黒い髪が銀の横で翻るのを見るのが好きだったのだと、何もかも遅くなってから気がついた。


お互いを信頼しきっているように背中をあずけて、迷うことなく飛び出して行くあの2人を。
それに苦笑しながら、遅れずに喜々として飛び出して行くザックスも。


先陣を切るペアは入れ替わり立ち替わり、その時々で変わったけれど。
自分もいつか彼らの中に入りたいと、切ないほどに奮い立ったものだった。












今回の作戦は明日から1stが指揮を取るのだと噂で聞いて、それほどに難しい作戦なのかとクラウドの背筋が泡立った。

普通の作戦ならば、伍長で十分なはず。
確かに苦戦はしているが、それほどのことには思えなかった。


一体誰が来るのだろうと不安な一夜を過ごし、そして。


「本日より本作戦の総指揮を執る、です」
「……?」


見知った顔に、一気に脱力した。

どうしてよりによって、彼女なのか。
確かに剣の腕は超一流だが、指揮が執れるとは思えなかった。
それなのに。


「第36小隊は散開してH-5地点へ。第8小隊はその場で待機、11小隊の合図を待て」


地図と状況を確認するや、は流れるように指示を出し始めた。
次々に繰り出される指令を無線で聞きながら、クラウドは愕然とする。


   これが、ソルジャーなのか。
これほどまでに智略にも長けていなければ、1stたりえないのか。


   クラウド=ストライフ!何をしている、早く来い!!」
「……っ、すみません!」


小隊長に怒鳴られて始めて、自分の隊に指令が出たことに気づいた。
一見何の意味もないような、明らかに場所外れの配置。

けれど彼女のことだから、きっと何か考えがあるのだろう。
クラウドは自然にそう思えた。


「時刻確認。〇二三〇マルフタサンマルまであと3、2、1   


澄んだ声が戦場に響き渡る。
密やかに、けれどしっかりと。


女だからと少し馬鹿にした目で見ていた隊長達も、兵士達も、もう誰も彼女を疑わない。
は確かに、人の上に立つだけの資質と実力を持っていた。




「作戦開始まであと5、4、3、2、1   GO!!」




山間に潜んでいた部隊が威嚇の為の空砲と重火器の射撃を一斉に行い、敵の目を引きつける。
実際よりも遥かに大きな部隊に見せかけたそれに、敵が浮き足だった。
僅かにひるんだその瞬間に、斥候の役割をしていた部隊が背後を突いてなだれこむ。


   その後はもう、の配置の読みがおもしろいように当たった。
そこここで銃撃や剣撃の音が響く。
クラウド達が潜む場所にも、完全に動揺しきった敵部隊が闇雲に突入してきた。


「てーっ!!」


小隊長の号令で一斉に機関銃を乱射し、相手にダメージを与えていく。
敵が被弾する度に舞い上がる血飛沫の霧と苦悶の声が、否応なしに五感に突き刺さる。
目をそらして耳をふさぎたくなるのを必死に我慢して、クラウドはトリガーに力をこめた。




   !!)




殺す覚悟をしろと、教えてくれた人。
殺す以上は怨みつらみを一生涯背負っていくのだと、教えてくれた人。

殺す相手から目をそらしてはいけないと、何度も言ってくれた。
殺した相手の顔から目をそらすのは、自分の罪から目をそらすのと一緒だからと。


だからクラウドは、吐き気や生理的な涙をこらえながらも銃を握ってきたのだ。


   っ!)


すがるものは神ではなく、その身を持って覚悟を教えてくれた細身の少女。
気が狂わないように何度も心の中で呼びかけながら、少年は人殺しになる。












掃討作戦はが来てから8日後に終わった。
それまで1月近くの費やしていたことを考えると、十分すぎる早さだろう。


撤収作業もほぼ終わり、後は帰還するだけというその時、は自らが蹂躙した隠れ里の跡にいた。




「……




ひとつひとつ丁寧に埋葬された、「神羅の敵」達。
その墓標すらない墓の前で、彼女はただじっと前だけを見て立っていた。
そっと呼びかけたクラウドの声に反応してゆっくりと振り向いたは、その場に似つかわしくないほど穏やかに微笑む。


「撤収作業、終わった?」
「もうちょっと。後はベースを片づけるだけ」
「そっか」


それだけを言ってまた前を向くに、クラウドは泣きそうになった。


彼女は今、自分の指揮で死んでいった人々の怨嗟を引き受けている。
戦場で一番責任が重いのは、その総指揮官だとわかっているから。


、1人でしょいこむなよ」
「ありがと、クラウド。でもね、この人を殺す指示を出したのは私なんだよ」


ためらえば、それだけこちらにも死者が出た。
双方にもっと大きな被害が出た。


けれどそれは、言い訳にもならない。


「冥福を祈るのもおこがましいかもしれないけど、今度こそこの人達が安らかに過ごせるように……」


そう祈ることしか、加害者にはできないから。
言い訳を一切せずに、罪を罪として受け止める。
そんな彼女の姿は、息をのむほど神聖なものに思えた。


表情を一切動かさないの側に、クラウドも無言で寄り添う。




   神様、もしあんたが本当にいるのなら……。


この優しすぎる人の苦しみを、どうか少しでも俺に分けてください。
この作戦に参加した誰よりも重い罪を、進んで引き受けてくれるこの人を、どうか守ってください。




上の人間が責任を負うからこそ、下が動けるのだ。
それを知っている彼女が誇らしく、また苦しかった。


一体何百人、死んでいったのだろう。
一体何百人分、また背負いこんだんだろう。


女のものにしてはしっかりと硬い手をぎゅうと握ると、それに気づいたがクラウドに微笑みかける。


俺もいるから。
ザックス達みたいに頼りにはならないかもしれないけれど、俺だっての側にいるから。


そんな思いをこめて見つめると、が細かく震える吐息をもらす。




「……ありがとう」




泣きそうに歪められた双眸は、それでも涙をこぼすことはなかった。












「……クラウド?もうすぐ列車から降りるポイントだけど……」


ためらいがちに声をかけられ、クラウドは我に返ったようにティファを見る。
彼女の黒くまっすぐな髪は、どこかもういない人を思い出させた。


「……わかった」


小さくかぶりを振って、まっすぐに前を見すえる。




   ある日突然いなくなったあの人に、俺は少しでも近づけただろうか。




弾けるような笑顔が、無性に恋しかった。











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涼橋様からのリクエスト、「クラウド相手、任務中のMCヒロインが廃墟にたたずんでいる」でした。
少年兵のクラウドが書けてうっきうきでした!


トリップヒロインは見た目よりもずっと年をくっているので(笑)かなりぐちゃぐちゃと考えています。
だからクラウドは時々彼女がすごく遠く思えるし、置いてかないで!と必死に頑張ったり。
逆にヒロインも、素直そのものでまっすぐに向かってきてくれるクラウドに結構救われていたり。
お互いが気づかないうちに影響されあっているって、素敵で好きです。

自分ひとりだけ置いていかれているように感じて頑張るクラウド、そんな彼を喜んで育てるヒロイン。
そんな2人を、ザックスあたりはあいつらまたやってんなーとか微笑ましく見てたりします。
実はこの頃からもう、エアリスに彼らのことを話してたり。
で、「に会いたい!」とかねだられてちょっと困ったり。
そうして徐々に、彼らの中にとけこんでいければいい。
誰が、じゃなくて、5人それぞれが。

涼橋様のみお持ち帰り可となっております。
リクエストありがとうございました!