれでいいのだと微笑んだ。 「私はね、ちょっとばかり色々経験しすぎたんだよ。その先にある未来を全部捨てなきゃいけないかもしれないって知ってて、それでも違う方法を取れるほど、強くもない」 取れるはずもないし、取ろうとも思わない。 それしかできないのだと、は自嘲するように目を細めた。 明るい可能性を描けた方が、選択肢が一つしかないよりもずっといい。 たとえそれが過去を否定するものだったとしても、夢を持てることは幸せだから。 「普通はクラウドみたいに、あれこれ考えて悩むものだと思うよ。私もどうしてセフィロスの親権を奪っておかなかったのか、他の世界に飛ばされてから後悔したし」 「……それは……」 後悔のしどころが違う気がする。 しかも、奪うって誰から。 何とも返答に困ることを真面目に言われて、クラウドは曖昧な笑みを浮かべる。 ごまかすために一気飲みしたコーヒーはぬるいばかりで苦みが強く、思わず少しだけむせた。 「大丈夫?クラウド」 「大、丈夫だ……」 おかしそうに笑うに答えながら、その笑顔に嘘がないことにほっとする。 覗きこもうとするに手を振って応え、少し離れた毛布の軍団を見やった。 「それより、もうそろそろ交替だろ。ザックス達、起こすか?」 「あ、そうだね。もうそんな時間か」 全然気づかなかったよと立ち上がるに続きながら、嬉しさを隠す。 空が白むまでそれほど時間もないが、いい夢が見られそうだ。 |