は頑張りすぎやと、時々思う。
甘え下手だとも思う。
元々しっかりさんなんやなあ、全部自分でやろうとすんのや。


遊びに来たんはええけど疲れとったのか、ソファで寝てもうたの頬をそっとなでる。


「これで年上、なんてなあ……」


確かにしょいこみやすいところは年上って言ってええんかもしれんけど、外見はまんま同い年。
笑顔で抱きついてくる時の可愛さっちゅうたら……って、んなことはええねん!


「こうやっとると、ほんまに子供なんやけどなあ」


苦笑して柔らかい頬を軽くつつき、干しっ放しやった洗濯物を取り込みにベランダに出る。

今日も太陽がじりじりと照りつけて暑い。


夕飯は何にしようか、青椒肉絲かカレーでもいいかもしれん。
が食べてくなら、リクエストを聞かなあかんな。


そんなことを考えながら部屋に戻ると、が真っ青な顔でうなされとった。


!?」


どうした、まさかまたか!?


時々うなされては悪夢を見ると言うは、確かにうちでも何度もこうしてうなされとる。


何でや、何でばっかりこんなつらい目にあわなあかんのや!


慌てて揺さぶっても、の夢が覚める気配はない。


   もういい加減、開放したってや!
この子は十分苦しんどるやないか。


何度も何度も名前を呼んで、強く揺さぶって。
長い悲鳴をあげてようやく目を覚ました頃には、の顔は涙でぐちゃぐちゃやった。
怖い夢を見たとささやくに、起こそうとしたその判断が正しかったことを確信する。

俺にすがりついて、声を嗄らさんばかりに泣くは儚くて、何もできない歯がゆさに、奥歯がぎりと鳴った。




「もうやだよ……こんなとこ、もうやだよ」




震える声でそう繰り返し、助けを求めるようにすがりつく細い腕。


この世界に独りきりという事実は、一体どんな気持ちなんやろか。

使い古された小説の設定のような、陳腐な言葉。
せやけどそれは、にとっては信じられんような現実で。


「……帰りたいなあ」


自然にその言葉が出とった。


俺やったら、そんな現実悪夢や。
早よ家族のとこに帰りたいに決まっとる。


まっすぐな黒い髪をなでた瞬間、の身体がびくりと小さく跳ねた。




「もうやだよ……こんなとこ、もうやだよ」




絞り出すように震える声で言った後は、もうたがが外れたように泣き叫ぶだけ。

おかんに会いたいと嘆く姿は、一歩間違えたら自分の姿だったかもしれん。
そう考えたらぞっとした。

は優しすぎるから、こうやって嘆いとる時にも俺に対する引け目を感じ続ける。
それは今までのつきあいで嫌というほどわかっとったから、気にするなと腕に力をこめた。


「いっくらでも利用せえ、利用されたるから。俺はそんなんで怒ったりせんし、何をしても許したるし、が笑えるならそれでええ」


誰にも絶対に言えんけど、が頼るのが俺だけだっちゅうのが嬉しい。
嘘みたいなほんまの話が起こったとかはどうでもよくて、あの日に会えてほんまによかったと思う。


こんなに複雑でどろどろして俺に似た子を、俺は見たことがない。




   ああ、同族相憐れむと嘲るがいい。
それでも俺らは互いを一番よく理解できる。




汚いところを自覚して、それでも人を信じようとまっすぐに進んでいくが、愛しくてたまらん。

なだめてなだめてようやく寝ついたの、赤くなった頬に張りついた髪の毛を払って、後で顔を洗わせなあかんなあとぼんやり思う。


乱暴にごしごしこすったからか(ちなみにこすりつけた先は俺の服の胸の部分)、目元が酷く腫れとる。
の居候先の家族が見たら、間違いなく悲鳴をあげるやろ、これ。
えらい過保護みたいやし。


どんな奴らなんやろ、そういえばから一回も聞いたことないわ。
さっきの電話じゃガキがおるみたいやけど、ずいぶん慕われとんのな。


自分の事のように誇らしくなって、静かに眠るに笑いかける。


どんな時も周りに味方を作れることは、一種の才能や。
そこまで考えて、のこれからも考えとった自分に愕然とした。


なあ、
自分、いつまで重たい荷物しょってればええんやろな。
いつになったら、本気で笑えるんやろな。


今の笑顔が嘘やなんて言わん。
けど、ほんまの家族に会えたら、はきっと泣きながら笑うんやろうと思う。
……その時がくるのかどうか、俺にはわからんけど。

きっとくればいいと、そう思う。


「子離れするって、こんな気持ちなんかなあ?」


まだ結婚もしておらんのに、と小さく苦笑した。


がほんまの家族に会えたら、きっともう二度と俺とは会えんようになっとる。
寂しいけれど、誰よりも幸せを願うこの気持ち。

俺の汚いところを受け入れてくれて、それでもいいと許容してくれて、全力で愛情を表現してくる愛し子。




「……どんなんなっても、が笑っとればそれでええんや」




会えなくなっても、共に過ごしたこの時間は消えやしない。
それだけで、俺はこの先生きてける。

理解者がいたっちゅう、それだけで。






起きたに顔を洗わせて、蒸しタオルを目に押し当ててよくマッサージをさせる。


「熱い熱い熱い」
「我慢や、明日腫れぼったい目ぇになってもええんか?」
「それはやだ……!」


必死にマッサージをした後は、きんきんに冷やしたタオルを押し当ててじっと我慢。


「冷たい!」
「我慢や我慢」


なだめながら十分に冷やすと、どうにか見れるような状態になった。












が辛いのは駄目やって言っとったから、麻婆豆腐はいつもよりちぃと辛味を減らして。
できあがった料理を見たは大喜びしとったけど、一口食べて悲鳴を上げた。


「辛い辛い辛い!」
「何や、これでも辛いんか?すまんなあ」
「侑士酷い……!」


……は思ったより辛いのが苦手だったんやなあ。
今度作る時はちゃんと味見させたろ。











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花月様からのリクエスト、「ホームシックになるsiestaヒロイン、できれば膝枕つきで」でした。
「終わらない優しさ」がヒロインサイドだったので、今回は忍足サイドで。


誰も聖人君主みたいに清くはなれないわけで、そういうところをちゃんと理解してくれてお互い丸ごと理解してあげられて。
ヒロインにとって侑士は、唯一本当に自分のことを知っている存在。
だからこそ、この世界で生き抜くための心の拠り所になっているんですね。
そんな2人の関係を書きたいなーと思っていたので、花月様のリクエストをいただいた瞬間に、こんなシリアス路線まっしぐらな内容が浮かびました(笑)

花月様のみお持ち帰り可となっております。
リクエストありがとうございました!