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「……ぃ、おい!起きろって」 小さく鋭い声とつつかれる感覚に目を開くと、何故か長椅子に座っていた。 しかも、普段は絶対に着ないような盛装だ。 これは一体と一瞬考えて、次の瞬間思い出す。 ステンドグラスが美しいこの教会で、これから結婚式があるのだ。 「もうすぐ新婦入場だぞ。昨日もほぼ徹夜だし、きついのはわかるけど、今日は頑張れって」 「……ですね。せっかくの結婚式ですものね」 美しい新郎に、これまた美しい新婦。 招待状を受け取った時に、これ以上似合いのカップルもいないだろうと部内全員の意見が一致したほどだ。 そして新郎は今、とても幸せそうな表情でバージンロードの中程に立っている。 「氾仙様、やっぱり格好いいなあ」 「あんな男前になりたかったよなあ」 「俺たちじゃ無理だって。それにお前、奥さんいるだろ?」 「うちの嫁さんは可愛い。だけど、あの人には負ける」 あちらこちらでひそひそとそんな会話を交わしていると、重い音と共に背後の扉が開いた。 パイプオルガンが荘厳な結婚行進曲を奏でる。 その中を、純白のドレスに身を包んだ娘娘が静かに歩いてくる。 横を歩く父親は、もうすでに涙目だ。 バージンロードを幸せそうに歩く娘娘は、その半ばでやはり幸せそうに手を差し出した惇明の腕に手をゆだねる。 神父の前まで一歩一歩歩いて行くその姿は、まるで夫婦への道程そのままだった。 「汝、氾惇明は、この女楊芳桂を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」 「誓います」 中性的な惇明の声が迷いなく答え、続いて娘娘も同じことを繰り返す。 聖書に手を置いて凛と答える二人の姿は、まるで一枚の絵を見ているようだ。 ぼうっと見つめていると、今度は指輪の交換だ。 まずは惇明が、続いて娘娘が、互いの薬指にリングを通す。 そして神父から祝福の言葉と夫婦の認定が贈られ、惇明が娘娘のヴェールをゆっくりと持ち上げた。 「それでは、誓いのキスを」 神父の言葉に少し照れたような顔で笑い合い、惇明が首を傾ける。 そのままゆっくりと娘娘の顔に近づいていき ばしん、と勢い良く叩かれて、周坊は一体何事かと周囲を見回した。 見回して、真っ先に視界に入ったのが綺麗に微笑む娘娘の姿。 「あっ、娘娘さん、おめでとうございます!」 「何がおめでたいんですかこの馬鹿野郎が。こんなに仕事をためて、よくもまあ呑気にうたた寝できますね」 言われて気づくと、今自分がいるのは中書省で、座っているのは自分のデスクだ。 花嫁なんて、そんなはずないじゃないか……! 女装をした娘娘を想像してヒィ!と内心震える周坊に、さらなる追い討ちがかかる。 「それより、周坊。今なんて言いやがりました?」 「え?僕、別に何もおかしいことなんて 答えかけて、ざっと全身から血の気が引いた。 娘娘にとっての禁句は? アンサー・呼称「娘娘」。 「仕事はまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだありますからね、頑張りなさい周坊」 凍るような微笑と共にさらに書類を追加されて、周坊はがくんと机に額を打ちつけた。 ……何やってるんだよう、僕!! (鳥乃さんとはしゃぎすぎて、思わず書いてしまった禁断のパターン。後悔はしていない!) |