パーティーは思ったよりもにぎやかだった。
そんなに人数が多いわけではないのに、ヒカル君と和谷君が明るい性格だからだろうか。
全員仮装しているから、もちろんお菓子をくれる人はいない。
持ち寄ったお菓子をつまみながら、碁の話をしたりメイクの話をしたり。
碁関連には全然混ざれない私には、女性陣とヒカル君が積極的に話しかけてくれた。
藤崎さんはおしゃれに興味津々らしく、アイシャドウと口紅について色々訊いてくれる。
「その色、すごく綺麗ですね!ブラウンなのに、ピンクよりいいかも。どこのですか?」
「ありがとう。多分、藤崎さんにも似合うんじゃないかな?デパートで売ってるの」
愛用しているパレットを誉められるのは、やっぱり嬉しい。
似合うブラウンを見つけるまで、ずいぶん紆余曲折をしたなあ……。
和やかにしゃべっていたら、この格好にも慣れてきた。
だから。
「さん」
「はーい」
ヒカル君に呼ばれても、普通に返事をしてしまったのだ。
くるりと振り向いた先にいたのは アキラ君。
黒一色の衣装はぴったりと身体を覆っていて、一瞬神父様かと思ってしまった。
けれど、神父様にしては、マントの裏地がやけに毒々しくて。
ぴんと立った襟と、ワイン色の裏地がついたマントから導き出せるものはひとつだった。
「……ドラキュラ?」
「そ!血糊もつけてやろうかと思ったけど、さんがマジでビビるからやめろって、アキラがすげぇ剣幕でさあ」
「うん、さすがにそれはビビるかも……」
ヒカル君なら顔の半分が血みどろとかやりそうだ。
むしろ、頭から血糊のバケツをぶっかけそうだ。
いい年をして血糊にだまされて泣くのは遠慮したいので、アキラ君に感謝しなければ。
密かにそう思いながらアキラ君を見ると、何故か顔が真っ赤だった。
何に照れているのかと首を傾げた瞬間、大股で近づいてきた彼が自分の肩に手をかける。
「……え?」
「 お願いですから、じっとしていてください」
黒いマントで、すっぽりと身体を覆われて。
ため息のように呟かれた言葉は、微妙にかすれていた。
「他の男に見せたくないんですよ……」
言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
わかった瞬間、一気に顔が熱くなる。
どんな格好をしてるのか、完全に忘れてた……!!
「ご、ごめ」
「さんが悪くないのはわかってますから。マント、脱がないでくださいね」
「うん」
小さい子供に言い聞かせるようにお願いされてしまって、情けなくなりながらうなずく。
よくよく考えれば私、すごい格好してたな……。
佐為も教えてくれればいいのに あ、着替えるときに追い出したっきりだった。
放置しっぱなしだったと慌てて辺りを見回したら、ヒカル君の後ろにくっついて、楽しそうに彼らの話を聞いているようだった。
佐為ったら、本当にヒカル君のことが好きなんだから。
いつか、二人が何もしなくても話せるようになればいいな。
だってほら、ヒカル君だって時々視線が泳いでいる。
斜め上、ちょうど佐為がいる高さの辺りを。
そんな二人を見つめていたら、不意に強く腕を引かれた。
「うわっ」
「……さん、こっちに」
「え?え、あ、うん、あの、ちょっ」
「早く」
言葉少なに前を行くアキラ君。
いつもの彼らしくない強引さに戸惑いつつも、何となくついて行った方がいいんだろうなあと思う。
ぐいぐいと引っ張られるままに歩いて、とうとう2階のヒカル君の部屋まで来てしまった。
本当にアキラ君、どうしたんだろう?
歩くのをやめても何も言ってくれないのに少しだけ困っていたら、大きなため息が聞こえた。
「無防備すぎますよ……」
「あー……ごめん、忘れてたの」
腰のところは余っているとはいえ、ヒップはぴったりの上に、実は胸がちょっときつい。
ボディコンなの忘れてました、すいません……。
藤崎さんも奈瀬さんも魔女っ子妖精っ子だったから、すっかり自分も同じような格好だと思いこんでしまっていた。
「もう、今日はここにいてください。僕も荷物を取ってきますから」
「え?でも、まだお食事とか 」
「それも僕が持ってきます!とにかく、進藤の部屋から出ないこと。いいですね?」
「う……はい」
強く言われては反論もできない。
私もこの格好、恥ずかしいし……。
マントを握りしめながらうなずいた私に少しだけ微笑んで、アキラ君は静かに下に降りていった。
待っている時間は意外に手持ちぶさたで、何となく体育座りで膝に顔を埋めてみる。
下からはにぎやかな声が届いてくるのに、この部屋は不思議に穏やかな空間だ。
棋譜があちこちに散らかって、それでも碁盤だけは綺麗に片づいていて。
……この部屋で、ヒカル君と佐為はどんな風に暮らしていたんだろう。
アキラ君は、ここに来たことはあるのかな。
(……あ)
アキラ君の、匂いがする。
マントから仄かに香るそれは、伽羅の混じったほっとするもの。
思わず頬をすりつけたまさにその時、足音もしなかったのにドアが開いた。
「 あ」
「……あれ?寒かったんですか?すいません、エアコン入れるの忘れてましたね」
「あああああああうん、大丈夫!これ暖かいから!!」
慌ててごまかして、持ってきてくれたサンドイッチを一つもらう。
アキラ君は怪訝そうな顔をしたけれど、ひたすら笑顔でいたら、それ以上追求追求はされなかった。
「ヒカル君、アキラ君と一緒にパーティーやりたかったんだよ?私はいいから、行ってきなよ」
「さんといたいんです。進藤はどうでもいい」
「どうでも……酷いなあ」
後半は照れ隠しというか、ヒカル君に呼ばれたのが嬉しかったんだろう。
だけど、普段の二人の関係からすると、素直に喜ぶのが恥ずかしいみたいだ。
微笑ましくて苦笑したら柔らかく抱きしめられる。
さらさらの髪が首筋にあたって、少しくすぐったい。
「……もったいないから、他の人の前でそんな格好をしないでください。気が気じゃありませんよ……」
「…………ごめんね」
「 まあでも、役得、かな?」
何ですと!?
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