お花見に行こうと約束をしたのに、みんな忙しくて行けなかった。
それはしょうがないことだとわかっていても、やっぱり少し寂しいものだ。

桜も盛りを迎えた今日この頃、窓から眺めるだけでも心が浮き立つ。
お寺の桜でも見に行こうと立ち上がりかけたその時、リョーマが軽いノックと共に入ってきた。


、今日は早く寝ないでよ」
「え?何で?」


また徹ゲーでもやるのかと思ったけれど、今日は金曜日。
明日も朝から部活があるはずだ。
だから徹ゲーはありえないとすると……何だろう?


「外、出るよ。あんまり薄着しないようにしといてね」
「はぁい……?」


一体どんな用事だろうかと首を傾げる。
理由を知ったのは、リョーマに手を引かれて外に出た時だった。




「みんな!」




もう夜遅いのに、青学・氷帝・立海のみんなが、勢揃いで待っていてくれている。
代替りもして、みんなそれぞれ忙しいはずなのに。


「花見、するんやろ?」


優しく侑士が笑ってくれて、どうしてみんなが集まっているのかがわかった。
   お花見、してくれるんだ。


「……うん!」


その優しさに泣きそうになりながら、大きくうなずく。
くしゃりと頭をなでてくれたフジコの手が、大きくて優しかった。


「どこ行くの?」
「すぐそこ。親父の寺」
「あ、そこなら安全だね」


ずっと手を引いてくれているリョーマの返事を聞いて、ほっと安堵の息を吐く。

どんなに大人っぽく見えても、みんなまだ高校や中学に通う子供達だ。
夜中にふらふら出歩くのは、一応年上として心配この上ない。


、足下気をつけて」
「うん」


気づけばみんな、私を囲むようにして歩いている。
はしゃぎまくりの英二は言わずもがな、あの赤也でさえ、仏頂面で私の斜め後ろにいた。
女の子だからと、気を遣ってくれているのが嬉しい。


「夜桜だけど、いいでしょ?」


笑ったリョーマにぶんぶんとうなずいて、人工的な明かりから隔絶された桜を眺める。


、こっちだよ」


ゆき君に手招きされて近づくと、全員が座ってもまだ余るような、大きなブルーシート。

繋ぎ目にダンベルが置いてあるのは、桃の趣味だろうか。
それともたまらん?
いや、大穴狙いで部長かも。

まあ、重しになるような石なんてないから(おじさんが裸足なのに、そんなもの転がってたら危なくて仕方ない)仕方ないんだけど。


何となく流れでゆき君の隣に座ったけれど、侑士が思いっきり寂しそうな顔をしているのがものすごく気になる。


ー……!!」
はーい忍足、ちょっとウザいよー。ごめんねー、ちゃん」
「ううんー。こっちこそ、侑士が迷惑かけてごめんね」


泣きそうな侑士が萩君率いる突っ込み隊に沈められるのは、もう仕様だ。
笑顔で手を振り合って、後で行くねーと約束する。


、軽くつまむか?」


たまらんが差し出してくれた重箱には、重くなりすぎないおかずがいくつか詰められていた。
寝る前に食べるのはあんまり身体によくないんだけれど、わざわざおばさまに作ってもらったのがわかったから、ありがたくいただく。


「お豆、甘くておいしいね」
「そうか。母も喜ぶだろう」


そういえば、夏に何度かお邪魔してから、たまらんの家には行っていない。
絶対にまた来てねと毎回言われていたから、今度行ってみようか。


……おばさま、息子達が彼女を作らないから、女の子に飢えてたもんなあ……。


「何か飲みますか?」
「あ、ありがとう。じゃあ、グレープフルーツジュースもらえるかな?」


じぇんとるにそう言うと、紙コップに素早く注いで渡してくれた。
仁王ではないと思う、細かい仕草が化けた仁王よりもずっと繊細だ。


「夜桜もいいものだね。自分の家にこんなところがあるなんて、越前がうらやましいよ」


サイダーを飲みながらそう笑うゆき君は、月明りに照らされて、とても綺麗。
私なんか、裸足で逃げ出したくなるくらいだ。


というか、逃げ出しちゃ駄目ですか?
あ、駄目ですか。そうですか。


「家からちょっとだけ見えるんだよー。こっちの方が上だから、全部は見渡せないけど」
「そうか。は家でもお花見ができるんだね」
「うん、得した気分になるの」


桜の季節は短いけれど、毎日見ても飽きない不思議さがあった。
小さく笑ってうなずくと、柳に頭をなでられる。


「その感性はとてもいいものだ。大切にしろよ」
「うん!」
「来年もこうやって、お花見ができるといいですね」
「そうだね。本当にそう……」


ゆっくりと桜を仰いだじぇんとるに、小さく心から呟いた。




来年もまた、私がここにいられますように。




偶然手のひらに落ちてきた花びらに願って、そっと地面に放す。
薄いピンクはすぐに他のそれに紛れて、見えなくなった。

ちょっとだけ寂しくなった私の肩を、ゆき君が優しくなでる。


「よかったね」
「え?」


何がだろうと首を傾げると、綺麗な目が小さく細まった。


「桜の花びらをつかまえられたら、幸せになれるんだよ」
   あ!」


そういえば、そんなジンクスもあったな。
そんなことは綺麗さっぱり忘れていたので、思わず大きな声をあげてしまう。


地面に放さないで、そのまま持っていればよかった。
後悔していたその肩を叩かれて振り向くと、たまらんが武骨な握り拳をずずいと突き出してくる。


、手を出せ」
「え?」
「いいから出せ」


早くしろとせかされて、小首を傾げながら手を出すと、その上にたまらんの拳が重なった。


「急に動かすなよ」


念を押されてそうっと離れていった手の下を見て、思わず声があがる。


「桜!」
「……落ちてきた。お前の方が喜ぶだろう」


何が、とは言わないあたりに、たまらんの優しさを感じた。


「ありがとう」
「……礼を言われるようなことはしとらん」


そっぽを向いたその耳が真っ赤なのが夜目にもわかって、立海のみんなと一緒に心行くまで笑う。
慣れないことをしてくれた、それが何よりも嬉しかったのは、絶対にたまらんには秘密。











-----------------------------------

まあこの後、氷帝やら青学やらともからむんですが。
そういえば立海とのからみって書いたことないなーと思ったので、今回は彼らに出張ってもらいました!
多分氷帝とか青学とかとのからみを期待してらしたんだろうなー…と、反省はしています。 後悔はしてません(最悪)


あちこちで書いてはいるんですが、トリップヒロインって設定上は全部この子なんですよね…。
MCのヒロインが男前すぎて、わかっているのに別人だと思ってしまいます(笑)
特に今回みたいに、リクエストで連続して書いていると、なおさら。
人って時間と共に変わるんだと、彼女を見ているとしみじみ感じます。

ヒロインはこの後侑士に泣きつかれて、しばらーく隣でなだめて、ついでにべったまにちょっかいを出されて。
氷帝メンツとおしゃべりした後、むくれたリョーマに青学ゾーンに連行されます。
コアラ抱っこ状態のリョーマに侑士がムンクになったり、また萩に笑顔で沈められたり(でも萩もちょっとムカついてる)(だから八つ当たりもかねて、容赦はなし)
そんなどったばた。

氷翠さんからのリクエストでした。ありがとうございました!
リクエスト品ということで、今回はフリーではありません。
お持ち帰りはご遠慮くださいー。