「芳明が……!?」
   はい……!」


息せききって飛び込んで来た静蘭は、何度も転んだように土と泥にまみれ、見覚えのある籠を抱えていた。
ぐしゃぐしゃになった手紙と小刀を見た瞬間、邵可の顔色がさっと変わる。


「黎深   !!」


拳の色が変わるほどに強く手を握りしめ、いつもは温厚な顔から絞り出すような呻き声が出た。


あの子が何をした。
あの子のどこに罪がある。
あの子はただ、私達を助けてくれただけじゃないか。
小さな掌で、数え切れない命をすくいあげただけじゃないか。


様々な感情が入り乱れ、叫び出したくなる。


   芳明は、今どこに?」
「……私が見失った時にはすでに旅仕度を終えていたので、もう貴陽を出ているのではないかと……」


申し訳ありませんとうなだれた静蘭の肩に手を置き、邵可は小さくかぶりを振った。


「よく、知らせてくれたね。ありがとう、静蘭」
「いえ   私は何もできませんでした」


あの少女を力づくで止めることも、この屋敷に連れてくることも。
できたはずなのに、あの不思議な瞳を見たら、指一本動かなかった。


「黎深には、私からよく言っておくよ。芳明は   何としても、貴陽に帰ってきてもらう」
   はい」


いつになく固い決意を秘めた邵可の言葉に、静蘭も強くうなずく。


必ず帰らせて、叱ってやらなければ。
あなたが屈することはなかったのだと、何故自分達を頼らなかったのかと。


あどけなさと大人びた部分を持ち合わせた少女を思い出して、静蘭は拳を握りしめた。