仲良く手をつないで、ホテルへタクシーで向かう。
バスよりも時間がかかりそうだったけれど、人目を気にせずに二人でゆっくりしたかった。
「お客さん、観光ですか?」
「はい。今日は南禅寺と、伏見稲荷に」
「ああ、いいチョイスですね。たくさん歩くけど、いい景色が見られたでしょう」
「ええ」
運転手さんとの会話も心地よい。
シートにもたれて目を閉じていたら、いつの間にか眠ってしまったようだった。
「さん……さん、着きましたよ」
アキラ君に優しく揺り起こされて、慌てて飛び起きる。
確かに目の前は宿泊しているホテルだし、運転手さんも苦笑していた。
は……恥ずかしい……!!
道案内も運転手さんの相手も全部アキラ君に任せてしまったわけで、でもアキラ君の方がお仕事で絶対疲れてるわけで。
私が寝てどうする、私が寝て!
ドアが開いて精算の言葉がないということは、もうすでに支払いも済んでいるんだろう。
「ご、ごめんね、今出るよ」
「ゆっくりでいいですよ。はい、バッグ」
「ありがとう……」
甲斐甲斐しく世話を焼かれて、申し訳なくなりながら急いでタクシーを降りる。
広々としたロビーは暖かなオレンジ色の照明で照らされて、なんだか気持ちがほっとした。
自分の家でもないのに、「ああ、帰ってきたなあ」と感じる。
小さく息を吐くと、聞こえていたらしいアキラ君がくすくすと笑った。
「疲れましたか?さん」
「うん……気づかなかったけど、結構疲れてたみたい」
「でしょうね。 可愛かったですよ」
「え?」
悪戯っぽいアキラ君の表情。
それがすいと耳元に近づいてきて。
「さんの寝顔。運転手さんに見せないようにするの、頑張ったんですよ?」
一気に顔に熱が集まった。
な、な、な、なんてこと……!
自分の醜態が恥ずかしいのか、アキラ君の言い方が恥ずかしいのか。
それすらもわからないくらい、ぐるぐると混乱してしまっていた。
そんな私の手を引いて、アキラ君はエレベーターに乗る。
何だか楽しそうな様子が恨めしい。
「アキラ君の馬鹿……」
「だって、初めて見れたんですよ?さんの寝顔」
「そ、そういうこと言わないの!!」
どんな意味で言ったのかはわからないけれど、それなりに成人が近い私は色々と考えてしまうのだ。
そう、色々と。
あれこれ妄想してしまう自分に自己嫌悪。
ああ、顔どころか身体中が熱い。
どうしよう、つないでいる手がじんわり汗ばんできた。
ぽーん、と軽やかな音をたててエレベーターが止まる。
部屋は結構高い階にあったはずなのに、もう着いてしまったのか。
アキラ君に誘導されるまま歩きながら、時間の流れる早さに驚く。
そんなことを考えていたからだろうか、ぴたりと足を止めたアキラ君に、うっかりぶつかってしまった。
「ご、ごめん」
「いえ、怪我はありませんか?」
こういう時も、私の心配をしてくれるアキラ君。
その優しさが格好いい。
どうして私と付き合ってくれているんだろう、そう考えていたら、アキラ君がカードキーをドアにかざした。
……ん?
「え、あの、アキラ君?ここって 」
「僕の部屋ですよ」
あっさりさらりと言わないでー!
てっきり私の部屋まで送ってくれたんだと思ってたから、不意打ちすぎてどうリアクションしたらいいのかわからない!!
そんな私の内心に気づいていない様子で、アキラ君はドアを押さえて「どうぞ」と促す。
断るわけにもいかなくて、おそるおそる中に入った。
荷物もすっきりとまとめられて、スーツケースひとつが置いてあるだけの室内。
こういうところにも、アキラ君の性格が出ている。
ソファーにそっと腰掛けると、アキラ君がジュースを持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
寝起きで喉がかわいていたから、こういう気遣いが嬉しい。
ほとんど一気飲みに近い状態でコップを空にしてしまった私に、今度はただのお水を渡してくれた。
ちゃんと氷が入っているのがアキラ君らしい。
アキラ君は椅子に座って、ゆっくりとお茶を飲んでいる。
湯飲みを持つ手は、相変わらず細くて綺麗だ。
「今日はどうでしたか?」
「私の知らない京都、いっぱい教えてもらった気分!有名所しか回ったことがなかったから、新鮮で楽しかったよ」
私の知る京都はどこも人であふれていたから、あんなに静かな場所もあるんだと驚いた。
そして、この静かさこそが本当の京都なんだろうなあと感じた。
それを教えてもらえたのが嬉しくて、つい身を乗り出してしまう。
「よかった」
ほっとしたようにアキラ君が微笑んで、ことりと湯飲みをテーブルに置いた。
「最近、忙しくて会えてなかったから……さんの笑顔が見れて嬉しいです」
照れくさそうな顔も綺麗。
佐為と一緒にいるようになってから何となく感じるようになったんだけれど、アキラ君の 綺麗さは多分、魂の輝きから来ているんだと思う。
どこまでもまっすぐで、澄んでいる魂。
アキラ君と佐為は、ちょっとだけ似ている。
そういえば、佐為はどこに行っているんだろう?
もうこんなに暗いのに。
「さん」
佐為に気を取られていたら、いつの間にかアキラ君が目の前に立っていた。
何故か緊張しているようだ。
「アキラ君?」
小首を傾げて問いかけると、そっと手をとられた。
ひんやりとした体温が私を包む。
何度も何度もためらった後、彼が口を開いた。
「キ キス、してもいいですか」
「え 」
頭の中が一瞬で沸騰した。
キス!?
キスって、あのキス!?
真っ赤になってうろたえる私を、やっぱり赤い顔でアキラ君がじっと見ている。
今まで私達は健全なお付き合いをしてきたわけで、それで私は充分幸せだったわけで。
これ以上なんて、どうなってしまうのかわからない。
けれど、以前よりもアキラ君が好きだという気持ちが大きくなっていることも確かで。
からからの喉を、こくりをつばを飲みこんで動かす。
「 うん」
両手を握りあわせてうなずくと、両肩に小さな重みが乗った。
「さん 」
いつもよりも熱っぽいささやき。
少しだけ顔を上げると、酷く緊張した面持ちのアキラ君が見えた。
私も緊張しているけれど、年相応の姿を久しぶりに見られて嬉しかった。
大丈夫、と小さく微笑んで瞼を閉じると、アキラ君の吐息が頬をかすめる。
一度。
二度、三度。
震える唇がゆっくりと触れて、離れてはまた触れて。
唇と唇が触れ合うだけなのに、どうしてこんなに幸せになれるんだろう。
泣きそうになりながらアキラ君の首に抱きつく。
「……だいすき」
「僕も大好きです、……さん」
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