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何だかよくわからないけれど、ヒュプノスさんたちにお父様からのプレゼントを届けてもらってから、聖域の皆さんとの関係もなかなか良好になってきた。 ムウさんに「さすがはですね」って頭をなでられたけれど、正直褒められた気がしないのは何故だろう……。 そんなことを思い出しながら薔薇にお水をあげていたら、ずかずかと蟹さんがやってきた。 「おう、ここにいたか」 「こんにちは、蟹さん」 「その呼び方はやめろっての!アフロはどうした?」 「アフロじゃなくて、アフロディーテさんです!!今日は任務だか何だかで、沙織さん共々お出かけですよ」 行ってくるねと微笑んだアフロディーテさんは本当にきらきらしていて、気絶するかと思った。 長い髪を後ろで束ねて、黒のスーツをぴしりと着こなして、美人すぎてどうしよう……! 本当に倒れそうになって抱きかかえてもらったのは、2人だけの秘密だ。 ムウさん以外にばれたら、馬鹿にされるにきまっている。 考えるだに赤面もののシーンを思い出して、また顔が熱くなってしまった。 必死に元に戻そうとしているうちに、気がつけば蟹さんのものっそい悪どそうな顔が目の前に迫っている。 ちょっと、近い近い!! 「ちょちょちょちょ、蟹さん、ちょおおおおっと近すぎかなあなんて思ったりして……!」 「そうかそうか、アフロはいないのか。そりゃいいや」 「は?いや、私的には全然よくない気がするんですけど」 「お前、双魚宮以外には入った事ないんだろ?」 そのまま殴られるなりなんなりすると思っていた私は、唐突な問いに目を瞬かせる。 「はあ、まあそうですけど。下りる機会も上る機会もありませんし」 「んじゃ、俺の宮に来てみるか?」 「蟹さんの?」 「デスマスクだっつってんだろ」 蟹さんの守護宮(いまだに何を守っているのかは不明だ)って、どんなところなんだろう。 外から見ると全部同じに見えるけれど、やっぱり一つ一つ違うものなんだろうか。 「アフロのガードが固くてな、今まで連れ出せなかったんだよ」 「シュラさんとかムウさんとかは、時々お庭でお話したりしますけど……」 「馬っ鹿、あいつらは特別だろ?」 がすりと頭を殴られた(どうして!?) ものすごく痛いけれど、何か蟹さんにとって言ってはいけないことを言ったのだということはわかった。 後頭部をさすりながら恨めしく見上げても、蟹さんはどこ吹く風だ。 「んで、来るのか?来ないのか?」 「……行きます」 どんなところか、知りたいのは当然だろう。 後から考えるだに、にやりと笑った蟹さんの企みを、本当ならばそこで気づいておくべきだったのだ。 そんなことを後悔したのは、実際に巨蟹宮に足を踏み入れてからだったのだけれど。 「ヒィ!!何ですか何ですか何ですかこれ!!」 真っ暗な空間に浮かぶ、人の顔顔顔顔顔顔顔。 そこだけほのかに青白く発光するのはやめてください、お化け屋敷なんて鼻で吹いて飛ばせるほど怖いから!! しかも床に生えるのはやめてください、ウッカリ踏み付ける度に泣きたくなるから!! 踏みつけた時に叫ぶのやめてください、心臓止まるから!! 半泣きどころか泣きながら叫ぶ私を見て、蟹さんは大喜びだ。 「ぎゃはははははは!!やっぱ最っ高だわ、お前!!」 「やだやだやだやだやだやだやだやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もうやだ何なのこれありえない早く消えてむしろ私が消えるべき!?」 ばっしばっしと床を叩いて笑い転げる蟹さんに訴えても、何とかしてくれる様子は全然ない。 ならば自力で脱出を!と思ったら、首根っこをガッツリつかまれてしまった。 「なぁに逃げようとしてんだよ」 「逃げさせてくださいお願いですから!ほんと心臓もちませんって!」 「駄目にきまってんだろ、おもしろくねえじゃねえか!」 「鬼だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 泣き叫ぶ私、笑い転げる蟹さん。 地獄絵図も真っ青だ。 誰か助けてと神様に祈った時、まさに神様の声が聞こえた。 「デスマスク、騒がしいぞ 蟹さんの動きがぎしりと止まった。 その隙に超高速で振り向くと、そこにはスーツ姿のアフロディーテさん。 「たたた助けてください、アフロディーテさん!!」 うわぁん!!と泣きながら必死に手を伸ばしたら、すぐにその手を取ってくれた。 そのまま蟹さんから救出され、すぐさまアフロディーテさんの後ろに回りこんで背中にしがみつく。 「怖かったですー!!」 マジ泣きしている私の頭をなでて、アフロディーテさんが美しい眉をそっと顰めた。 「どうしたんだい?」 「蟹さんが、こんな超絶お化け屋敷に無理矢理押しこめたんです……!」 「へえ……」 アフロディーテさんの周りの空気が、ざわりと動いた気がした。 何だろうと顔を上げようとしたら、振り向いたアフロディーテさんの胸に押しつけられる。 「怖かったね、。もう大丈夫だよ」 「あ、ありがとうございます……」 確かにもう、怖くない。 怖くはないけれど、スーツマジックも相成って、別の意味で心臓が止まりそうだ。 そんな私に微笑みかけて、アフロディーテさんはゆっくりと私の髪をなでる。 頑張れ私、頑張れ私の心臓。 「目を瞑っておいで、。今これを消すから」 「あ、はい」 言われた通りに目を閉じると、頭の後ろの方で風を切る音が聞こえた。 同時に蟹さんの叫び声が聞こえたけれど、多分石を投げられたか何かだろう。 「さあ、もういいよ」 言われておそるおそる目を上げると、確かにあの顔は綺麗さっぱり消えていた。 その代わりに、蟹さんが仰向けに倒れている。 「蟹さんはどうしたんですか?」 「寝てしまったようだよ。放っておけば問題はないよ」 「ふうん……あ、胸元に薔薇がありますよ!!」 「ああ、飾ってやってみたんだ。綺麗だろう?」 「はい!」 真っ赤な薔薇を胸に咲き誇らせて、蟹さんは話し声にも気づかずに眠っている。 これ以上騒ぐのもよくないだろうと思って外に出ると、アフロディーテさんが手を差し出してくれた。 一体何かと首を傾げた私に、アフロディーテさんはとろけるような微笑を浮かべる。 「双魚宮まで、が1人で歩くのは無理だからね。おいで」 「……ええと、おいでと言われても……」 もしやの姫抱き? ありえない、恥ずかしくて死ねる。 必死に抵抗したけれど、結局姫抱きをされてしまったのは……まあ、言うまでもないだろう。 (溺愛しすぎなアフロ。そしてやっぱりデスはやられキャラ) |