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夏といえば海だよねーとがっくんと話していたら、タオルで汗を拭っていた萩君がこちらを向いた。 「そういえば、今年はあんまり遊びに行かなかったね」 「だなー。よみうりランドとか、去年はあちこち行ったのにな」 「……みんな、絶叫系好きなんだ」 それほど得意じゃない私にとっては、よみうりランドなんかマジ泣きしそうなほど恐ろしい場所でしかない。 「今度、も行こうぜ!ジェットコースターとかたまんねえって!」 「やー……いいや、私は」 さすがにあそこのジェットコースターに乗るほど命知らずじゃない。 というか、乗ったら多分心臓とまる。 ごめんねと苦笑すると、がっくんがつまらなさそうに口をとがらせた。 その横で萩君も、考えるように顎に指をあてる。 「海に行くにはちょっともう遅いし……ちゃん、何かしたいことはある?」 「え?私?」 いきなり話を振られて瞬くと、萩君は優しい目でうなずいた。 なんでもいいよと言われ、さてどうしようと考える。 ウェディング雑誌を見ているだけで結婚式ごっこにまで発展するくらい、色々と規格外なことを平然とやってのけちゃう人達だ。 下手なことを言うと、また大変なことになる。 どう言えばいいかと悩みつつ、豪華になりすぎないだろう類いのものを言ってみた。 「 そのまま花火と言ったら、べったまなら豪華打ち上げ花火をやりそうだ。 私が求めているのはそんなんじゃなくて、もっとこう庶民的な! 手に持ってはしゃげるやつ! というわけで、力一杯手持ちだということをアピールしておいた。 線香花火まで言えば、さすがに誰かが手持ちだと止めてくれるだろう。 「わかった。花火だね」 にっこりと笑った萩君がしっかり繰り返してくれたので、大丈夫だと信じます。 これで打ち上げ花火を盛大に上げられたら、お布団かぶって泣いてやる! 萩君がああいったと言うことは、多分近いうちに誰かから連絡がくるだろう。 そんな予想をしながら過ごすこと数日、夕方にちょたからメールが入った。 『今日の夜、花火できますか?』 時間的に部活上がりだろう、べったまに突然言われたんだろうか。 だとしたら申し訳なさすぎる……。 ぽちぽちと返事を打ちながら、べったまに振り回されるレギュラーのみんながありありと想像できた。 「リョーマ、友達と花火やってくるね」 「帰り、1人?」 「ううん、ちゃんと送ってもらう。明日も部活なんだから、ちゃんと先に寝ててよ?」 「……はいはい」 不満そうにうなずいたリョーマにもう一度念を押して、おばさまにも一言断って家を出る。 駅に着く頃にはまだ明るかった空も、氷帝の最寄り駅に着く頃には薄暗くなっていた。 相変わらず、日が落ちるのはあっという間だ。 暗くならないうちに氷帝に着こうと急ぎ足で改札を出ると、特徴的なキノコヘアが目に入る。 もしやと思うまでもなく、その本人がこちらに近づいてきてくれた。 「さん、こんばんは。いきなりすみません」 「こんばんは、ひよ君。どうせ、景君がいきなり言ったんでしょ」 「 困ったように息を吐いてうなずいたヒヨに苦笑して、行こうと促す。 「みんな、待っててくれてるんだよね?」 さりげなく歩幅を合わせてくれるヒヨと他愛のない話をしていると、氷帝まではあっという間だった。 校門の前でみんなが待っていてくれて、相変わらず仲のいい姿に笑みがこぼれる。 やっぱりいいなあ、引退してもこうやって仲良くできるのって。 私のところは、引退したら基本的にもう顔を出さないのが普通だったし。 必死に曲を覚えようとしている後輩の気を散らすのは、邪魔者以外の何者でもないもんなあ……。 一応進学校だったので、みんな受験勉強に忙しかったというのもあるんだろう。 「よう、」 「こんばんは。今日はどこに行くの?」 いつも通りに口の端を上げたべったまにそう訊くと、当然のように「俺の家だ」と返事が返ってくる。 うん、まあ、夕食ももれなくついてきて、しかも豪華で嬉しいんですけど。 やっぱりこう、花火は公園とか浜辺でやりたいっていうか、情緒がほしいっていうか。 とは言えなかったので、素直にうなずいておく。 私が危なくないようにって、万が一の安全も考えてくれているのは、痛いほどによくわかったから。 お迎えの車(リムジン2台)(残念ながらもう慣れた)(嬉しくない)に分かれて乗って、 出迎えてくれた執事さんに大量の花火を渡される。 そのまま案内されたのは、中庭の開けた場所だった。 「ここなら家の明かりも届かねえし、ちょうどいいだろ」 不敵に笑ったべったまに、感激のあまり思わず抱きつく。 「すごいよ、すごい!原っぱにいるみたい!」 回りを樹に囲まれたこの場所は、とても家の中とは思えないほどだ。 見える場所に家自体はあるんだろうけれど、こちら側だけ明かりを消しているのか、まったくくわからない。 「まあな。俺様に 「、離れ!」 自慢げに鼻を鳴らしたべったまから、勢いよく引きはがされた。 そのままぎゅうと抱きこまれて、どうしたのかと侑士を見上げる。 べったまが憤怒の表情で侑士を睨んでいるから、正面を見る勇気はとてもなかった。 「侑士?」 「気軽に男に抱きついたらあかん!もっと気ぃつけ」 「……じゃあ、侑士も駄目じゃないの?」 「俺は別や、別。の父親やしな」 「いい根性してるじゃねえか、忍足……!!」 「あっ、ほら、もうみんな花火始めてるよ!私達もやろ!!」 地獄の底から湧いてくるようなべったまの声に、慌てて話題をそらす。 ここでデンジャラスなやりとりをされたら、絶対に私も無事ではいられない……!!(ヒィ!) 侑士の腕を振りほどいて、はしゃいでいるジロちゃんの傍に行く。 「ジーロちゃん、私にも1本ちょうだい!」 「うん!はい、これ全部あげる!」 片手いっぱいに握っていた花火を全部渡されて、おかしくなるのと同時に嬉しくなった。 1本目は青い炎。 まっすぐに飛び出るそれにはしゃぎながら、仲良く両手持ちをしている宍戸とちょたに近寄る。 「どれくらいやった?」 「これで5本目……か?」 「そうですね。さん、それまだ1本目ですか?」 「うん。ほら、まだあっちで喧嘩してる」 ぎゃあぎゃあと騒いでいる侑士とべったまを指すと、2人とも生温い笑顔になった。 それを吹き飛ばすように次々と花火を消化し(ヒヨも淡々と消化していた)、花火文字を書き(がっくんがムーンサルトをやろうとして大変だった)。 ネズミ花火で大盛り上がりをして、家庭用の打ち上げ花火をキャンプファイヤーのようにみんなで囲んで楽しんで。 いよいよ最後に残ったのは、リクエスト通りの線香花火だった。 誰からともなくしゃがみこんで、そこここで静かに火を見つめる。 気をつけていてもすぐにぽたりと落ちてしまう花火は、見る度に切なくなるのが不思議だ。 ぱちぱちという小さな音だけが響く中、隣にしゃがんでいた侑士がぽつりと呟いた。 「また 「来年……」 来年、私はここにいるんだろうか。 まだここから、帰れずにいるんだろうか。 まだここに、いることができるんだろうか。 様々な思いがごちゃごちゃになって、馬鹿みたいに繰り返す。 そんな私にうなずいて、侑士が来年も、ともう一度言った。 「来年はあちこちに遊びに行って、いっぱい笑って、ほんでまた花火やるんや。 「私」を唯一知る侑士の言葉は、静かでもとても重い。 きっと来年もいられたらいいと、そう願ってうなずき返した。 ----------------------------------- 「siestaで少しシリアス気味のほのぼの、氷帝で」というリクエストでした。 ほのぼのがどこら辺にあるのか、書いてていまいち自信がなくなってきました…(笑) 最近は公園や砂浜で花火禁止のところが増えてきていて、寂しい限りです。 というわけで、べったまのお家で盛大にやらせていただきました! 火花で火事?え?何それ、知らなーい!(こら) 侑士はヒロインの事情を知っているからこそ、「また来年も」と約束をしたがる。 彼女にとっては酷なのかもしれないけれど、自分はまだ一緒にいたいから。 わがままだとわかっていても、それがヒロインの支えになることもまた確か。 君はここにいていいんだよ。 お持ち帰りはリクエストをして下さった方のみとなります。 リクエストありがとうございました! |