カボチャがよく売れる時期になりました。








温室カボチャの脱走








「リョーマ、何作ってるの?」

ひょいと覗きこんだリョーマの手元には、中身がくりぬかれつつあるカボチャが1つ。

「ハロウィンのカボチャ」
「……あー、そういえばそんな時期だね。でも珍しいじゃん、リョーマがそんなことするの」
「親父に押しつけられた」

不機嫌全開のリョーマに苦笑し、もその横に座りこんだ。

「中身をくりぬいてから顔を作るの?」
「中が詰まってたら、そもそも顔を作れないじゃん」
「……ごもっともで」

ただでさえ固いカボチャの皮をくりぬくだけで、かなりの重労働だ。
器用に中身をがりがりと削るリョーマを見ながら、がぽつりと呟いた。



「おもしろそう」



つまらなさそうなその視線に気づいたリョーマは、少し考えた後に手元のカボチャを持ち上げる。

「やってみる?」
「え、や、いいよ。難しそうだし」
「くりぬくだけだから簡単だよ。俺、あんまやりたくないし」

やる気なさそうに肩をすくめるリョーマからおずおずとカボチャを受け取り、とりあえずといったようにもスプーンを突き立ててみた。


結果。




「……あの、これ、うまくいかないんですけど」


スプーン片手に悪戦苦闘するの図ができあがった。




「ヘタクソ」

どうしてそんなにくりぬけないのだろうか。
ため息をついたリョーマが彼女からスプーンを取り上げ、かわりにマジックを持たせる。

「すぐにくりぬくから、顔描いてよ。それぐらいならできるよね?」
「うん……」

しょんぼりとうなずいたは、しかしカボチャを手渡された瞬間にまじめな表情になった。



「ええと、これじゃあバランスが悪いし……ああ、でも、鼻はもっと大きい方が可愛いかなあ」



あれこれと悩みながら丁寧に下書きをし、それに沿ってリョーマがくりぬく。


「できた!」
「まあまあじゃない?」


横で憎まれ口をたたくリョーマの頭をはたき、は満足気にジャック・オ・ランタンを手に持った。

「ちっちゃくて可愛いね」
「もっと大きいのも作る?」

うふふと笑ったにリョーマがそう言うと、彼女は驚いたように振り向いた。

「できるの?」
「もちろん。明日まで待ってなよ」
「ほんとに?約束だよ!」
大喜びで部屋に帰っていくを見送ってから、リョーマはおもむろに携帯を取り出した。

「あ、先輩っスか?越前っスけど   








そして翌日。

、庭に来て」
「お庭?」

気持ちよく寝ているところを起こされて、寝ぼけ眼で庭に行くと、何故か巨大なカボチャが鎮座していた。


さらに。




ちゃん、おっはよーん☆」




ぶんぶんと手を振る菊丸と、その後ろで苦笑するレギュラー達の姿もあった。

「みんな、どうしたの!?」
「俺が呼んだ」

人数分の紅茶を運んできたリョーマの言葉に、弾かれたようにが振り向く。


「でかいランタン、作りたいんだよね?」

みんなで作れば楽しいじゃん。


そっけなく言われた言葉の中に、確かに自分を思いやる気持ちを感じて、の目頭が熱くなる。

「……そだね。ありがと、リョーマ」
   ちゃん、作ろう?」

不二に頭をなでながらうながされ、無言でうなずいた。


男手が沢山あるからか、大きさの割には作業は早く進んでいく。

「英二先輩、スコップ貸してください」
「ほいほーい」
「あ、大石。カボチャを少し転がしてくれる?」
「こっち?」
「うん、そう」
「……大石、急に動かすな。危ないぞ」
「す、すまない、手塚」

わいわいがやがや。

やはりまだまだ中学生、こういった工作じみたことは全員好きなようだ。



「先輩、こっち……」



彼らの様子を楽しそうにみていたを、不意に海堂が呼んだ。
小首を傾げたが近づくと、海堂は自分が持っていたスコップを差し出す。

「え、いいよ!昨日小さいのでやってみたけど、うまくできなかったんだ」
「ここならすごく柔らかいから、多分大丈夫っス」

どうぞ、と再度勧められ、もおそるおそるスコップを手に取る。
慎重にカボチャに突き刺して。




「……っ、できたー!」




大喜びではしゃぐを、全員が微笑ましく見る。

「よかったね、さん」
「うん!」

にこにこと笑う河村に力一杯うなずき返し、海堂にスコップを返した。

「え、まだやれば……」
「もう充分楽しんだよ。それに、こういうのは男の子がやった方が綺麗にいきそうだし」

そう言われては、海堂も受け取るしかない。
その後も騒ぎながら作業を進め、が描いた線に沿って顔をくりぬき。

「昨日よりうまいじゃん」
「大体のコツはつかめたからね」

得意気に胸を張ったの頭を、不二が無言でなでた。








「さあ、お疲れ様。お菓子をどうぞ?」
「おばさま!」

削り取った中身をゴミ袋に詰め込んでいたら、籠いっぱいにお菓子を乗せた倫子がやってきた。

「今日は南次郎も追い出したし、ゆっくりしていってね」

テニス少年の彼らにとっては、むしろ南次郎と試合をしてみたかったかもしれない。
それでも、が楽しんでくれるのが大切だから。




「コップ持ったー?」
「オッケーだよん!」




大と小、2つのカボチャが仲良く並んで灯りをともす中。





「今日はお疲れ、ハッピーハロウィン!乾杯!」
『乾杯!』





大きな声が響いたそうな。