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部屋は何事もなかったかのように、綺麗に片付いていた。 綺麗に、片付いていた。 ただ一つだけの荷物のトランクごと、いなくなってしまっていた。 「……?」 おそるおそる呼んでも、返事は返ってこない。 しんと静まりかえった部屋に、滑稽なほど震えた自分の声が響いた。 テーブルには、まだ半分ほどが残っている紅茶のティーポットが置かれていて。 それだけが、ついさっきまで彼女がここにいたのだと示していた。 「?」 嘘だろ、そんな。 何も言わずに消えるなんて。 いきなりいなくなってしまうなんて。 俺を置いていくなんて 嘘だと、そう信じたくて、部屋の中を探し回った。 がどこかにいないか、どこかに遊びに行っているだけではないか。 朝にそう言って微笑んだが、約束を破るはずがないとわかっていたけれど。 それでも信じられなくて、そんなに広くもない部屋を駆け回った。 「!どこ行ったんだよ、!!」 叫んでも、返事は返ってこない。 ザックスのところにいるわけがない、だってあいつはさっきまで自分と一緒にいた。 サー・セフィロスは執務中のはずだ。 非番のがいるはずがない。 ならば、どこへ? 「ザックス!、知らないか?」 「?部屋にいるんじゃねえの?」 「いないから訊いてるんだ!!」 首を傾げたザックスに怒鳴ると、おかしいというように怪訝な顔をされた。 「だって、部屋で待ってるって 途中で不自然に言葉を途切らせたザックスは、真剣な表情で何かを考える。 ややしてそっか、と気が抜けたように呟いた。 「あいつ、行っちまったか……」 「……ザックス?」 不穏な単語が聞こえた気がする。 行っちまった? どういう意味だ、それ。 「クラウド」 ザックスが俺を見る。 ほんの少し、寂しそうな顔で。 「がどこに行ったかは、俺にはわからない。でももう、はここにはいねえよ」 「嘘だ!!」 反射的に叫んでいた。 「嘘だっ、だっては約束してくれた!」 何も言わずにいなくなるなんて、そんなことありえない!! 「クラウド、駄々こねるなよ。は行っちまったんだって」 子供に言い聞かせるようにそう繰り返すザックスに、駄目だと思った。 「 ザックスじゃ駄目だ。 サーのところにいかなければ。 そこにはいないだろうとわかっていても、それでも反射的に駆け出していた。 「サー!!」 インターホンを押すのももどかしく、拳でドアを力一杯叩く。 「サー!サー!!が セフィロスに迷惑がかかるなんて、そんなことまで考えられなかった。 俺にとって一番大事なのはがいないということで、それ以外は考えている余裕なんてなかったから。 の名前を出した瞬間、中からサーの声が返ってきた。 「少し待て。今開ける」 言うと同時に、軽い音をたててドアのロックが解除される。 いつもと変わらずに執務机に座るサーに、噛みつくように訴えた。 「 頭がくらくらする。 多分今、自分の顔は血の気が引いているんだろう。 と一番親しかったサーなら、きっと何か知っているに違いない。 「なら、あそこでの仕事を頼んだ」と言ってほしかった。 けれどサーは、何かを悟ったように強く目を瞑っただけだった。 「……は今日、勤務か?」 「は 「そうか……」 そう呟いたきり、黙りこんでしまう。 サーは何かわかったようだけれど、俺は何がなんだかさっぱりわからない。 しばらく待っても何も言ってもらえず、ついに焦れて声を荒げてしまった。 「 「…………諦めろ」 長い長い沈黙のあと、言われたのは残酷な言葉だった。 サー自身も諦めたように、小さくかぶりを振る。 疲れたようなその様子に、思わず頭に血がのぼった。 「あんたは 許せなかった。 あんなに親しかったくせに、俺よりもずっとに近かったくせに、あっさりと諦めるセフィロスが。 こんな奴、サーじゃなくてセフィロスで充分だ。 「何であっさりそんなことが言えるんだよ!何でそんなに簡単に、を切り捨てられるんだよ!何で……っ!!」 そんなに、わかったような顔で諦めるんだよ!! さんざんなじって涙がにじんでくるのを感じながら、悔しくてたまらなかった。 どうして俺だけ、何もわかっていないんだろう。 ザックスもセフィロスも、がいなくなったのに心当たりがあるようだった。 それなのに、俺一人だけが何もわからない。 悔しい。 悔しい。悔しい。悔しい。 「クラウド」 セフィロスが、静かな声で俺を呼んだ。 「が俺達に何も言わずに出て行ったのは、何か理由があるからだ。詳しいことはわからないが、その時は必ず帰ってくると約束してくれた」 だから、待て。 帰ってきてくれるのを、お前も待て。 そう言ったきり再び黙ってしまったセフィロスは、左手首のブレスレットをずっとなでていた。 どこか不似合いなその華奢なものが、以前はの手首にあったものだと気づいた瞬間、何かがわかった気がした。 諦めたんじゃない。 2人はただ、を信じていただけだ。 がいつか帰ってくると信じていたから、あっさりと引き下がれた。 それに比べて、俺は 「……すみませんでした」 「気にするな。それも、を信じている証拠だ」 何の断りもなく出て行くような人ではないと、そう信じているのだから。 小さく微笑んだセフィロスが、今にも壊れそうに見えたのは何故だろう。 はもう、いないのだ。 打ちのめされて部屋に戻ると、テーブルの上に見慣れない小箱があるのに気づいた。 テーブルと同化して、すっかり見落としていたらしい。 おそるおそる手を伸ばしてリボンを解くと、中にあったのは青いピアス。 ソルジャーと同じ、魔晄を浴びた瞳の色。 同封されたカードには、見慣れた筆跡が並んでいた。 合格おめでとう、クラウド!これで君も私達の一員だね。 これから君の進む先に、沢山の幸がありますように。 ぱたりと水滴が落ちて、紺色のインクが青くにじんだ。 これをくれた人はもう、どこにもいない。 どこにも、いない。 俺の知らないどこかへ、一人きりで行ってしまった。 伝えたいことがあったのに。 師匠になってくれてありがとう、友達になってくれてありがとう、これからは負けないように頑張るから、すぐにあんた達に追いつくから、 ついに伝えられなかった言葉は、口からこぼれる前に喉で消えた。 |