みんながいきいきとテニスをやっている間に見ていた雑誌がまずかったんだよ、多分。
そうに違いないよ。








サムシングブルー









、何見てるの?」
「んー?ブライダル雑誌」


汗だくでタオルを取りにきたリョーマにひょいと除きこまれて、何も考えずにそう答えた瞬間、ものすごい形相で侑士が飛んできた(怖いって……!)


「ちょ、ちょちょちょちょい待ち!!誰や相手は!!俺は認めへんで!!」
「え、ちゃん結婚しちゃうの!?」


ついでに英二も騒ぎ始めた。


「落ちついてよ、単に菜々子さんがもらってきた雑誌を持ってきただけだし」
「第一まだ結婚できないでしょ、ちゃん」
「不二君大正解」


現行の法律じゃ、16からしか結婚できませんって。

もっともなことを言ってくれたフジコをびしりと指差すと、たまらんに「行儀が悪い」と叱られた。
いつの間にか集まってしまったみんなの中で私1人だけ座ってるから、その恐ろしさは普段よりも倍増だ。


「でもやっぱり、女の子ってそういうのに憧れるんだね」


ゆき君に微笑まれて、思わず私も頬がほころんだ。


ゆき君が花嫁姿でも、きっと全然違和感ないよ!とかいう思いはこっそりしまっておいて。


「白無垢で神前式も憧れるけど、やっぱりウェディングドレスは着てみたいなあ。一生に一度しかないことだしね」


個人的には流線形のドレスが好きだけど、ふんわり広がるタイプも捨てがたい。
モデルさんが着ている色々なタイプのドレスを見て楽しんでいたら、べったまが後ろからそれを覗きこんできた。


「色々あるんだな」
「そうだよ、今はまたクラシックなタイプも人気が出てきてるみたいだね。ほら、これなんて一昔前のと同じだよ」


私には単に古い型としか思えないけど、これがいいっていう人もたくさんいるんだろう。


ちゃんにはどんなのが似合うかな?」
「やっぱり王道でふわっとしたのでしょ!あれ、可愛くて好きだにゃ!」
「英二君猫語禁止」


はしゃいで手をあげた英二にはとりあえず突っ込んで、その前に結婚できるんだろうかという不安がやってきた。




……うちの学校、オールドミスが6割だったような……!(結婚自体難しいじゃん!)




そんな不安など華麗に無視されて、周りのみんなは私の花嫁姿についてあれこれ話している。


え、あの、テニスは?
みんな、テニスしに来たんじゃないの?


「マーメイドラインとかは?」
「あれは動きづらいと聞いたぞ」
「でも、こういうのは見た目重視じゃないんスか?」
「シャープで動きやすさも重視するんだったら、やっぱりこういう流れるラインのがいいと思うな」


「まあ、相手によっては、の結婚なんて認めないけどね」


ぼそりと呟かれたリョーマの一言に、それまでわいわいと騒いでいた全員がぎしりと動きを止めた。


の結婚相手、ね……」


難しい顔でゆき君が呟けば、その横でジェントルマンがかぶりを振る。


「それなりの人物でないと、さんは任せられませんね」
「そうだな」


たまらんまでうなずいた……!(何なのこの扱い!)


「認めへんで!どんな相手でも、が嫁に行ってまうなんて信じられへん……!」
「だからさ、侑士。はまだ嫁には行かねえって」


「……、あの人どうにかならないの?」
「……ごめん、ちょっと無理」


号泣しそうな勢いでわめいている侑士を見て、リョーマが呆れたように訊いてくるけど……あれはどうしようもありません、すいません。
私も恥ずかしいです、リョーマ。


が挙式上げるんなら、せめて海外ぐらい行かないとな」
「そうですよね、ローマの教会はどうですか?」
「ちょっと待って、そんなお金どこから出るの」


そんな大金は持ってないぞ!と慌てて口を挟むと、べったまが何を言っているんだと言わんばかりに鼻を鳴らした。


「ああん?そんなの、俺様が出してやるに決まってるだろ」



さ い で す か 。



「……まあとりあえず、ありがとう……?」
「ああ」


ご満悦のべったま、そのまま私をじっと見ていたかと思うと、何かをひらめいたようだ。

ものすごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
気のせいだよね、そうだよね!




「せっかくだから、今度色々ドレスを着てみるか?」
「え?」

「どんな形が似合うかは、知っておいて損はねえだろ」




疑問系のくせに決定事項ですか、そうですか。
否定は許されないんだろう。

今度の休みを思って、一体どれだけ着せ替え人形になるのかとぐったりとなった。













うん、かなりすごいんだろうとは予想していたけど。


「フルオーダーメイドでこれだけやるとは思わなかったよ……」
「やるならとことんこだわるもんだろ?」


さも当然のように答えたべったまの背後には、ずらりと並んだウェディングドレスとお着替えのためのメイドさん達。


「さ、お嬢様!お着替えいたしましょう」
「お、おおおお手柔らかに……」


ガクブル震えながらおそるおそる部屋に入ると、途端にメイドさん達に囲まれた。


「まずはこちらから」
「その次はこのパフスリーブを」
「こちらもお忘れなく!」


1回着替えるごとに外に出て、みんなの批評を(一方的に)聞く。
最初はそれなりに楽しんでいたけど、7着を越した辺りから疲れの方が勝ってきた。


「ねえ、景君。まだ着なきゃ駄目?」


べったまが用意したドレスは15着。
10着までは頑張ったけど、やっぱり疲れ果ててしまった。
よくもまあ、こんな短時間でこんなに作ったもんだよ!


「まだ3着残ってるだろ」


平然と指示してくるけどね、着てる方は大変なんですよ!!

全部着てああだこうだとみんなが討論し、ようやく決まったと安堵の息をはいたのもつかの間。


「やっぱり自然に流れる方が、ラインが綺麗に出るな」
「刺繍も凝ってていい感じだね」
「じゃあ、もうこれ   

「ねえねえ、せっかくだから結婚式ごっこしようよ!ちゃん、せっかくものすごく綺麗だC」


ジロちゃん…!(余計なことを!)


「ああ、いい考えだね」
「父親役は絶対俺や!」
「花婿役は誰がやるんだ?」
「身長差考えて決めろよ」
「ベストは10cm差か?」
「いや、ヒールを考えて15cmはみた方がいいだろう」


やっぱりみんなの間で話が進んでいって。


と15cm差って   
「ジャッカルと忍足がちょうどだな」
「ジャッカル……」


みんなの視線がジャッカルに向いて、そっとそらされた。


「……却下だね」
「うむ」
「ああ、そうだな」
「何だよお前ら!!」


あ、ジャッカルが可哀相なことになってる。


「忍足は父親役をやりたがっているし   
「柳、他に似た身長はいないのかい?」
「手塚が16cm、柳生が14cm差だな」


しばらくの沈黙の後、何故か今度は視線がこちらに向く。


「……はどっちがいい?」
「え?」


リョーマに訊かれて考えるけど、正直どっちもどっちというか……(シー!)


「……手塚君、かな?」


身長差は大きい方がヒールの心配をしなくてもいいし。


「はいはいはいっ、俺神父さん役やるー!」
「やめときジロー、お前には無理や」
「大石なら適任じゃない?」


フジコの一言でそれも決まり、あれよあれよという間に似非結婚式会場ができあがってしまった。


「お綺麗ですよ、お嬢様」


フルメイクにウィッグとベールまでつけられて、私の方はもう疲労困憊ですよ。
満面の笑顔のメイドさん達に見送られて、すでに涙目の侑士の手を取る。


……、嫁になんて行かんでくれ……!」
「ごっこだってば、侑士」


とはいえ、やっぱりバージンロードは緊張する。
いつの間にかみんな正装してたとか、侑士が本番さながらに号泣したとか、部長が射殺さんばかりに侑士に睨まれたとか、まあ色々あったけど。

終わった後にみんなで撮った写真は、多分一生の宝物!