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ガキの頃は誰でもよくやった。 成長するにつれて、だんだんとそんなことはやらなくなっていって。 丈比べ 「え、嘘、やった!」 向こうからはしゃいだ声が聞こえて振り向くと、さんが金田さんの前で跳ねていた。 横では部長が少し呆れたように笑っている。 「どうしたんですか?」 微妙な光景が気になって、練習を中断して(観月さんがいないことも確認して)そちらに向かった。 「あのねあのね、今背比べしてみたの。そしたらね」 なんと。 「私、金田君より背が高かったの!」 「二人とも靴をはいてるんだから、そもそも正確じゃねえだろうが。特にお前はヒールだしな」 大はしゃぎのさんに、部長が即座に鋭い突っ込みを入れた。 「何よ、テニスシューズだって上げ底みたいなもんじゃない。トータルではそんなに変わんないもん」 子供のように(いや、実際俺達はまだ子供だけど)頬をふくらませて、さんが部長に抗議をする。 年上なのに、そんな姿が可愛いと思ってしまった。 さんは、可愛いと言われるのがあまり好きではないようだ。 前に一回理由を訊いたら、「自分よりも数百倍美人さんや可愛い相手にんなこと言われたって、タチの悪い冗談にしか聞こえないって。みんな私をからかって楽しんでるんでしょ!?」とか、文句とも愚痴ともつかないことを言われた。 確かにさんは、際立って美人でも目立って可愛くもない。 どちらかといえば、普通よりもちょっと上というところだろう。 でも、可愛さってのは、そんなものだけで決まるものじゃないだろう。 俺達は男友達を、性格や言動の外見とは違う面を見て、何の違和感もなく格好いいと思う。 それと同じように、さんもやっぱり、可愛いと言えるんだろう。 それにさんは、ちゃんと俺自身を見てくれる。 「不二周助の弟」ではなく、「不二裕太」を。 地方から来たばかりで、アイツを知らなかった観月さん達とは違って、アイツを知っていても。 自分がやられて嫌なことは、基本的にやらない主義なんだって笑っていた。 「ね、ほら。あんまり変わらないでしょ?」 いつの間にかもう一度金田と背中をくっつけあっていたさんに同意を求められ、とりあえずうなずいておく。 「ほら!裕太君だってこう言ってるじゃない!」 満足げにそう言うさんは、やっぱり子供っぽかった。 そういえば、俺もガキの頃はよくアイツとやっていた。 姉貴に見てもらって、いつでもアイツの方が勝っていて。 たった一つでも、年の差の大きさというものを実感していた。 テニスでも、喧嘩でも、何気ない日常でも。 俺はいつでもアイツに手を引かれて歩いてきた。 「裕太君」 アイツはいつだって、俺のずっと前を余裕で歩いていて、俺は必死でそれを追いかけている。 永遠に続くように思える、追いかけっこ。 俺はいつだって、一段高い所にいるアイツを見上げて、先を行くアイツの背中を見ていた。 いつになれば 「裕太君ってば」 ぐいと腕を引かれて、自分の思考に沈んでいたことに気づく。 慌ててさんを見ると、案の定少し拗ねたような顔をしていた。 「すいません、ぼーっとしてて……何ですか?」 「背比べ、しよ」 「 思わず間抜けな声を出してしまった。 どう考えても、俺の方が高いだろう。 「今ね、ルドルフのみんなの高さを比べてるの。今のところ、野村君→金田君→観月君→柳沢君→赤澤君だよ。裕太君はどこに入るのかなあって」 「はあ……」 そんなもの、観月さんに訊けばすぐにわかるだろうと思ったけれど、早く早くと楽しそうに急かすさんに水をさすのもどうかと思ったので(後で訊いたら、他のみんなも同じような考えだったらしい)とりあえず素直に背中を合わせた。 男とは違う柔らかい感触に、どきりとする。 「赤澤君、どれくらい違う?」 「ちょっと待ってろ」 後頭部に軽く何かがあたる。 多分、部長の手だろう。 「ほら」 目の前に差し出された部長の指の幅(=身長差)を見て、さんは何故かしげしげと俺を見た。 「裕太君って、不二君よりも背が高いんだね」 「え?」 「うん、そう言えばそうかも。話す時の首の角度、裕太君の方が大きいもんね」 何やらやたらと納得しているさんに、思わずせきこむように尋ねてしまう。 「 「うん。170いってないと思うよ」 いつの間に、俺はアイツを越えていたんだ? 「情けないねえ、お兄ちゃんの方がちっちゃいってのも」 からからと笑ったさんは、不意にきょろきょろと辺りを見回した。 「淳君、どこ?あとはあの人だけなんだけど」 「さあなあ……」 部長がひょいと肩をすくめると、さんが頬をふくらませる。 「あーつーしーくうううんっ!!出てこいこのハチマキ!!」 ああ、それ禁句……。 あのハチマキは強制なんてすってば。 |