寒い夜は、人のぬくもりが恋しくなる。
それは気温だけじゃなくて、心がであっても。
それがわからないほど、僕は鈍くないよ?






ぬくもり






越前の家に居候している、ちゃん。
どうやら15歳らしい。
どうやって年がわかったのかは疑問だけど、本人が主張しているからとりあえずそうなんだろう。

今日も英二に呼び出されて、テニス部に顔をだしてる。

ちゃーん!」
「はーいはいはい!」

英二に呼ばれて、忙しそうに走り回っている。
大変だね、本当に。

「不二君も!笑ってみてないで手伝ってよー!!」
「はいはい」

仕方ないな。
まあ、元々彼女はテニス部関係者じゃないし。

手伝わせてるこちらが申し訳なく思うべきなんだろう。うん。

「不二君、早くーっ!!」
「今行くよ」


一体何かと思ったら、ボールの色分け作業だった。


「そっちが青、これが赤、あっちは黄色。これペンね。はい、やって!」
「何でレギュラーが……」

ぶつぶつと文句を言っている桃の頭に持ってたボールを投げつけて、ちゃんはじろりと桃を睨む。


「あんた達が練習に使うんでしょ!自分のものは自分でやんなさい!!」
「……はい……」

ふふふ、桃もちゃんには勝てないか。

「不二君、何笑ってるの?」
おっと。ちゃんには逆らえないな。

「別に?笑ってなんかいないよ」
「嘘つき。笑ってたでしょ」

鋭いんだよね、妙なところで。
普段は結構抜けてるくせに。


でもね、僕も結構鋭いんだよ?


ちゃん、今日はあんまり元気がないでしょ?
ため息の数がいつもより多いよ。


ちゃん」
「何?」

呼べばいつも通りに振り向くけど……まだ表情が優れないね。

「……ううん、何でもないよ」
微笑んで、ボールの色分けを再開した。


これで既に布石は敷いた。
後の予想は充分ついたから。




全部の色分けが住んで休憩してたら、案の定ちゃんが近寄ってきた。

「ねえ、不二君。さっき、何言いかけたの?」
「さあ……何だろうね?」

意味ありげに笑ったら、思った通りに背後から抱きついてくる。

「教えてよー、けち!」
「そう言われてもね……」
「けちけちけちけち!」

少し怒ったような声。
首に回された腕にぐっと力が入って、ぶら下がられたのがわかった。

……まあ、全然苦しくないんだけど。

ちゃんの腕に手をかけて力を入れて、上半身を前に倒す。
背中にちゃんの身体が乗った。

「うわあっ!?ちちちょっと不二君、やめてやめて」
「どうしようかな」

慌てようがあまりにも可愛くて、思わずくすくすと笑いがもれる。

「本気でやめて!多分っていうか絶対不二君私と体重同じぐらいだから!重くて潰れちゃうようきゃあ!」
「それなら、僕って結構軽かったんだね」

別に、本当にそんなに重くない。
僕、結構筋力あるしね。

「ご冗談を!おろしておろしておろして」
「ふふふ、どうしようかな」


ふふふ、慌ててる慌ててる。
可哀相だから1回降ろしてみて、ほっと一息ついてるところを今度は前から持ち上げてみた。


「ひゃあ!!」


色気ないね……まあ、そんなものは端から求めてないんだけどさ。

「うん、やっぱり軽い」
「許してください……マジで」

あ、ちょっと泣きそう。
……仕方ないなあ。

降ろしてあげたら、素早く僕との距離をとった。
でも、その背後に英二がいること、わかってる?


「不二ばっかずるーい!」
「ぅわっ!?」


やっぱりね。
のしかかると思ったよ、英二なら。

「英二君、重い」
「やだよー」

どいてって言ってる割に、ちゃんは楽しそうだ。
英二も満面で笑ってる。


うん、やっぱりちゃんは笑顔じゃないと。


彼女は特に際立って美人だというわけではない。
言っちゃ悪いけど、それなりに可愛いけれどどこにでもいそうな顔立ちだ。

それでも、雰囲気が可愛い。一緒にいて楽しい。笑顔が和む。

僕達が彼女に構うのは、多分そういう理由からだろう。
珍しく、手塚もずいぶんと彼女を気に入っているようだし……ね?


貴重な人材を手放すことは避けたい。
っていう以外にも、まだまだ個々人ごとの理由は山ほどあるけど。


とりあえず、今はちゃんが笑ってるから、それでいいかな。