時々、この人の思考回路はどうなっているんだとか、その突拍子のない言動はどこからきているのかとか、そんなことを思うけれど。
何だかもう、どうでもいい……。







キノコ







珍しく土曜日に顔を出したさんに、先輩方が大喜びでお菓子をあげている。

「よぉ来たなあ!ほれ、好きなだけ食えや」
、これうまいんだぜ!」
ちゃん、ムースポッキーいる?」


……田舎に来た孫に接する祖父ですか、あなた方は。


「わーいvいいの?ありがとう!」
「たんとやるから、また土曜に来ぃや」


餌づけですか!?


「うん!」



貴女もそれでいいんですか!?



「でも、最近また太ったからなあ……。来るのは時々にしなきゃ」
「ええやん、太ったって。もうちょっとふっくらしても、は十分可愛いで」
「乙女心がわかってないねえ、侑士。そんなんじゃもてないよ」

ちっちっち、と指を振って、さんは手に持ったプリッツを忍足さんに向けた。

「もうすぐ夏じゃない。肌を露出する時期にむけて、少しはやせたいと思うのが普通だよ」

忍足さんは単に、さんを頻繁にここに来させようとしているだけだと思うんだが。
多分この人は、全くわかってないんだろう。

「何ぃっ!?あかん、あかんで、肌なんてみせちゃ!」
「何で侑士にそんなこと言われなきゃいけないのよ」


その通りだ。
さん、もっと言ってやってください。


「娘のことを心配すんのは、親として当然や!」
「私、こんな親持った覚えはないけど?」

さらりと切り返されて、忍足さんがショックを受けたようによろめいている。
それを向日さんや芥川さんがはやしたて、さんも笑いながら見ていた。



……馬鹿だ。



つくづくそう思ってため息をついたら、隣の鳳が顔を覗きこんできた。

「日吉、どうしたの?」
「いや、何でもない」




……そもそも。

大体どうして、準レギュラーの俺が正レギュラーと一緒に昼食をとっているんだ?




「ヒヨ君、大丈夫?」



わかっている。
おそらくはさんがどうしてもと跡部さんや忍足さん達に頼みこんだから、俺はこうしてここに強制連行されているんだろうということは。

ただ、どうしてこの人がここまで俺にこだわるのかがわからない。



「はい」
「ほんとに?」
「本当です」

眉を下げるさんを安心させるように繰り返すと、ようやく笑った。

「そっか」

そう言うと、さんは差し出されたお菓子に手を伸ばす。
与えている忍足さんの鼻の下が伸びきっている。
はっきり言って、怪しいことこの上ない。

一つつまんで食べようとして、彼女は何かに気づいたようにじっとそれを見た。

「何やってんだよ」

宍戸さんが首を傾げても、さんは曖昧に声をあげるだけで、まだじっとそれを見ている。

「きのこの山がどうかしたのか?」
「うーん、ちょっとねえ……」

跡部さんにも、まだ曖昧な返事だ。
   と思っていたら、今度は俺が穴があくほど見つめられた。


何なんだ?


「……どうしたんですか?」
「うーん……」

小さく首を傾げて、さんはまだ俺を見ている。




「……誰が言い出したんだろう……」




「え?」


さんが小さく何かを呟いたが、声が小さすぎてよく聞こえなかった。

「ううん、何でもない」
「えええ、ちゃん、気になるよ」

芥川さんがさんの腕を引く(間延びした言い方が馬鹿に聞こえるから、やめた方がいいと思う)
さんは苦笑して芥川さんの頭をなでた。

芥川さんは喜んでいるが、中学3年にもなって、しかも男がそれでいいのか!?


「なーいしょ。怒られちゃうからね」
「誰にー?」

「うーん……多分、ヒヨ君」
「俺に?」


どうして俺が怒らなきゃいけないんだ?
さっぱりわからない。

「何で日吉やねん」
「ちょっとね」

くすりと笑うと、さんは今にも寝そうな芥川さんの口にムースポッキーを突っ込んだ。


「はーいジロちゃん、寝ないでねー。もうすぐ部活が始まるよー」
「むー……」


それでも寝そうな芥川さんにはいっそ感心するが、他人の口に長いものを勢いよく突っ込むのは危険だと思うんだが……。










さん、先程のお話ですが   

何故俺が怒らなければいけないのかを訊こうとしたら、さんは「ちょっと待ってね」と言い置いて、監督のところに小走りで近づいていった。

「監督、日吉君に用があるので、ちょっとお借りしてもよろしいでしょうか」
「構わない。行ってよし!」
「ありがとうございます」

笑顔で頭を下げて戻ってきたさんに連れられて、何故かコートから離れたところに行く。
どうして話をするだけでこんなところに来る必要があるのか、さっぱりわからない。


「ここでいっか」


周囲を見回して一人ごちると、さんがくるりと振り向いた。


「ごめんね、こんなとこまで」
「いえ。   ですが、どうしてここに?」
「聞かれたら嫌かなあと思って」

「俺が、ですか?」
「うん」


何故そうなるのかがわからずに首を傾げていたら、さんがくすくすと笑いながら手招きをする。
何かと思いながら顔を近づけると、耳元でそっとささやかれた。





「あのね、ヒヨ君の髪型がね、キノコに似てるなあって思ったの」


ごめんね?





…………何ですかそれは。



笑顔で可愛らしく首を傾げられても、こちらとしても困る。



「ごめんね、ヒヨ君、怒った?」

俺がずっと黙っていたからだろう、さんが不安そうに眉根を寄せて顔を覗きこんできた。
その表情を見ているうちに、無性に脱力感が身体を襲う。



…………何だかもう、どうでもいい。



「怒っていませんよ」
「ほんとに?ほんとに?」
「ええ、本当です」

さっきと同じようなやりとりを繰り返すと、さんはようやく安心したように笑った。




貴女の笑顔が見られるならば、もうどうだっていいんです。