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あの人は時々、ぐっと大人びた表情を見せる。 そしてその度に、俺はあの人との差を突きつけられるような気がしてならない。 遠い 「ゆーしー」 ああ、今日もまた来た。 忍足さんの親友(らしい)、さん。いつもとても女の子らしい服装でやってくる(その割に行動は思いきったものが多いが) どうやら記憶喪失らしいが、そんなことは微塵も感じさせないほど明るい。 「おう、どないしたんや」 「今日は遊びに来たの。差し入れつきだよ」 ほら、とさんが紙袋を持ち上げてみせた。 ……お願いですから、準レギュラーのコートの真上で話さないで下さい。 どうせレギュラーの分しかないんでしょう? 「お、気ぃ利くやん。中は?」 「おば様に教わって作ってみたの。マフィンとブラウニーv結構うまくいったから、持ってきちゃった」 ……聞きたくなかった。切実にそう思う。 誰だって、好きな相手の作ったものが他の男の口に入るところなんて見たくもないだろう。 「自分いくつ作ってきたんやねん!多すぎやで、これは」 「えへへへ、2、30個かな?実はいっぱい作りすぎちゃってさ、困ってたんだよね」 「これなら準レギュラーにも余裕で行き渡るやん」 忍足さんの言葉を聞いた瞬間、内心で喜ぶ自分がいた。 ……俺もまだまだだな。 「あ、監督!こんにちは、お邪魔してまーす」 「ああ、別に構わない」 練習の様子を見に来た監督にお辞儀をしたさんは、ほてほてと監督に近づいていく。 「監督もよろしければどうぞ。マフィンとブラウニー焼いたんです」 嬉しそうに箱を取り出して差し出したさんから、監督はブラウニーを1つ受け取った。 「気の済むまでいなさい。行ってよし!」 どうやら監督は、さんを気に入っているらしい。一般人と扱いが格段に違う。 あの監督まで手懐けるとは、さんはすごい。 「それはそうと。、ちょい耳貸し」 不意に忍足さんが真面目な表情になり、さんを手招きした。 何事かを耳打ちされたさんは、どこか少し憂いを秘めた表情で笑う。 「ううん、大丈夫。まだ平気」 それは、普通の中3ではけしてできないような表情。 ひどく大人びた表情は、あの人と俺との距離を明確に描きだす。 「 思わず悪態が口をついて出た。 さんはもうすでに忍足さんと共にレギュラーのコートに行ってしまい、姿が見えない。そのことがさらに俺をいらいらさせた。 忍足さんと親友なのは知っている。 それでも、あの人が忍足さんしか頼らないという事実に、苛立ちを抑えられない。 「日吉ぃ、何か荒れてんなぁ」 「黙れ」 いつもの調子で話しかけてきた奴を睨んだら、びびってそれ以上何も言わなくなった。 「こんにちは、ヒヨ君」 だから、こんなにも近くになるまで気づかなかった。 「 「あ……あれ?ヒヨ君?」 驚いた。 いつの間にここまで来たんだ?この人は。 とりあえず、俺の目の前でひらひらさせているさんの手をつかんで、動きを止めさせる。 「聞こえてます」 「あ、そう?よかった、全然反応ないからどうしたのかと思ったよ」 「ところで、いつの間にここへ?」 「んー?レギュラーのところ行って、わざわざ入り口まで回るのめんどくさかったから、あそこからていっと」 「やめてください」 無邪気に笑いながらとんでもないことをしでかすんだ!? 「いいですか?貴女は今スカートなんですよ?そんな格好であんな場所から飛び降りるなんて、なんてことをしてるんですか」 空気の抵抗というものを考えないのだろうか、この人は。 「えー?平気だよ、だってこのスカート長いし。マリリン・モンローじゃないんだから、中が見えるなんてことないよ」 さんは口をとがらせて、めんどくさいと文句を言う。 少しはこちらの気持ちも考えてください……。 「それよりヒヨ君、これ準レギュラーのみんなで食べてね」 そういって差し出されたのは、さっき見た箱。中は多分(というか絶対)マフィンとブラウニーだろう。 「あのね、もう監督とレギュラーにはあげてきたの。それで、ヒヨ君にも仲良くしてもらってるからあげたいなあって思って……。でも、準レギュラーで1人だけ渡すとひいきみたいでしょ?だから全員にいくようにいっぱい作っちゃった。何人いるかわかんなかったから、もしかしたら余っちゃうかも」 内緒ね、と笑って、さんは身を翻す。 もう帰るつもりなのか? 思わずその腕をつかんでいた。 「え 「…………」 「な、なななな何でございますでしょうか若君!?」 ワカシ、クン。 初めて名前を呼ばれた。体中の血液が逆流しそうだ。 「 そう言ったら、さんは赤い顔のまま「どういたしまして」と笑った。 「今度感想聞かせてね。また新しいの持ってくるから!」 さんが帰った後で準レギュラーの奴らに差し入れの存在を知らせたら、全員が我先にと中身を奪い取っていった。 うまいうまいと異様に感激して瞬時にたいらげた後、余ったものの争奪戦まで繰り広げている。 ちなみに、食べてみたら確かにおいしかったが……。 何となく、おもしろくなかった。 |