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心から、願う。 その笑顔が、真実のものであってほしいと。 信じたいよ いつも、笑っている。 もちろん怒ったり拗ねたりもするけど、さんは大抵いつも笑ってる。 俺達がそれに元気をもらっていることも、また確か。 「あれ?タカさん、どうしたの?」 「い……いや、何でもないよ」 さんに顔を覗きこまれて、慌ててかぶりを振る。 その反応にさんは不思議そうに首を傾げたけど、すぐに安心したようにうなずいて向こうに行った。 いけないいけない、心配されちゃったな。 「おーいタカさん、ラリーやろうよ!」 「いいよ」 コートから英二が元気に手を振っている。 それにうなずいてコートに行こうとしたけれど ……ラケットがない……。 「あれ?」 どこにやったんだっけ……? さっき桃と打ち合って、その後水道に行って水かぶって あれ?あの時、ラケットはどこに置いたっけ? 「ターカーさん」 あちこち見回してラケットを探していたら、笑みを含んださんの声がかかった。 「え?」 振り向くと、悪戯っぽい表情のさんが立っている。 「はい、これ。探してるよね?」 差し出されたのは、確かに俺のラケット。 「え?あ、ありがとう。でも、どうして……?」 彼女が持ってるんだ? そんな俺の疑問を読んだかのように、さんが水道の方を指差した。 「あそこに立てかけてあったよ。さっき水かぶった時に、置きっぱなしにしちゃったんじゃない?」 「あ」 そういえば、そんなこともしたような。 「1年が誰のだろうって騒いでたから、持ってきちゃった」 「俺のだってわかったのかい?」 テニスなんて全然知らないはずなのに、俺のラケットを知っていたことに驚いた。 「うん。毎回見てれば、いくらなんでも何となく覚えちゃうよ」 「記憶力がいいんだね」 あっさりと言ったさんに感心してうなずくと、彼女はからからと明るく笑う。 「どうでもいいことに関してばっかりね。勉強の方はさっぱり」 「あははは、それは不便だね」 「本当だよ。もう、覚えても覚えてもこぼれ落ちてくからさ、きりがないの」 頬をふくらませて肩をすくめたさんは、差し入れに手を伸ばしかけている桃に目ざとく気づいて大声をあげた。 「桃ちゃん!まだ差し入れ食べるの禁止!!」 「ええ!?いいじゃないっス 口をとがらせて文句を言おうとした桃に、近くにいた手塚が口をはさんだ。 「グラウンド15周だ」 「げっ!!マジっスか!?」 「行ってらっしゃーいv」 顔色の変わった桃に、さんが笑顔で手を振っている。 可愛い顔してなかなかえげつないよね……。 「ラケット、いいかな」 「あ、うん。頑張って」 我に返ったようにうなずいたさんからラケットを受け取る。 グリップの調子を軽く確かめてから、待ち切れない様子の英二のところにむかった。 「待たせたな!いくぜ、バーニング!!」 「負っけないもんね!」 英二とラリーを続けながらちらりとさんを見ると、また何かをして笑っていた。 ……いつも笑ってるから、余計に心配になるんだよなあ。 「ほいっ!」 「うらぁ!」 前に、何かの本で読んだことがある。 いつも笑顔でいる人は、本当はとても不安定だと。 世の中には、笑顔でいることで自分の負の感情を押しこめている人もいると。 ……不二もそうなのか?と思った記憶がある。 「グレイトォ!」 「うわっ 英二がボールを取りそこねた。 ぐいと腕で汗を拭った英二が、悔しそうに口をとがらせる。 「むー……悔しい!」 「ははは……でも、動きはよかったじゃないか」 「まあねん」 無理をしないでほしい、ただそれだけを思う。 頼りないかもしれないけれど、それでも。 俺達は、いつも笑顔でいろなんて、強制してはいないから。 「ちゃん、楽しそうだにゃ」 何がどうなったのか、何故か越前を追いかけているさんを見ながら、英二がうらやましそうに呟く。 「行ってくれば?」 「そうする!」 ぱっと笑顔になって飛んで行った英二を見送っていたら、その勢いのままさんに思いっきりタックルしていた。 痛そうだな……。 |