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「」 ちょっと来い来いと手招きをされて、さして気にせずに外に出る。 珍しいこともあるものだ、サガさんが私を呼ぶなんて。 はっ! まさか、何か怒られるようなことでも……!! ガクブルしながらサガさんについていくと、海が見下ろせる崖の傍に連れてこられた。 とかいうとサスペンスもののラストシーンを思い浮かべそうだけれど(波がざっぱーん!な断崖絶壁みたいな)、ここは緑が茂って穏やかな印象だ。 や、落ちたら即デッドなのは間違いないけど。 端っこで足滑らせたら一環の終わりだけど。 「あの、サガさん?」 「まあ、座れ」 その様子と表情から、どうやら怒られはしないようだと推測する。 一人分のスペースを空けてサガさんの横に座ると、綺麗な横顔が目に入った。 ああ、お肌荒れてる……! せっかくの美人さんなのに!(もったいない!) 今度秘蔵のサプリでも渡してみようかと思いつつ、無意識に顔をガン見してしまった。 「……?私の顔に、何かついているか?」 「 「いたんだな。よくわかった」 笑ってはいるけれど、目がマジだ。 私、明日の朝日を拝めるだろうか。 心の中で沙織さんに助けを祈っていたら、「任せてください!!」とか返ってきた気がした。 ……うん。 気のせいだよね、気のせい。 そうにきまってる。 隣でサガさんが「アテナ……?」なんてちょっぴり青ざめているのも、気のせいにきまってる。 「ええと、それで、何の御用でしょう?」 そうそう、サガさんが暇潰しに私のところに来るなんて、まずありえないことなのだ。 真面目をそのまま体現したようなサガさんは、いつ見ても仕事に忙殺されている。 たまにミロさんとか蟹さんとかを怒鳴っているのも見た。 あれは絶対、仕事をさぼっていて怒られたんだと思う。 そんなサガさんが私に話しかけるのもまた珍しい事で、だからこそ不思議でならなかった。 「ああ……」 思いだしたようにひとつうなずいて、サガさんが視線をまっすぐ前に向ける。 つられて前を向くと、真っ青な海が視界いっぱいに広がった。 この時期のエーゲ海はバカンスシーズン真っ盛りで、ここから見るだけで気持ちがよくなるものだ。 まぶしさと気持ち良さに目を細めていると、深い声が鼓膜を震わせた。 「私は立場上、お前を疑わなければならない」 「……はい」 それはもう、いくらなんでも私にもわかる。 「サガさん、教皇補佐ですもんね」 「私には、聖域を守る義務がある。ひとかけらでも怪しいものは、疑ってかからねばならない」 「ですよねえ」 私なんて、怪しいのの見本みたいなものですものね。 お偉いさんは大変だとちょっぴり残念な息を吐くと、サガさんの声が近くなった。 こちらを向いたのだろうと横を見ると、やっぱり思った通りに超美形がこちらを見ている。 「。それでも私は、個人的感情として言おう」 真顔で、サガさんの唇が動く。 「私は、お前を信じたいと思う」 「…………は?」 脳みそがショートした。 ええと、ええと、今何て言われたんだ? ものすごくありえないことを言われたような気がするぞ? 「お前を見ていれば、嫌でもわかる。お前に裏なぞあるものか」 そこで何故か苦笑したサガさんは、ゆっくりと右手を持ち上げた。 反射的に首をすくめた私の頭に、温かいものがそっと乗る。 そのままそれは数度往復して、ようやくなでられているのだと理解できた。 「何かを企んでいるものは、こんな小宇宙は持っていない」 「そうなんですか……?」 よくわからなくて首を傾げると、頭の上の手が数度上下する。 「そんなものだ。アテナからのお言葉もあることだし、近いうちに冥界への訪問許可がおりるだろう」 「本当ですか!?」 実は、聖域にやっかいになり始めてからこの2ヶ月、訪問どころか冥界のめの字も出てこなかったのだ。 もちろんその間も、お父様からは編みぐるみだの縫いぐるみだの(挑戦し始めたらしい)が定期的に送られてきている。 ちなみに、使者はいつもタナトスさんだ。 ヒュプノスさんは置いてきているらしい。 その時に私もお手紙は渡しているけれど、それだって私が書いたものじゃない。 ギリシャ語(それも古代)なんて書けないから、アフロディーテさんに代筆してもらっているのだ。 や、ほんと、内容を口述するのって死ぬほど恥ずかしいね……! 24時間テレビで感謝の手紙を直接読む人、心底尊敬するよ。 結婚式で両親に手紙を読み上げる花嫁さんも、心底尊敬するよ。 「ただし、冥界のものはけして口にしないこと。いいな?」 「善処します」 「善処では足りん!」 「あいたたたた!!」 頭に乗ったままだった手が、ぎりぎりと力を加えてきた。 冗談じゃなく痛いってば……!! 「食べるんじゃない、いいな!?」 「だだだだって、お父様の心尽くしのお料理が出てきちゃったら、つい……!!」 「ついではないわ、馬鹿者が!!」 くわっと目を見開いたサガさんは、駄目だこいつと言わんばかりにため息をつく。 「……駄目だ、やはりお前一人で冥界にやるのは不安すぎる……」 「大丈夫ですってばー」 「どこがだ! ぶつぶつと呟きながら何やら考えていたサガさんは、少しして小さくうなずいた。 「そうだな。、安心しろ。カノンを目付役として同行させる」 「いやいやいや、カノンさんが危ないでしょうよ」 「カノンは一人きりで冥界をさまよったことのある身。たいしたことにはなるまい」 「え!?そこ!?兄弟愛はどこにいったの!?」 「心配するな。あんな愚弟でも、生きて帰って来るだけの根性はあるだろう」 ものっそいいい笑顔で親指を立てそうなサガさんの背後で、地獄を這うような声がし た。 「ほう…………」 「…………カノンさん…………」 背後に黒いものが渦巻きまくっているカノンさんに、反射的に腰が引けた。 平然としているサガさんと、殺る気満々のカノンさん。 どちらにも気づかれないように、足音を殺してその場を逃げ出した。 え?その後どうなったかって? 世にもおっそろしい音が響いてきたから、怖すぎて確認できてませんて……! (そんなこんなで、サガともなんとなく和解。双子の喧嘩は日常茶飯事です。毎回異世界への扉が開いてたりして) |