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「よう、」 「あ、お帰りなさーい」 サガさんとそっくりな顔がひょっこりと現れて、反射的に顔がほころんだ。 サガさんは真面目すぎてちょっと怖いけれど、このカノンさんはとても面白くていい人だ。 意外にも面倒見もいいらしく、いろいろとお世話になっている。 「お久しぶりです!最近見ませんでしたけど、どこか行ってらしたんですか?」 「日本にな。城戸財閥の本社で、まあいろいろとやってきた」 「世界中に影響力がありますもんねえ……お疲れ様でした」 スーツをラフに着崩したカノンさんは、さらにネクタイをゆるめながらどっかりと床に座りこんだ。 見るからに仕立てがよくて高そうなスーツだけど、大丈夫なんだろうか。 汚れたら大変な気がするけれど……。 「ったく、別に俺じゃなくてもできる仕事だってのに……」 「カノンさん達、沙織さんのSPも兼ねてますもんねえ。皆さん忙しそうですよね」 「聖戦前よりも、ある意味忙しいかもな」 こきこきと首を鳴らしながら、カノンさんがうんざりとしたようにため息をついた。 「ったく……俺は元々身体を動かしてる方が性に合ってるっつうの」 「肉体派って感じしますもんね、カノンさん」 逆にサガさんは頭脳派という感じがするけれど、アフロディーテさんみたいに戦う方もすごいんだろうなあ。 細身の人もいるのに、みんな戦う人だなんて信じられない。 「双児宮に帰らなくて大丈夫なんですか?」 「ん?ああ、お前に土産だ」 放り出していた鞄から日本の菓子包みを取り出したカノンさんが、無造作に私に渡してくれる。 「お前、日本から離れて久しいだろう?そろそろ和菓子でも食いたくなる頃じゃないかと思ってな」 「食べたい食べたい!食べたいです、ありがとうございます」 ナッツのお菓子とかチョコとか、そういう素朴なお菓子も確かにおいしい。 だけどやっぱり、和菓子の上品な甘さが恋しくてたまらない! 大喜びで箱を開けると、最中や練り切り、干菓子など、色々な和菓子が入っていた。 「おいしそう!ありがとうございます……!」 ああ、この練り切りのなめらかな表面! ぱりぱりの最中の皮! やっぱり最高、和菓子!! 食い入るように箱の中を見ていたら、カノンさんが大笑いして私の頭をなでた。 「やっぱりお前はおもしろいな!見ていて飽きない」 「それ、どういう意味ですか?」 少しむっとして眉根を寄せると、カノンさんがくしゃりと目を細めた。 「……お前を見ると、幸せに育った普通の20代はこうなのかと、実感する」 「 「俺達はそんな風に、素直に感情を表すことはしてこなかったからな」 懐かしむように遠くを見るカノンさんが、ひどく遠くに思える。 どうしようと無性に焦って、結局出てきた答えは何とも情けないもの。 「……カノンさん、お茶にしましょう!」 「……はあ?」 「この間、ミロさんに日本茶いただいたんです。ちょうど和菓子もありますし、よかったら一緒にお茶しませんか?」 甘いものを食べて、緑茶を飲んで、まったりすれば気が晴れると思ったのだ。 一生懸命カノンさんを見上げると、拍子抜けしたような顔でうなずかれた。 そうと決まればと、超特急でテーブルをセッティングして(アフロディーテさん、勝手にごめんなさい!)、キッチンで緑茶を淹れる。 「どうぞ!湯飲みがなくて、ティーカップとかいう邪道な器ですけど……」 ついでにいえば、お茶受けのお皿もかなり邪道だ。 まあそこは、外国だということで! 「カノンさん、何がいいですか?」 「ん?……ああ、じゃあその椿を」 「はあい」 形を崩さないように、そっと受け皿に練り切りを置く。 その横にそっとティーカップを添えると、カノンさんはそれは優雅に一口飲んだ。 「……相変わらず、独特の味がするな」 「嫌いですか?」 「いや、そうでもない」 かぶりを振ってもう一口飲んだカノンさんが、練り切りを食べて目を細める。 「、日本人はいつもこんなものを食べているのか?」 「いえ、ケーキとかクッキーとかもよく食べますよ。ただやっぱり、和菓子を食べると心がほっこりしますね」 餡の優しい甘さが、日本人っていいなあとしみじみ思わせるのだ。 ……いや、あの、餡子があんまりたっぷりだと、しつこくて逆に泣きたくなるけど。 お砂糖で餡子をガッチリ固めてある、山形の某銘菓とか、一口でギブアップだけど。 「そうだ、沙織さんにも持って行ってください!きっとお仕事頑張りすぎて、疲れてますから」 「アテナに……?」 「あ、あれ?もしかして沙織さん、和菓子あんまり好きじゃないとか……?」 なんとも微妙な反応をされて、日本人でも和菓子が苦手な人がいたことを思い出した。 しまった、地雷踏んだか……!? 冷や汗だらだらで緑茶を飲んでいると、カノンさんが長い指でお饅頭と練り切りを1つずつ取った。 「……では、これをもらうぞ。アテナもお喜びになるだろう」 「あ、お茶っ葉も少し持って行きますか?沙織さんなら、もっと高級品を持ってそうな気もしますけど……」 高級品どころか、最高級品を持っていそうだ。 言い出したことを後悔していたら、苦笑したカノンさんの手が頭に乗った。 「その心遣いだけで、アテナには充分だろう」 「……ですよね……」 じゃあな、と軽く手を上げて階段を上って行ったカノンさんの手には、和菓子が入った小さな箱。 沙織さんが喜んでくれればいいと、こっそり祈った。 「さん、わざわざありがとうございました!!」 「いや、あの、日本人の伝統的なお裾分けなので……」 「私もお礼をしなければなりませんね、何がよろしいでしょう?」 「いえ、お気遣いな」 「ああ、さんは色が白いから、ルビーのネックレスなどもいいかもしれませんね。アメジストも似合いそうですし、チェーンはプラチナで 「私の話を聞いてえええ、沙織さん……!!」 後日いたく感激したらしい沙織さんに殴りこまれて(あの勢いは押しかけるどころじゃなかった)、何だか大変なことになったのは、まあ別のお話。 (和菓子のために、日本からギリシャまでテレポーテーション。カノンは面倒見のいい兄貴分だと信じています) |