ふわふわと楽しそうにひるがえるスカートの裾を見ながら、どうしてこんなことになったのだろうと日吉はこめかみを押さえた。
確か、散歩をしようと誘われたのが、運の尽きだった気がする。


「あれ?今日は、部活お休み?」
「ええ。忍足さんから聞いていないんですか?」
「連絡してみなかったー……」


残念そうにうなだれたさんは、ふと俺に視線を移して首を傾げた。
テニスバッグを持っているのが不思議なのだろうか。


「自主練をしたんですよ。朝練は普通にありましたしね」
「あ、そっか。放課後にないからって、朝もないってわけじゃないもんね」


先回りをしてそう言うと、さんも照れたように笑う。
無意味に髪をなでつけながら視線をさまよわせて、何かを思いついたように顔を輝かせた。


「ねえ、ヒヨ君。ちょっと時間あるかな?」
「は?   はあ、ありますが」
「じゃあ、ちょっとお散歩しない?せっかく暖かくて気持ちいい季節だし!」


弾むような声でそう言ったさんが、俺の腕を軽く引く。
上目遣いで見上げられて、思わずくらりと目まいがした。


……どこまで無意識にタチが悪いんだ、この人は。


「……構いませんよ」
「やった!ありがとう!」


満面の笑顔で喜んださんは、そのまま軽やかに走り出した。
不意のことに呆気にとられていると、振り返った顔が不思議そうに傾げられる。


「ヒヨ君?」
   今行きます」


少し大股で後を追うと、すぐに隣に並ぶことができた。


「暖かいねえ。日陰だとまだ肌寒いけど、日なたじゃコートはいらないね」
「そうですね」
「桜、まだ咲いてるかなあ」
「もう駄目でしょうね、さすがに」
「やっぱりそっかぁ」


眉を下げたさんは、けれどすぐに足元を見て顔をほころばせる。


「見て、たんぽぽ」
「……セイヨウタンポポですね」
「ああ、今日本にあるのは、ほとんどそうだね」


でも、すごく和む。

絶滅しそうなニホンタンポポには申し訳ないけれど、セイヨウタンポポも可愛いと、さんは目を細めた。


「ねえ、1本摘んでも大丈夫かな?」
「ええ、公道ですから   
「そうじゃなくて」


大丈夫だろうと言おうとしたら、小さくかぶりを振られる。


「お花、寂しくないかなって」
「…………ああ」


そういうことかと、合点がいった。

そうだ、さんはこういう人だった。
物言わぬ植物にまで優しくするような、そんな人だった。


「大丈夫ですよ。その分、さんが一緒にいれば」
   そうだね!」


嬉しそうにうなずいたさんが、そっと手を伸ばしてたんぽぽを摘みとる。
一枚一枚の花を飽きる様子もなくなでながら、細まった目がこちらを向いた。


「やっぱり春っていいね、ヒヨ君」
「……そうですね」


あなたがこんなにも、嬉しそうな顔をする。
そんな言葉は言えるはずがなくて、だから目元をゆるめてうなずくだけ。


俺も足元のたんぽぽを1本摘みとって、何となくくるくるともてあそんでみた。
そういえば、小さい頃は茎を細く裂いて、それを水につけて遊んでいた気がする。
くるりと丸まった茎がおもしろくて、無意味に何本も裂いてみたものだった。

けれどそれを、さんの前でするのはためらわれる。
何故かはわからないが、怒られそうな気がしたのだ。


手元のたんぽぽを見ていたら、いつの間にかさんが先に進んでしまっていた。


「ヒヨ君、早くー!」
「はい」


まったく、仕方のない人だ。
自由気ままで、とらえどころがない。

それが心地いいと思えるようになっているあたり、俺もかなり影響されているのかもしれないが。


さんが歩く度に、ひらりひらりとスカートの裾が動く。
時折風になびくそれは、淡い緑色が新緑と同化しそうな錯覚を覚えた。
放っておくと、そのまま溶けて消えてしまいそうだ。


自分らしくない考えに失笑して、それが少なからずさんの影響かもしれないと気づく。
……本当に、どうかしている。


さん、あまり急ぐと転びますよ」
「大丈夫!そんなにそそっかしくはありません!」


むっとしたように眉根を寄せて、さんが舌を出した。
その足元に空き缶が転がっているのを見つけて、思わず目を見開く。


さん!」
「え?   あ」


がくりと、さんが態勢を崩した。
急所をかばうこともできない態勢で、頭から地面に倒れていく。




「くそ   っ!!」




間に合うか!?


とっさに膝を落として、宙に浮いた細い腕を引っ張る。
手加減など考えずに、力の限り。
上半身を前に出して、胸全体で身体を受け止めるようにした。

それなりに強い衝撃は、倒れた勢いのせいか、それとも俺の腕の力か。


「……っくりしたあ。ありがと、ヒヨ君」
「……だから、気をつけてくださいと……」
「うん。血の気が引いた……」
「それはこちらのセリフです」


さんに何事もなかったのを確認して、肺の底からため息をつく。


「腕、大丈夫ですか?手加減せずに引っ張ったんですが……」
「ん、大丈夫。ちょっと痛いけど、ひねったり外れたりはしてないよ」


にっこりと笑ったさんは、立ち上がって俺に手を差し伸べた。


「行こ!綺麗な花があるって、リョーマに聞いたの」
「チビすけか……」
「リョーマだってば。多分あの子、身長伸びるよ」


私より大きくなるかなあ。
なるといいなあ。

楽しそうに呟くさんに苦笑して、さりげなくその半歩後ろまで近寄る。
今度危ない目に遭っても、すぐに助けられるように。


「そそっかしいさんよりは、大きくなるかもしれませんね」
「ひっど!ヒヨ君、ひっどい!!」
「自覚はあるんでしょう?」
「なお悪いわ、馬鹿ー!!」











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この2人って、2人きりだとどうやって絡むんだろう…とか考えながら、ほのぼのお散歩させてみました。
一部ほのぼのしてない場面もありますがネ!(笑)


私自身は花粉が怖いから、春はあんまり外には出ません。
けれど多分、siestaのヒロインだったら、喜んで飛び出すんだろうなあと思います。
季節を感じるのが大好きな子です。
自然が大好きな子!

みんなを誘って、あちこち出かけてるといい。
普段は出不精なのに、そんなところだけアクティブです(笑)
みんなはテニス三昧で、季節なんて大会に向けてのことしか考えていないから、きっとヒロインに腕を引かれて初めて気づくんでしょう。

リクエスト品ということで、今回はフリーではありません。
お持ち帰りはご遠慮くださいー。