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アイザックさんの弟弟子は、氷河君と言うらしい。 今年で15歳なんだとか。 中3かあ、さぞかし可愛いんだろうなあ。 「やっぱりここにいるんですか?」 「いや、俺の師は聖闘士だ。カミュを知っているか?」 「カミュさん?じゃあ、どうして 師匠と弟子で仕える神が違うものなのだろうかと首を傾げると、小さく苦笑された。 「色々あって……な」 「そうですか……」 それ以上訊ける雰囲気ではなかったので、この話はそれで終わりにする。 ただ、これだけは言わせてくれと、アイザックさんを見上げた。 「カミュさん、きっと会いたがってますよ。この間お弟子さんのお話を聞いたんですけど、ものすごく幸せそうでしたもの!今度聖域にも遊びにきてくださいね」 「……そうだな!」 一気に破顔したアイザックさんは、そのうち行くよと約束してくれた。 うん、やっぱりみんな、仲良くするのが一番だ! アップルパイの箱を開けて覗いたアイザックさんが、手作りかと驚いている。 カノンさんが「こいつが作ったんだぞ」と私の肩に手をおくと、更に驚いたようだった。 「、お前……器用なんだな。カミュと同じくらいだ」 「え?カミュさん、お料理上手なんですか?」 「シベリアで修行している間は、ずっとカミュが食事を作ってくれたぞ」 カミュさんにそんな特技があったなんて、驚きだ。 確かに弟子馬鹿な気配はあったけれど、まさか母親の役目までしていたなんて……。 「あ、でも、ミロさんにもそんな感じか」 「ミロはガキだからな」 「自由人ですよね……」 そんな話をしていたら、前方にまた人が見えてきた。 よく見えないけれど、やっぱり鱗衣(……だったはず)を着ているから、海闘士のはずだ。 「セイレーン!」 カノンさんが大きな声を出した。 セイレーン、ということは、女性だろうか。 聖域みたいに仮面はつけていないのかと思いながら近寄って、ものすごく納得した。 「ずいぶんと可愛い人を連れているな、カノン。妹か?」 男の人だった。 ……何かこのがっかり感、ものすごく覚えがある。 アフロディーテさんの時もこんな感じだったよ、確か。 切なすぎて泣きそうになりながら「違います……」と否定したら、どうやら別の意味合いにとられたようだった。 「泣くほど嫌がられているのか、カノン」 おもしろそうにちらりと笑ったセイレーンさんに、カノンさんが渋い顔になる。 「違う。お前が男だったことに泣きそうなんだろ、どうせ」 なあ?と頭を小突かれて(ちょっとだけ痛かった)、ふいとそっぽを向く。 それだけで充分答えになったようで、笑いをこらえるような声が3つ聞こえた。 「……テティスを見たら喜ぶな、それじゃあ」 「だな」 海界勢にそう言われ、カノンさんにも笑われ。 すっかりむくれてしまっていたら、セイレーンさんが笑いながら懐から何かを取り出した。 「まあまあ……?」 「はい 「今、カノンから聞いたよ。これでも聞いて、機嫌を直してくれないか」 そう言ったセイレーンさんの手元を見て、思わず目が輝く。 銀色に輝くそれは、実際には初めて見るものだ。 「フルート!!」 「正解」 口元に構えたままちらりと笑ったセイレーンさんは、一気に息を吹きこんだ。 柔らかくて綺麗な音が、耳に優しく響く。 いくつもあるボタンを器用に押しているけれど、指を置く場所を間違えたりしないんだろうか。 興味津々で覗きこんでいたら、すいとフルートを差し出された。 「吹いてみるかい?」 「……」 吹いてみたい。 ものすごく吹いてみたい。 けれど、反射的にうなずきそうになるのをこらえて、小さくかぶりを振る。 「いいんです」 どうやったら音が出るのかすらわからないし、吹けても情けない音になりそうだ。 それなら、セイレーンさんの綺麗な音を聴いていた方がずっといい。 「セイレーンさん、フルートお上手なんですね」 「音大生だからね」 「音大生……!」 セイレーンさんの答えに目が輝いた。 すごい、本物の音大生、初めて見た! ……あれ?でも……。 「いいんですか?授業とか、練習とか、ご家族とか……」 音大生と聞くと、少しの時間も惜しんで楽器の練習をしているイメージがある。 第一、ここにずっといては、行方不明だなんだと大騒ぎになるんじゃないだろうか。 世間から隔絶された聖闘士とは違って、普通の生活があるのならなおさら。 家族は心配していないのだろうかと不安になって訊くと、安心させるように微笑まれた。 「基本的に休日だけで、いつもここにいるわけじゃないからね。心配いらないさ」 「そうなんですか?」 「ポセイドン様は普段はお眠りになっているから、我々がすることはあまりないんだよ」 いい子だね、と頭をなでられて、くすぐったさに小さく笑う。 髪をすべるセイレーンさんの手つきは少しアフロディーテさんに似ていて、きっと気が合うんじゃないかと思った。 「でも、ポセイドン様は、きっと寂しくないですね」 「うん?」 「こんなに頻繁に、皆さん来てくださるんですもの!」 眠っていて会えないとしても、ポセイドンは誰かが傍にいてくれる。 お父様とのその違いが、少しうらやましい。 今も眠っているだろうポセイドンに会ってみたかったと残念に思いながら言うと、3人とも驚いたように目を見開いた。 何か変なことでも言っただろうかと首を傾げたところで、ようやくセイレーンさんが口を開く。 「 正に絶句、と言った様子でようようそれだけを言って、ぎゅうと抱きしめられた。 うう、鱗衣が当たって少し痛い……。 「本当に可愛いな、は。こちらにくれないか?」 「駄目に決まってるだろ、馬鹿!何言ってるんだ!?」 「うわあっ!?」 恥ずかしいやら痛いやらでもぞもぞと動いていたら、いきなりカノンさんが大きな声を出した。 驚いてびくりと反応すると、大きな手がなだめるように頭をなでる。 「何だ、残念」 悪戯っぽく笑ったセイレーンさんと目が合って微笑まれ、よくわからないながらもへらりと笑い返しておいた。 一体何があったのか気になるけれど、訊いても教えてくれないだろう。多分。 カノンさんの様子を見ている限り、何となくそう思えた。 (アイザックがまだ15歳だと知らないヒロイン、ナチュラルに敬語を使っています。そしてそれが不自然ではない不思議) |