私の友達……いえ、親友のちゃんはとっても不思議。
初めて会ったのは、ストリートテニスのコートで。
買い物帰りのビニール袋をぶら下げて、私が打ったスマッシュに「すごい!」って目をきらきらさせて。その後すぐに赤くなった。
あんなとこに女の子が来るなんて珍しかったら、嬉しくてつい声をかけた。
それが、私達の出会い。






見えない






年上だって知ってびっくりしたら、ちゃんは気にしないでって笑ってくれた。
それよりね、って悪戯っぽい笑顔になって、記憶もすっぽりないんだって教えてくれた。

まるで、何でもないことのように。

どうしてなのかしら。
どうして、そんなに大変なことを平気でさらりと言えてしまうのかしら。
笑っていえるようなことじゃないのに。
私なら泣いちゃうかもしれないのに。

「びっくりした?」

屈託のない笑顔に、嘘はひとかけらもなくて。
だから私は、「うん」って正直にうなずいた。

「やった!あ、でもね。今の私もそれなりにおもしろおかしくやってるんだ。だから、変に気を遣ったりしないでね」
ちょっぴり拝むように片手を挙げたちゃんは、どうしても年上に見えなくて。
だから私も、笑ってうなずいた。

「ええ。よろしくね、ちゃん」

それから時々、待ち合わせて一緒に遊ぶことが多くなった。
1回なんて学校の校門の前でいきなり待ってて、すごくびっくりした。

「うふふふ、来ちゃった」

笑って言われたら、どんなに驚いてても許せちゃう。




「杏ちゃんのお兄さん?」
学校では恐れられてる兄さんにも、何の恐れもなく近づいていった。
兄さん、根は優しいから大丈夫なんだけど。
でも、あんなに懐くとは思わなかった。

兄さんに懐くなんて……絶対ないと思ったのに。
せいぜいテニス部のみんなぐらいかと。
でも兄さんも何だか嬉しそうだし、まあいいわよね。

今だって、ほら。

「お帰りなさい、桔平さん」
帰ってきた兄さんを出迎えに、わざわざ玄関まで降りてる。
ちゃん、ぱたぱた揺れる尻尾が見えるわよ……。

「何だ、また来てたのか?」
「はい」

靴を脱いで上がった兄さんにくしゃりと頭をなでられて、嬉しそうに笑ってる。
「ちゃんと、お家の方には言ってきたか?」
「はい、大丈夫ですよ」

この間うちに来た時、ちゃんはついうっかりそのことを忘れてきたみたい。8時近くになるまで2人で遊んでたらちゃんの携帯が鳴って、私にまで聞こえるほどの声で相手が怒鳴ってた。
どうやら、心配して電話をよこしたらしいけど……ちゃんは必死に謝ってた。

過保護よね、その人も。うちの兄貴もいい加減そうだけど。

ちゃんの私生活は結構謎が多いから、その人がどんな人なのかはわからない。
でも、大事にされてるなあっていうのはひしひしと伝わってきた。

「桔平さん、今度不動峰のテニス部身に行っていいですか?」
「あ……ああ、別に構わないぞ」
いい?いい?って、全身でお願いしてるみたい。
あれじゃ兄さんも断れないわよね。

「ね、杏ちゃん。私が桔平さんとこに行ったらさ、帰りにケーキ食べよ!この間ね、すっごくおいしいお店に連れてってもらったの」
ひとしきりはしゃいだ後、ちゃんはこんな嬉しいことを言ってくれた。

ケーキかあ……最近食べてないわね、そういえば。

「ええ、もちろん!」
「やった!あ、私おごるから!」
思いがけない言葉に、慌てて手を振る。

「え!?いいわよ、悪いじゃない」
「いいからいいから。私が誘ったんだから、それぐらいはさせてよ」

こういうとき、ちゃんは絶対に「年上だから」なんて言わない。
そこも好き。

「やった、杏ちゃんとデートv」
「デッ……!」
あらあら、兄さんがびっくりしてるわよ、ちゃん。

「え?何をそんなに死ぬほどびっくりしてるんですか?桔平さんたら」
ナチュラルに何もわかってないのがちゃんよね。
私は「デート」の意味が何となくわかってるから、別にいいんだけど。

、お前   っ!」
ああ、兄さんたら混乱してる。

「2人でお出かけするからデートですもん。ねー?」
「そうよね」
2人で顔を見合わせて、にっこり笑って。
横を見たら、兄さんが真っ赤になって、口をぱくぱくさせてて。

……楽しいかも。


もしかしてちゃん、兄さんの反応を楽しんでたりする?


後でこっそり訊いたら、悪戯っぽく笑って「時々ね」って言った。
うーん、やっぱりちゃんは奥が深いわ……。