星を見上げて、綺麗と笑った。
眠そうな目をこすりながら。






南十字星






地区予選が近くなってきて、練習もかなり遅くなるようになった。
自然とさんもそれにつきあって遅くまで残ることになるんだけど……。

どうやら最近は疲れがちみたいで、やたらと眠そうにしている。
あくびの回数も多くなったし、歩き方も何だかふらふらとおぼつかない。

ちゃん、大丈夫?」
「平気平気。心配無用だよ、英二君」

心配して声をかけても、さらりとかわされて終わり。

「眠そうだね。どうしたの?」
「うん、ちょっと夜更かしを……」

寝不足は美容の大敵なのに!

泣く振りをしつつそう言うのを訊いて、彼女の意思とは関係なく起こされているのかと思った。
だから、訊いてみる。

「何か、やらなきゃいけないことがあるのかい?」
「そういうわけじゃないんだけどね。勉強してたらわかんないとこだらけで、ついつい……さ」


肩をすくめて苦笑するさんの目の下には、うっすらと黒いくま。


「ついつい、じゃないよ。ちゃんと寝なきゃ駄目じゃないか」
思わずちょっと強い口調になったら、さんはだって、と頬をふくらませた。

「前にやったとこで、前はすっごい簡単にできたはずなのに、今やってみたらさっぱりなんだよ?そういうの、大石君はない?めちゃめちゃ悔しくて、こんちくしょう!って意地になっちゃうんだけど」


「……もしかして、数学?」


「イエス!前から苦手だったけど、微分積分できないってどうよ自分!」

いや、そんなに元気に言うことじゃないと思うんだけど……。って、それより。


微分積分って、中学じゃやらない気が。


「そうなんだよね。でも、できたはず!!って身体が覚えてるの」
眉を寄せて腕組みをしているけど……可愛いなりに、意外ときまっている。

「あんまりやりすぎると、眉間にしわの癖がつくよ」
「手塚君みたいに?」

無邪気に首を傾げたその問いに、近くにいた桃と英二が吹き出した。
その向こうでは不二も震えてるし、越前も小さく吹き出した……気がする。


俺も危うく吹くところだった……!



……」



「何さ、本当のことを言ったまでじゃない。大体ねえ、普通中学生でそんなのが癖になってる人なんていないって。ほどほどにしとかないと、ほんとにしわがついちゃうよ?」

いつもよりも眉間のしわが2本ほど増えた手塚が声をかけても、さんは全然ひるまない。
それどころか、腰に手を当てて難しい顔をしていた。

「せっかく元はいいんだから、そんな顔ばっかしてると損だよ。もっといい顔しなきゃ」

少し怒ったように言うと、さんはおもむろに手塚に近づいて   


両手で眉間をぐいっと伸ばした。



……空気が凍った。



「……やめろ……」
「じゃあ眉間のしわやめて」

すぱんと切り返されて、珍しく手塚も反論できていない。
その代わりにため息をついて、自分でさんの手を外した。

「寝てこい」
ヤ。後ちょっとで部活終わりだもん」
「終わったら起こしてやる。部室で寝てろ」

どうやら手塚は、彼女の言動を眠気のせいだと判断したらしい。

「やだ」

さんもさんで、一歩も引こうとしない。


……仕方ないなあ。


「無理しないで寝てきなよ。歩き方、危ないよ」
「だって……今寝たら、絶対起きられない……」
「だったら、俺が担いで行ってあげるから。ほら」

「えー……」

不満そうにしながらも、背中を押すと素直に歩き出した。

「これ、貸すよ。終わったら起こすから、ゆっくりお休み」
「うんー」

ジャージの上着を貸して部室に鍵をかけて、ようやく普段の部活風景に戻った。

「やっぱり、ちゃんが変だと調子が狂うよね」
「そうだにゃ!」


そんなことを言いながら部活をやって、あっという間に終了時間。

、起きて。着替える」
「んー……リョーマ?これ頭からかぶってるから、このまま寝かせて……」



越前がいくら声をかけても起きようとしない。
仕方がないから全員でそそくさと着替えて、結局俺が背負って帰ることになった。


「大石、落とさないでね」
「大丈夫だ」

背中に感じる重さをしっかりと支えて歩いていると、不意にそれがもぞもぞと動いた。



「ねえ」



いつもよりも、幼く聞こえる声。
振り向くと、さんが笑っていた。

「うえ」

指に導かれてみんなで空を見上げると、一面の星空。
彼女の指は、その中の南十字星をまっすぐに指していた。

「きれい」

眠そうにしながら、さんは小さな子供のように無邪気に笑う。
その笑顔に、思わず誰もが笑みをこぼした。

「そうだね」
不二が頭をなでると、さんは嬉しそうに笑ってまた寝た。背中の重さが増す。

「可愛いね」

小さい子供を見るような目でタカさんがそう言うと、桃も笑ってうなずく。


「そうっスね」


その日は、何だか温かい気持ちで家に帰った。