嫌。


嫌、嫌。


嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!


もがいてももがいても、浮き上がれない。



お母さんが、私じゃない私に話しかけてる。


そっちじゃないのに。
私、ここにいるのに。

ねえ、私の居場所をとらないで。
私の存在意義をとらないで。


お父さんもお兄ちゃんも愛犬も、いくら話しかけても誰だよって顔しかしてくれない。


パル、パル、私だって。
よく抱っこしてあげたじゃない。
散歩も一緒にしたし、ご飯もあげてたし、じゃれあって遊んだし。


いっぱいいっぱい知ってるはずなのに、どうして不思議そうに首を傾げるの?


その向こうでは、私が友達と話している。


外から見たら私ってこんな風な顔してるんだ。
笑顔で話してる私、と思われてる私をぼんやりと見て、そんなどうでもいいことを思う。


夢小説とかだとさ、こういう時にあの子がふと私を見たりするんだよね。
で、意味深なセリフを言ったり、にやりと笑ったりするんだよね。


それすらしてくれない、ワタシ。


蔑む言葉でもいいから、見下す視線でもいいから、私を認識して。
私であるワタシに何かリアクションを起こしてもらわないと、私がここにいる意義がなくなってしまいそうで。
手を伸ばしても、嗄れんばかりに声を張り上げても、何故か私だけは私に気づかない。


ドッペルゲンガー。いるはずのない存在。
だから。


見たら死ぬ存在。
不吉の象徴。


じゃあ、見てしまった私は。
気づいてしまった私は、私の世界では   












   っ、やああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
!?、落ち着き!!」


ぼやけた視界。
全身に吹き出る、じわりとした嫌な汗。
必死な誰かの顔。

誰かの……侑士?




「ゆうし……」

「ん」




ほっとしたようにうなずいて、侑士は両手に持っていたタオルケットで私を包んでくれた。
さわさわとした感覚に、ほんのちょっとだけ気持ちが落ち着く。


「うなされとったから、起こそうかどうか迷っとったんだけどな」


自分で起きてもうたか。


優しい声にぎゅうとタオルケットを握りしめる。
身体を縮こまらせて、できるだけ侑士にすり寄って。

人肌が無性に恋しかった。
何度も来ているはずの侑士の部屋が、急に広く見えて怖い。


「怖い夢、見たんか?」
「……よくみる、ゆめ」


情けなく小さく震える声でそれだけ言うと、侑士はすぐにわかってくれた。


眠りが浅いと時々見る夢。
馬鹿騒ぎして押さえ込んでる部分が見せる、不安の固まりの夢。




「……帰りたいなあ」




優しく頭をなでられて、低い声でゆったりと言われて。
やっぱり今日も、我慢の限界はあっさりと訪れた。


「もうやだよ……こんなとこ、もうやだよ」


壊れたみたいに涙が止まらない。


「何でこっ、なとこ、いるの?受験っ、しなきゃいけないっ、に!私……こんなとこ、嫌っ!」


何度寝ても覚めない悪夢。
平和だったあの頃に軽い気持ちで願ってた異世界トリップは、全然甘くなんてなかった。
帰る場所があるからこそ願える幻想だった。

依るべきものがないこの絶望は、いつでもどこかに巣食っている。


「お母さんに会いたい   !!」


すがりついて、泣きわめいて。

侑士を利用している罪悪感にさいなまれながらも、全部受け入れてくれる侑士から離れることなんてできない。
そんな気持ちを読んだかのようなタイミングで、侑士に強く抱きしめられた。


「いっくらでも利用せえ、利用されたるから。俺はそんなんで怒ったりせんし、何をしても許したるし、が笑えるならそれでええ」


耳元でささやかれる、優しい声。

3つも年下なのに、侑士は私よりずっと大人だ。
侑士達の存在を否定するようなことを言っても、絶対に怒らないで聞いてくれる。

その事が私にとって、どんなに救いになったか。


「ゆうしぃ……」


広い広いこの世界で、侑士だけが私の存在を本当に肯定してくれる。


「侑士、ごめんね……」
「ええって、な?俺はその為におるんやし」


なだめるように髪をゆっくりとなでられて、緊張がほんの少しずつ解けていく。
お母さんの手とは全然違うけど、侑士のそれもものすごく安心できた。


「寝るまで傍におるから、もっかい寝ぇ」
「ん……」


その温かさに甘えて、膝の上に丸まる。
固くてしっかりと筋肉のついた太ももは少し寝にくかったけれど、私は侑士の膝が好きだ。


「ねえ、侑士。起きたら夕飯の買い物に行こうね」
「おー、今日は何にする?」
「そうだなあ……麻婆豆腐とか食べたいな」


ぼんやりと答えると、侑士が満面の笑顔になった。


「よっしゃ、めっちゃ辛くて美味いの作ったる」
「あんまり辛いのはやだなあ」


辛すぎるとあんまり食べられない。

小さく口を尖らせて主張すると、苦笑した侑士に頭をなでられた。


「わかったわかった。が好きな辛さにしたるから、ちょお寝え」
   ん」


本当はさっきの夢のおかげであんまり眠くはないんだけど、その気持ちが嬉しかったからおとなしく寝ようと目を瞑る。


   眠りは思ったよりも早く訪れた。




今度はあの夢を見ることはなくて、夢の中だというのに無性にほっとした。
目を覚まして一番初めに見たのはやっぱり侑士の顔で、今度はさっきのように焦った表情ではない。

友達のところでお夕飯を食べて帰るって電話したらリョーマがものすごくごねたけど、今日はもう知らない!




「辛い辛い辛い!!」
「何や、これでも辛いんか?すまんなあ」
「侑士酷い……!」




結局辛すぎて、楽しみにしてた麻婆豆腐はあんまり食べられませんでした。
おいしかったけど……!おいしかったけど……!!











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花月様からのリクエスト、「ホームシックになるsiestaヒロイン、できれば膝枕つきで」でした。
多分ほのぼのした感じのを期待されてるんだろうなあ…とか思いながら、全然違うシリアスなものになっちゃいました!!
や、リクを見た瞬間に、そういえば2人の関係の深いところを書いたことがないなあと思いまして…。


普段は元気なヒロインも、実は色々抱えてるんですよ、みたいな。
拍手小話でちょっと片鱗を見せたりしていますが、ここまでドロドロなのを書くとは思いませんでした!(あっはっはっは!!)(笑い事じゃない)

忍足サイドが「止まらない切なさ」にあったりします。
なるべく会話が被らないようにはしてるんですけどね…。
私自身が、セリフ被りまくりの話を読むとげんなりしてくるんで…!

花月様のみお持ち帰り可となっております。
リクエストありがとうございました!