大量に積み上がっていた書類の山も一段落ついて、いつものようにがコーヒーを淹れる。
今日は暑いからとアイスコーヒーを手渡されたセフィロスは、汗をかいたグラスの冷たさにほっと息をついた。


「いつもすまないな」
「いいのいいの、私はセフィロスの補佐官だもの。フォローしなくてどうするの?」


気にするなと笑ったは、自分もアイスコーヒーを一口飲んだ。


次から次へと舞いこむ書類は、毎日尽きることを知らない。
これを顔色一つ変えずさばいていくは、一体どんな生活を送っていたのだろうか。


の世界は、どんな場所だったんだ?」
「え?」


気になったら口にしていた。
その問いに意表を突かれたような表情をしたが、ややして視線を上に向ける。


「うーん……それって、私が一番初めにいた世界のことだよね?」
「ああ」
「難しいなあ」


困ったように笑ったは、ずいぶん昔の話なんだよね、と小さく呟いた。


「私が何も知らないでのんきに過ごしてた世界は、それはそれは平和だったよ」


私の国に限った時の話だけど。


そう前置きされてから紡がれた話は、確かにとても平和なものだった。


毎日学校に行って、友人と喋って、予備校に行って、勉強をして。
今のからは考えられない日常に、セフィロスは内心で小さく驚いた。


「しかし   


話を聞いていて、どうにも理解しがたいことがあった。


「何故、そんなに友人と一緒にいたがるんだ?」


それが心底不思議だ。
友人とは四六時中一緒にいるものではないし、困った時に助け合うのが常だろう。

よくわからないと首を傾げるセフィロスに、は困ったように苦笑した。


「そっかあ……わからないかあ」
「ああ」


そっか、ともう一度呟くが何故か悲しそうに見えて、セフィロスは申し訳なさを感じながら小さくうなずく。
そんな彼の頬に手をすべらせて、は愛おしむように目を細めた。


「いいんだよ、セフィロス。知らないことは、これから知ればいい」
「……そうか」
「うん。友達ってね、多分セフィロスが思うよりもずっと、大きな存在だよ」


そう言ったは、それに、と付け加える。


「人は寂しいから、一緒にいたがるんだ」
「寂しいから?」


理解できないと言うように片眉をあげるセフィロスの頭をなでて、小さくうなずく。


やはり、この子供に寂しいという感情は理解しがたいか。
予想はしていたことだったので、特に驚きはしなかった。


「寂しいの。ずっと独りぼっちは、誰だって寂しいの。セフィロスだって、気がつかないだけで絶対にそうだよ」
「……よく、わからないが……」


断言したに、セフィロスが戸惑った表情になる。
それすらも予想済みだったは、たとえばと言葉を続けた。


「今。ザックスもクラウドも私も、セフィロスの前からいなくなったら、どう思う?」


訊いた途端に、セフィロスの表情が凍りつく。
長い長い沈黙を、は根気強く待った。

この件に関しては、誘導するような発言はしたくない。


グラスから氷が溶けきるほどの時間が流れた後、セフィロスがようやくぽつりと呟いた。




   嫌だ」


「どうして?」




無意識だろう、腕をつかむセフィロスの手をあやすように叩きながら、が優しく問いかける。


達がいなくなったら   俺は、どうすればいい?」


途方にくれた子供のような表情で、セフィロスはを見上げた。
その表情だけで答えを知って、が満面の笑顔になる。


「それが、『寂しい』って気持ちだよ、セフィロス」


親しい人がいなくなるのが嫌だ、独りぼっちは嫌だ。
そう思うからこそ、友達と一緒にいたくなるのだ。


まだ何かを考えているセフィロスに微笑んで、すっかりぬるくなってしまったアイスコーヒーを持ち上げて、もう一度給湯スペースに戻る。


「冷たくなくなっちゃったね。もう一度淹れ直すよ」


こくりとうなずいたセフィロスに目を細めながら、こっそりと小さく祈った。


子供のようなこの人が、どうかこのまままっすぐに育ってくれますように。

友達の大切さを知らなかった、小さな子供。
急がなくていい、ゆっくりと色々なことを知ってほしい。


そして願わくば、遠いいつかの再会の時にも、変わらぬ笑顔を見せてくれますように。











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零夜さんからのリクエストで、「ヒロインにセフィロスが何かを教わる」でした。
大人のひでおが勉強を教わるのはありえないと思ったので、こんな道徳的な内容に。
(ザックスなら勉強でもおかしくない!)


すでにくどいほどあちこちで公言していますが、MCではジェネシスとアンジールは出てきません。
存在無視してます、すいません。
あの2人が出てくると、色々と話がややこしくなってしまうので…。
出てくるとしても、ちょっと仲の良かった1stくらいの扱いになると思います。

友達の大切さを知ったセフィロスに幸あれ!


お持ち帰りは零夜さんのみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!